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 目の前で人身事故が発生した事と誘拐された事に周囲の人は携帯で警察と救急に連絡をいれていた。
 そんな中、アスファルトとの上でうつ伏せに倒れている夕の周りには大丈夫かと声を掛ける人で溢れかえる。

「うっ……」
 
 思った以上の衝撃に脳震盪を起こしているのか、体が上手く動かない夕は無理やりにでも腕を使い起き上がる。
 赤く染まった視界に苦い土と錆の味が夕を襲う。
 ノーブレーキで突っ込まれたのに起き上がれる事自体がおかしな話である。
 この時に夕が負った傷は衝撃による打身と擦り傷であり、骨には特に異常が無い。

「おい! 君大丈夫か! 救急に連絡したから意識をしっかりと保てよ」
 
 あの事故で、意識がある事に野次馬から奇跡だ等の声が上がる。
 近くに転がっている学校のカバンからタオル出して、自分の頭から流れて顔に付いている血液を乱暴に拭うタイミングでバイクを取りに行っていた朱音と出くわす。

「おい夕! その怪我何があった!?」
「やられた、さっきの奴らに鏡花と晶を拉致られた」
「車わかるか?」
「黒い大きめな車。10人ぐらい乗れそうな車だった」
「ナンバーまでは流石に分からないよな。うちは車を追うから夕はきっちり病院に行って検査を……」
 
 朱音はバイクで車を追うためにアクセルを回すが、進む気配が無い。

「おっ?」
「朱音じゃ位置が分からないでしょ? 携帯のGpSあるから俺がついて行った方が早い」
「ついて行くって、夕の怪我は重症だぞ? 最悪私と居たら警察にお世話になる可能性もあるぞ?」
「警察より、ダチが危険な目に遭っているのなら助けに行くだけだろ?」
 朱音もファミレスの時の口調と違いかなり焦っている。
 鏡花や朱音はやんちゃをしていた頃は警察になる事があり、慣れと言うか、集団で走る事で警察に目を付けられていた。
 だが、今回は非行と無縁な少女一人が足を踏み込もうとしている事に躊躇している。
 一時的の解放感で警察に捕まり人生を損する人間を二人は沢山見てきている。だから夕を乗せて走る事に躊躇している。

「下手をすれば警察のお世話になる前に死ぬぞ? 良いのか?」
「かまわないさ。ついさっき撥ねられたばかりだしな」
 
 車に撥ねられたと言うのに本人は何事も無かったかのように振舞う夕に少し不気味がっている。
 あきらかに衣服のダメージと服に付着している血の量を見ると、まぁまぁな勢いで撥ねられている。
 タオルで血を拭うと朱音のバイクに跨る。

「知らないからな!」 
 
 と言うと朱音は夕の頭にヘルメットを被らせるとバイクのアクセルをフルスロットルする。
 
 すると、重力で体が後ろに下がる。
 いきなりの加速に前輪が軽く浮き高加速をし始める。背もたれの代わりになるシートが少しバランスを崩しそうになる夕の助けとなり、朱音の腰に手を回して落ちないように固定する。

「どうだい! うちのマッハの加速力は! 最高だろ!」
  
 高回転まで上げたバイクは高音と大量の白煙を吐きながら高加速する。警察密着に出て来た暴走族の様に朱音は走り始める。
 携帯をチラチラと確認しながら夕は正確に道を走っていくが、スピード違反、暴走行為、信号無視等の違反のオンパレードである。
 流石に赤信号の中、少しスピードを落とすのだが、高回転で空ふかしをしながら侵入していく朱音の度胸に胆が冷える。
 だが、それと同時に胸の高鳴りもあった。
 本来はしてはいけない行為というか、道路交通法に背いた行為である。捕まれば免許は無くなるし、下手をすれば成人している朱音は道路交通刑務所に入る事となるし、夕は保護観察や未成年が入る刑務所に入る可能性はある。だ
だけど、今はそれ以上に楽しいと体が感じている。
 一歩でもミスれば命に関わる事故、他人に迷惑をかけているという事、それがわかっていても、何にも縛られていない今を楽しく感じてしまっている。
 
 たまたま居合わせた警察の車両がサイレンを鳴らしながら朱音のバイクを追いかける。

「前のバイクの二人組止まりなさい!!」
「おっ! 良い所にサツのお出ましか!」
 
 なぜ良い所なのだろうと夕は思った。
 警察に追われている事態、最悪では無いのだろうかと思っていたが、その答えはすぐにわかった。
 サイレンが鳴っている事で、前に走っている車両は左右に避け始める事や、青信号で走行する車両はサイレンの音で侵入速度が遅くなる事で朱音が進みやすくなっているという事であった。

「次右! 後は相手が曲がらなければ直進で見つかるはず!」
「はいよ!」
  
 その頃、拉致をされた晶は車の後ろで縛られて転がされている状態であった。
 薬品の匂いを嗅いだ鏡花はまだ意識が戻っておらず目を閉じたままである。

「お前めんこいな」
  
晶を拉致した男性が晶の容姿をみて呟く。
「なぁ! 智樹(ともき)味見しても良いか!」
「あぁ? お前が味見する女は大概壊しちまうだろうが! その容姿で、初物ならスケベな親父どもに高額で売れるから、もう一人の女にしとけよ!」
 
夕を撥ねた車の運転手はファミレスで絡んできた銀髪の男性であった。

「こんな女みたら、隣の奴じゃ興奮しねぇよ! なぁ口なら良いだろ?」
「ったく! 仕方ねぇな! 口だけしとけよ! 壊したらお前の一生不能にするからな!」
 
手足を縛られ口に布を嚙まされている晶は抵抗が出来るはずも無く、勢い良く服を破られる。

「体格はちっちゃいわりに胸は一人前だな!」 

 白い肌を現し、薄いピンクのブラジャーが露わになる。

「ん~! ん~!!」
  
 初めて身の危険を感じている晶は自分が魔法を使えば事なき得る事をすら分からない程のパニックに陥っている。
 女性として感じる嫌悪感と恐怖が同時に押し寄せて来る。

「はっは! お前の大事なお友達は今頃死んでいるかもな!」 
 
 そう言って晶の下着に手を伸ばし始める。
 だが、この時、後ろの方からバイク音とサイレンの音が鳴り始める事で男性の手が一時的に止まる。

「ったく! 誰だ! こんな時に追われているクズはよ!!」
  
 と言うと、前の車もサイレンの音が聞こえたのか、車を寄せる。
 智樹はこの時サイレンを無視して走るか、他の車と一緒に車を寄せて走行するかを考えた。
 人を撥ねた事と拉致をした事は既に通報されている。変に目立って仲間を呼ばれるなら、一般車に紛れたほうが見つかりにくいと判断して車を寄せ速度を落とす。
 智樹はブツブツと言いながら、警察に追いかけられている人物を見ようと、顔を窓の方に向けると、目の前から飛んでくるヘルメットが視界に入った瞬間、窓ガラスが割れる音と同時にハンドルをきり、縁石に乗り上げ木に衝突して止まる。

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