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 他のエキストラの人も夕と中村の攻防に立ち見している状態であった。
 そんな中、一人の男性が声を掛けて来た。
「君を何処かで見た事があると思っていたけど、この動画の子だよね?」
 その男性が見せた動画は数時間前の工事現場の鉄骨落下動画であった。
 数十秒の動画であるが、道路を素早く走る夕の姿で、そのまま飛び蹴りで鉄骨の軌道を変える動画であった。
 そんな瞬間的な動画がとられていると思わなかったが思った以上にはっきりと映っていた。
「意外とブレが無くはっきりとうつっていますね」
 ポリポリと頭を掻く仕草で笑う。
「脚力が人間離れしていますよね? 中村さん良かったですね。本気で攻撃されていたら死んでいたかもしれませんよ」
 エキストラの男性も笑いながら中村に見せると表情が青ざめる。
 武術を嗜んでいるからこそわかる夕の異常な身体能力。
「ねぇねぇ、あのサンドバック本気で蹴ってみてくれない?」
 興味本位なのだろう。
 天井から吊るされているサンドバックは重くギシギシと音を鳴らしながら揺れている。
「高いですよ?」
 満面な笑みで、指でお金の形を作る。
「えっ! お金とるの!?」
「ダメなの?」
 きょとんと首を傾げる。
 美人が可愛らしい仕草をする事にギャップがあり、ふと目を背けそうになる。本当に夕は高校生なのかと思える姿である。
「夕ちゃん。最高級の焼肉に連れて行ってくれるって監督が言っているから全力でやってみて? 私も夕ちゃんの能力を知りたいのよね」
 純一の方を見ると、焼肉ぐらい良いわよねと顔を凄んで監督を脅している様に見えるが、高い焼肉が食べられるの     なら良しと思い、すでに空かせているお腹をさすり、焼肉を楽しみにする。
「ほんと!? さくっと終わらして、食べに行こう!」
 夕はサンドバック前に立つと軽く二回飛び、その流れで右足から踏み込みと、サンドバックの絶妙な距離に軸となる日だし足を強く床に押し付けると、そのままの勢いを生かして体を回しながら右足をサンドバックに打ちつける。
  綺麗な廻し蹴りは見ている者を魅了する程であるが、その美しさに似合わない重い音が部屋に旋律を奏でる。
 ドン!という蹴りぬいた威力は音が物語っていたが、その後になぜかもう一度似た音がした後に、無理やり引きちぎられるようなギシギシと言う嫌な音が鳴り響く。
 それは夕が蹴った40キロもあるサンドバックは部屋の天井に直撃した後に落ちて来たおとであった。
 そもそも、人の力で40キロもある物が蹴り上げられる者は居ないだろう。
 そんな異常な光景に全体は静まりかえっていた。その中で平然としているのは同じ境遇である晶だけであった。
 部屋にいる何名かは夕の蹴ったサンドバックをぺたぺたと手で触っている。
 本当は中身が軽い物だと思いたくて触っている者も居るだろう。
「純一さんこれで良いかな? そろそろお腹が限界に近いけど……」
「そうね……。もう夕食時だから、食べに行きましょうか」
 元世界チャンピョンでも夕と同じ事をするのは不可能である。そしてその光景を目の前に思考が少し停止する。
 今日はそろそろと純一が監督に話しかけようとすると、勢いよく立ち上がった事に純一が驚く。
「今日の焼肉は私がとびっきりなのを奢ってあげよう! それと、名前を言い忘れていたね。私は赤羽(あかばね) 茂(しげる)だ。これまで数々の作品を作って来たが、今回は一番面白そうなのが撮影できそうだよ!」
 赤羽茂は有名な映画監督であり様々なジャンルの作品を作って来た。
 その中には『一億玉砕の先駆け』というタイトルの戦争ものがあり、その監督が赤羽茂であり、晶がその世界に夢中になり始めた作品でもる。
「赤羽監督! サインを下さい!」
 晶は必死に用紙を探すが買い物の途中だったので、ボールペンを持っていても用紙が無く項垂れる。
「えっと、晶ちゃんかな? 私のどの作品が良かった? サインはまた近い内に撮影とかあるからその時にでも書いてあげるから、そこまで落ち込まないで?」
 この世の絶望と言う表情をしていた晶は赤羽の言葉に一筋の光を見たほどの驚きである。
「ありがとうございます! 作品は一億玉砕の先駆けという作品からファンになりました」
 そこから、作品の感想をペラペラと晶は話していくが、一度ではなく何度も見直し赤羽も少し驚くほど詳しく永遠に晶は話し込むのではないかという勢いであったが、途中で夕に止められる。
「長い」
「うっ、ごめん。つい」
 これ程まで若者が、作品に熱く語ってくれる事が赤羽は素直に嬉しかった。
「今度、良いものを用意しておくから晶ちゃんも夕君の撮影の時には一緒に来てくれるかい?」
「いいとも!」
 昔流行っていた番組の流れの様な挨拶をする晶であった。

 それからと言うもの4人は約束の焼肉屋に来ていた。
 ビルの30階程にある焼肉店で景色が良く見え、街中のイオンが美しいと評判の店であるが、かなり高額な場所となり、中々普通の人が来る事のない店であった。
 4人テーブルに晶と夕は対面に座る。
 景色を見ながら食べるとより美味しいと言われ、晶の横には赤羽で夕の隣には純一という位置である。
 
 最初にあった事は無口だった赤羽だが、晶と夕の事を気に入ったのか、最初にあった時が嘘の様に色々と仕事以外の話を振って来る。
「茂ちゃんが、まさかこんなに話す人だと思わなかった。純一びっくり」
「そうかい? これ程、私の作品を見てくれる子がいると言うのに話さないのは損であろう?」
「まぁ確かにそうだけど……」
 二人の会話を無視と言う訳でわないが、初めて食べる最上級の肉の前では若い二人は飢えた狼の様に肉を食べていた。
 
 そんな二人が知らない場所で、夕の活躍を見ていた者がいた。
「ニッポンにも私達の様に武功を学んでいる人が居るのね! おじいちゃ~ん!」
 チャイナ服の様な衣装を着たお団子ヘヤーの少女が、仙人の様に白い髭を伸ばしている男性に、携帯を見せる。
「これ、さっき上がった動画だけど、この人は内功を使っているよね?」
 皺の多い白髪の男性は少女が見せる動画を見る。
「ホッホッホッ、流石に画面越しでは内功を使っているかどうかは分からん。だが、人離れした能力を見ると、使っている可能性は高いと思うが……。実際に見ないとわからんのう」
「わかった! ニッポンに行って確かめてくるネ!」
 と言うと、少女は大自然に周りを見渡しても山と森に囲まれている場所にある大きな建物から走って出て行く。
「待て! 待つのじゃ! 春明(シュンメイ)!」
 男性の声もむなしく春明と呼ばれた女性は立ち止まる事無く姿が見えなくなる。




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