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 店を出て、純一が言う知り合いの映画監督が居る場所に向かう最中の出来事であった。
 思った以上にタピオカがお腹を満たして、満足そうに歩道を歩いて近くにあるタクシー乗り場に向かう。
 
 夕方の18時が過ぎ頃、家に戻る社会人、主婦、学生と皆がそれぞれの場所に行くために歩道に沢山の人が歩いている。
 何気ない日常の中に異変が起こり始めている事に通行人は気がついていない。
 だが、身体能力が上がっている二人には異変を聞き取る事が出来ていた。
 鉄が軋む嫌な音が……。

「あっ!」 
 
 晶が声を上げると、反対車線の歩道で、一人の幼い子供が歩道で躓いて転んでしまう。
 その時に出来た傷が痛かったのか、周囲にも聞こえる程の声で泣き始めると、母親と思う人物が子供に近寄り子供をなだめるが、それでも泣き続けていた。
 母親は買い物袋を地面に置くと腰を落として子供をなだめる。
 子供は母親にギュッと抱きつき胸元に顔を埋める姿は微笑ましいものである。
 そんな親子と周囲の通行人に低い確率の出来事に巻き込まれるのであった。
 ギィーガッコン!と耳を塞ぎたくなる金属が擦れる音が車の音や生活音より大きな音を響かせる。
 生活音の中に歪な音が混ざり始めて、近くの通行人達は足を止めキョロキョロと原因を探し始める。
 一人の男性が近くで近くの工事現場の上を見上げる。
 本来なら動くはずのない鉄の塊である鉄骨が何かしらの原因で固縛しているワイヤーでも切れたのか、ゆっくりと滑り始めていた。

「危ない!! 上だ! 逃げろ!?」

 指を刺して注意喚起する一人の男性が叫ぶ。
 男性の声で近くに居た人は上を見るや悲鳴を出し必死に逃げる人々、その母親は男性の声に気がつくのに遅れ、周りの変異に気がつき上を見ると、工事中である鉄骨が滑り始めて、落ち始めた時であった。
 ありえない出来事に母親は子供を守るように覆いかぶさる。
 逃げろと思う者もいるかもしれないが、本当の恐怖に襲われると正しい判断を選ぶ事は難しく、特に大事な物が近くにあると咄嗟に守ろうとしてしまう事があり、母親は抱いている子供を守ろうとかぶさってしまうのである。

「晶!!」
「わかった!」
 
と言葉を残すと晶は全力で彼女達の元に走り始める。 
 夕が駆けるタイミングで晶もスピードとパワーの上がる支援魔法を使う。
 周囲に居るほとんどは落ちてくる鉄骨に注目しているで、晶が魔法を使った事に気がついてないと思いたい。
 人間離れした速度で反対車線まで駆ける。
 この時、夕達と同じ歩道で居た者はすごい速度で走った夕の事を認識するだろう。
 たったの数秒であるが、全力で走り、歩道と車道の境目にあるポールを足場として片足でのって強く踏み込み高く飛び上がると、まるでヒーローが最後の大技を繰り出す様に落ちてくる鉄骨に蹴りを放つと落下してくる鉄骨は軌道を変えて、工事現場に立てているフェンスを壊しながら工事現場の方に大きな音を立てながら転がっていく。
 フェンスはあっという間にグシャグシャに曲がり、鉄骨が落ちた地面は大きく抉れ、事故の悲惨を物語る。
 こんな物が人に当たれば生存はまず不可能と思わせる。それ程まで大きな音を響かせている。
 そんな大事故が起こる直前でヒーローの様に颯爽と現れた少女は空中でバランスを崩した後に子供を庇っていた母親の近くに背中から落ちて痛がっている。

「夕! 大丈夫!?」
 
 少し遅れて晶が心配そうに駆け寄る。

「うぉぉー!? 背中から落ちた!」
 
 緊迫していた空気の中で夕は情けない声を上げながら晶に手を貸してもらっている。
 起き上がった夕はポカンと見つめる親子に話しかける。

「いや~ 無事で何よりです。お怪我とかは無いですか?」
「えっ…… 怪我は無いですが……」
 
 夕が蹴り飛ばした鉄骨と夕を交互に見る母親は相当パニックになっているのが見てわかる。
 と言うかこの出来事を見ていた歩行者や信号で止まっている運転手は時間が止まったように現場の方を凝視していた。
 不謹慎であるが、誰もがあの親子は鉄骨の下敷きになってしまうという状況であったが、ヒーローの様に颯爽と現れて親子を助けてしまった。
 
 誰もが一度は憧れたヒーローがその場にいるのだ。

「そう、綺麗な顔に傷が無くて良かったですよ」
 
 そっと夕はへたり込んでいる母親に手を貸して起き上がらす。
 その隙に晶が子供の擦り傷をバレないように治す。
 あまりの出来事に傷を治された事も気がつかない程の事件だとうかがえる。
 夕のキザなセリフにうっとりとしている母親であったが、夕の後ろに突如現れた純一の姿にハッと我に返る。
 
「助けてくださって本当に有難うございました!」
「気にしないで、たまたま通りかかっただけですから」
 
 まるで漫画の中に出てくるワンシーンの様である。 
 母親は顔を赤く恋をした女性の様に夕に蕩けた表情を向けている事に晶は見逃さなかった。

「まぁ、怪我も無く無事だったし、俺達はタクシー乗り場に向かうとするか、早く焼肉食べに行きたいからな」
 
 夜に食べる焼肉の事を思い浮かべながら夕はタクシー乗り場に歩いて進み始める。その姿に慌てて晶は夕の後ろを付いていくが、純一は母親や子供の様子を見つつ警察に電話をしている最中であった。

「ちょっと待ちなさいよ~」
  
 すでに歩いている二人に気がつくと、慌てて走って来る。

「事件よ! 大事件が起きているのに何で二人とも平然としているの!?」
「別に誰かが怪我をしたわけじゃないから問題無いのでは? あれ以上あそこに居ても焼肉を食べる時間が減ってしまうのも嫌だったからね」
 
 怪我人が居ないと言え、事故は事故である。
 ただ、そんな問題より食い気が勝っているだけであった。
 永遠と話しかけてくる純一の言葉を流しながらタクシーを捕まえると、三人は乗り込む。

 
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