異世界転移二児の母になる

ユミル

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マグノス兵の視線を辿って行く。すると兵士の中で一際目立つ衣装を着て居る者を見つける。
「貴方がギルジュ子爵?」
 ユーリ問うと、その者は首を振った。
「違う、私ではない!」
「そうなの?」 
 近くに居た兵士も金髪だったので不敵な笑みを見せながら近くに寄っていく。
「なら貴方ね」
 言いながらユーリは兵士の腕を掴む。
「あいつだ! さっきの奴がギルジュだ!」
 兵士の言葉に周りの兵士は頷いていた。
 向き直ったユーリは再びギルジュの元に向かう。
「やっぱり貴方だったのね」
 伏せているギルジュの腕を掴んで、引きずりながらアイアンメイデンの前まで運んでいく。
 一人の兵士を飲み込んでいる箱は赤い涙をポタポタと流している。 
 不気味に見えたギルジュは腰が抜けているのか、動ける状態となっても動くことが出来ない。
「ねぇ? なぜ? 私達を狙ったの?」
「それは言えぬ!」
 年齢的には30代なのだろうが、恐怖によって少し老けているようにも見える。
「絶対に? 貴方があの中に入れられて口を割るまで拷問は続くわよ?」
 ゴクリと生唾を飲む。
 先に飲み込まれた兵士の事を想像したのだろう。
 恐怖に負けて体が震えだす。
「それでも言えぬ!」
 忠誠が高いのだろう。口を割ろうともしない。
「そっか、それは残念だね。代わりにソアラちゃんに変わってもらおうかしら?」
 ギルジュの顔を見るとみるみると顔色が悪くなる。
「なぜ!? その名前を?」
 そうソアラとはギルジュの娘であって、溺愛をするほど睦ましい娘だ。
 そんな娘の名前が出たのだ。
 他国の人間なのになぜ娘の名前を知っているのか、疑問に駆られる。
「可愛らしい少女よね。今日はお友達とお茶会を家でしているようね?」
 ギルジュの鼓動が早くなる。
 本来は知らないはずの人間が知っている。そして今娘がお茶会をしている事を知っているのは身内かソアラの友達位でしかないはずなのだ。
「くっ! そんな脅しでは口を割らぬぞ!」
 ギルジュは考えた。
 いくら目の前にいるユーリが強くても、ここから国に戻っても数日とかかる。
 何人かが生き残れば情報は伝えられると考えたが、すべてが無意味に終わる。
「なら連れて来るしかないわね」
 言葉を残してユーリの姿が消える。
「何処に行った!?」
 周囲を見るが姿が見当たらない。
 いるのは伏せた兵士とアイユーブ王国のロジックだ。
 ギルジュは動く体でロジックに剣を向けようとした。
「よせ、ギルジュとやら今のお前ではワシには勝てんよ」
 ギルジュもロジックが昔剣を持って猛威を振るっていた事は知っている。
 報いをと思ったが恐怖で剣を持ったところで、今では素人にも負ける程手に力が入らない。
 ロジックはギルジュの近くに寄って、話しかける。
「彼女の言う事は聞いていた方がよいぞ? あやつに勝てるのは神様くらいだろうな」
 憐れむ様にギルジュを見る。
「化け物なのか?」
「その答えは違うと言っておこう。ただ機嫌を損ねると慈悲は無いと思え」
「そっ、それは……」
 言い終える前にトンと音がする方向にユーリと見知らぬ貴族令嬢が居る。
「お父様……?」
 ソアラが周囲を見て惨状を確認した。
 後ろは見えない様にユーリが立って、見えない様にはしている。
 それにしても肝が据わっている令嬢だ。
 戦場と言う場に来て、戸惑いはあっても怯えは感じ取れない。
「ソアラ本物なのか?」
「偽物ではありませんよ?」
 キョトンとした顔で首を傾げる。長い金髪は風に煽られる。
「これで本当の事を話してくれる気にはなったかな? 別に内容を知った所で国に何かをするわけではないわ」
 数分悩んだギルジュはポツポツと口を開く。
 娘を人質に取られては、どうすることもできなかったのであろう。
「マグノス王国の王女の依頼だ……。王子が慕っている女を攫えと言う命令だ。最悪殺しても構わないと言われた。内容は話したぞ。娘はこれで自由にしてくれるのだろうな?」
「えぇ、嘘は言わないわ。それにしても、ルイス君は厄介な人に狙われているのね」
 ルイスの慕っている者を知っているロジックは何とも言えない表情である。
 ユーリはソアラにアクセサリーを渡して、元の場所に送りかえした。
「王女の依頼だったのか……」
 腕を組み悩むロジック。何かを知っているのだろう。

 
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