異世界転移二児の母になる

56

 しばらく風呂に浸かっていると、ガラガラと扉を開ける音がした。
　かけ湯を済まして、ユーリの隣に腰を下ろし湯船につかる。
　湯船が気持ちいいのか、ふぅ～と息を吐き湯船をすくい顔を洗い出す。
「おっさんかよ……」
　ユーリは信長の行動を見ながら呟いた。
「いやいや、お主には負けるがな」
　そう言われたユーリも縁に両手を伸ばしだらけている。
　隠す物を隠さずに。
　トクトクとお酒を注ぐ音が聞こえる。
　注ぎ終えたコップを信長はユーリに差し出す。
「ありがとう」
「ユーリよ。頼みごとを聞いてくれまいか？　もちろん内容を聞いてから断ってもらっても構わないが……」
「ん～？　頼みごと？　引き受けてあげる」
 内容も聞かないで返事をするユーリに、信長は目を見開きながら驚いている。
「せめて内容を聞いてから答えろよ」
「外国の人間が尾張を取ろうとしている事でしょ？」
　なぜ知っていると言うような顔をしている。
「確かにあっている。それを知っている上で引き受けてくれるのか？」
「えぇ、良いわよ」
「すまない」
「ただ、私がする事には口を出さないでね」
　と言葉を残してユーリは風呂場を後にする。その姿を見ながら信長は夜空に浮かぶ星を見ながら酒に口をつける。
「なさけないな」
　そう言葉を残しゆっくりと時間が進むのを肌で感じる。
　先に風呂に上がったユーリは服を着て脱衣所から出る。助けると言ったが、具体的な解決策を考えながら通路を歩く。
　すると侍女達が話し合っている声が聞こえる。
　その内容は明日の昼ごろに外国の大使が、お城に来る事を話していた。
　軽く耳を傾けながらユーリは借りている部屋に向かう。
　部屋に戻ったユーリは周囲を確認した後にテレポートと唱える。
　
　そしてユーリが着いた一室。
　鮮やかな調度品を飾っている豪華な部屋の中に着き、何かを探すように周囲を確認すると、モゾモゾとベッドの中で誰かが寝ているのがわかる様に盛り上がっている。
　起こさない様に近づいて、寝ている人物を覗き込むように見る。
　スヤスヤと寝息をたてる金髪の女性はロベリアであった。
　気持ちよさそうに寝ているロベリアに悪戯をしたくなって、柔らかそうな頬を人差し指でぷにぷにと押して引いてを繰り返す。
　あまりに気持ち良く何度も繰り返していると、先ほどまで聞こえていた寝息が無くなっている事に気付いた。
　ロベリアと目が合うユーリは軽く咳をして挨拶をする。
「おはよう」
「おはようございます。本当にユーリの行動は読めませんね。こんな時間に来たと言う事は、また何かに巻き込まれたのですか？」
　ロベリアが思っていたことは当たっている。
　その言葉にユーリは目を逸らす。
「今度は何をやらかしたのですか？」
　ロベリアは手を額に当てながら考える。
「まだ、何もしてないよ？　ただドレスを一着貸してほしいなって思いまして……」
　その言葉にロベリアはユーリの方を強く掴む。
「なななっ、今何と！　ドレスですって！？　こうしてはいられません」
　ロベリアは部屋の扉をおもむろに開ける。
　扉の付近で待機していた侍女達が驚いて、すぐに駆け寄ってくる。
　侍女にそれぞれに何かの指示を出して部屋に戻ってくる。
「ロベリア？　そこまで大げさにしなくても？　服を借りるだけだよ？」
「貴方は、何もわかっていませんね！　今の出来事が……　そうですね。時間がすこしかかるので、皆を連れて来なさい」