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しおりを挟むそれから数日後、ユーリを率いる部隊はセリシューク王国からでも部隊が見える位置で集まっている。
その事はユーリ達が王国に行かなくても情報ははいっている。
部隊の出現により開門していた門は閉じられている。
セリシューク王国は現在、帝国と不仲である。
帝国が来たのではないかと思った王国は斥候を放ち情報を集めに来る。もちろんユーリを含めて、ユーリと仲が良い者は斥候の存在に気がついている。別に戦争を始めると言う事では無いので気にはしていない。
雄二と綾乃を待つ間は人族、エルフ、獣人が混ざった部隊が皆楽しそうにお酒や食事を始める。
その光景は宴会をしているようにも見える。
情報を持ち帰った斥候隊は今頃ユーリ達の部隊の話を聞いて驚いているのではないかと、エトナとワルツが楽しげに話をしている。
過去の英雄が大所帯を引き連れて王国の前に居るのだ。
それから数刻後に閉まっていた門が開き始める。
セリシューク王国の兵隊達を引き連れて向かって来る。
その先陣で来るのは雄二と綾乃。そしてアンジェに王国騎士団長ワーマンである。
「とうとう始まるのですね」
部隊を10メートル程の距離で待機をさせて雄二が話しかける。
「始まるわ。覚悟は出来た?」
「もちろんですよ。この日の為に努力をしてきたのですから」
やる気は十分あるようだ。
綾乃もやる気十分だ。
雄二と色々な経験を積んだのであろう。
怯え等恐怖類を感じない。
「貴方も頑張ったのね」
「はい! 足を引っ張るかもしれませんが、回復なら任せてください!」
高級な杖を胸の前で強く握りしめる。
「じゃそろそろ行きましょうか?」
ユーリが言うと雄二の後ろにいた男性が声をかけてくる。
「すまない。少し待ってはくれぬだろうか?」
「ん? 貴方は?」
白髪交じりの男性は馬から降りるとユーリ前に来る。
「紹介が遅れた。私はセリシューク王国の宰相をしているウィンデッド=ロドスといいます。話は雄二様から聞かせてもらっています。我が国から兵士を出すことが出来ず、申し訳ない。大陸の運命がかかっていると言うのに……」
不敬とも取れる発言をするロドス。
確かに大陸の運命がかかっていると言うのに勇者と聖女だけを向かわすのは、あまり良い印象は持たないだろう。
ただ他国や民などには魔人が復活している事は知られていないのだ。
魔物の活性も魔王が原因だと思われている。
まぁ魔王よりも強者が復活したと気がつかれると混乱する事は間違いないと思う。
なので伏せている事が正解なのかもしれない。
「仕方ないわ。誰でも守るものがある。それが生きる者すべてか、国かと言う違いだけでしかない。守れるものを守ればいいだけの事よ」
「そう言ってもらえると助かります。過去にも助けてもらい感謝いたします」
雄二に視線を向けると目を背ける。
過去の事を話したのであろう。
まぁそんな事はユーリには関係が無い。
今も過去も敵は違うが倒さなければ平和な生活が出来ない子供達の為に戦うだけである。
「じゃ行きましょうか? 二人ともこっちに」
二人はユーリの方に歩き始める。
「私も行きます!」
アンジェが声を張り上げる。
セリシューク側の兵士も王女が大声を出したことに驚き、ざわついている。
「えっ? アンジェも行くの?」
さすがのユーリも驚く。
無力とは言わないが、戦う手段を持っていない彼女が来ても死に行くようなものである。
断ろうかとユーリは口を開く前にアンジェが話し始める。
多分説得の意味を込めていると思う。
アンジェも行きたいと言うだけでは断られることはわかっているのだろう。
「私達は無断で勇者様を召喚してしまいました。それなのに勇者様に責任を押し付ける形で現在戦いに向かって行こうとしている。それなのに王国は民を守ると言って殻に閉じこもっています。いけないとは言いませんが、あまりにも無責任すぎると思っていました。
援軍を送らないと決まってからは、私は一人でも勇者様と戦場に行こうと決めていました。
もちろん私は戦う手段を持っていませんので足を引っ張るだけです。それでもこの戦いの行く末を見たいのです。皆さんと同じ場所で、戦いが始まっても私を守ってくれとは言いません。だから連れて行ってください」
こういわれると、押しに弱いユーリは仕方がなく許可を出してしまう。
「はぁ~ まぁ良いわ。ただ本当にどうなっても知らないわよ?」
「はい!」
気合を入れたのか声に張りがある。
「ワーマン? 貴方もついてきてくれる? さすがに戦いが始まると、守る事が難しくなると思うから」
「承知」
ワーマンは槍を地面に突き刺すように強く降ろす。
「この命尽きようとも、アンジェ王女を必ず守ってみせます!」
「私の我がままを聞いて下さってありがとうございます」
ユーリとワーマンに頭を下げるアンジェ。
「さて、時間が無いから行くわよ? ゲート!」
ユーリ達の部隊の後ろの空間が歪み始める。
100人程が並んでも入れるほどの大きさの空間が出現する。
時空魔法を始めてみるセリシューク側は驚きを隠せない。
今では時空魔法を使える人がいるかどうかと言う魔法である。
そして目の前でおこなわれている魔法はもはや人が使える許容量を超えている。
ユーリの事を知らない者は何者だと混乱するであろう。
ユーリの合図で兵隊はエトナとワルツを筆頭に次々と中に入っていく。
ザッザっと砂地を歩く音が続いて行くが、ゲートを潜っていくたびに足音が少なくなっていく。
はっきりと言えば奇妙な光景である。
そして、最後に残ったユーリを含めたアンジェ、ワーマン、雄二、綾乃がユーリと一緒にゲートを潜る。
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