異世界転移二児の母になる

ユミル

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 人々が寝るのには少し早いが、日は落ちて辺りは薄暗くなっている。そんな中剣と剣がぶつかり合う音が辺りに響く。
 他の騎士団は見当たらない。
 雄二はこの国の人間を本気で守りたいと思っているのだろう。
 遠目で見ていても分かるが、雄二の目に執念が宿っている。オーバーワークと言っていい程に訓練をしている。
 ユーリは気付かれないように隅の方で見ていると、綾乃も心配をして陰から雄二の事を見ている。
 それに気が付いたユーリは綾乃に話しかける。
「久しぶりね。元気だった?」
 その声にビクッと肩が上がる。ユーリの存在にまったくと言って気が付いていなかった。
「あっ! ユーリさん。お久しぶりです」
 会釈をする綾乃。
「あの子は少し頑張り過ぎじゃない? 私が居ない間何かあったの?」
 とユーリが言うと綾乃の表情が少し暗くなった。
「それは……」
 綾乃がポツポツと話をしてくれる。
 どうやら二人のレベル上げにダンジョンに潜った時に起こった出来事で、初めて潜るダンジョンで二人を庇って数名の騎士が自分たちの前で命を落としたことが原因であった。
 綾乃は回復特化の聖女であってもレベルが低いために騎士の回復が追いつかなかった。
 雄二は自分の不出来で騎士が命を落としたと思ってしまって、その事件以降はこうしてワーマンと遅くまで訓練をしているのだ。
 この世界の命と言うものは非常に軽い物である。
 一瞬の判断で命はすぐに落とすのである。
「そんな事があったのね……。でもあれは少しやり過ぎよ? 止めないといずれ体が壊れるわよ?」
 ユーリが言うほど、雄二は無茶な運動をしている。
 自分を強くするためではなく、嫌な事を忘れたいと言う思いが強いふうに見える。
 二人は話しながら雄二を見ていると、訓練が終わったのかワーマンが使っていた剣をしまい始めると、雄二が力尽きた様に大の字で地面に倒れる。
 それを見た綾乃が走って雄二の元に向かい。後ろからユーリは歩いてついて行く。
「雄二!」
「ハァハァ……。綾乃か?」
 額に大量の汗を搔き、綾乃が来た事で起き上がろうとするが、体力を使い切って起き上がる事がままならない状況である。
「大丈夫?」
 その後ろから聞こえる声に反応する雄二はユーリを確認する。
「ユーリさん。無様な所をお見せしてしまいましたね」
 乾いた声で笑う雄二。
「無理をしても良い事は起こらないわよ?」
「それでも僕は強くならないと……」
「事情は知っているわ。人を救う前に貴方が死ぬわよ?」
 ユーリは雄二の目を見て答える。
 思い当たる節がある雄二はユーリと合していた目をずらしてしまう。
「まぁ良いわ。自覚があるならまだいいわ。本当に強くなりたいのなら私と来る? 今から行く場所は生ぬるい場所では無いわよ? 最悪、戦う事が出来なくなるかも知れないわ」
 ユーリは付いてくるならこの手を掴みなさいと言っているかのように手を雄二に出す。
 雄二は迷うことなくユーリの手を掴む。
 少しは悩むかと思っていたが、すぐに答えを出した雄二に驚きを覚える。ユーリは雄二の手を引き起き上がらせて抱擁するように胸元まで引き寄せる。
 雄二は幼かった頃の母親に抱かれる感覚を思いだして、目を細めながらユーリの胸の中に納まる。
 母親の優しさと人の温もりの中に埋もれていく。
 ユーリから離された時は寂しさが残る雄二だが、それとは別に嘘の様に力が漲って来ることがわかる。
「えっ!? 力が沸き起こってくる?」
「貴方に加護を与えたわ。これで少しはマシにはなるけど安心はしないでね?」
 「ありがとうございます!」
 雄二は両手を何度も開いては閉じている。
「明日迎えに来るから朝ここで待っていてね?」
「わかりました。明日はお願いします。綾乃はどうすれば良いでしょうか?」
「う~ん。綾乃はやめておいた方がいいわね」
「そうですかわかりました。説得をしておきます」
 雄二と綾乃はユーリに頭を下げてお城の中に戻っていく。
 
 そして次の日の朝、雄二と綾乃は訓練所で待っている状態であった。
 綾乃もいるが多分見送りの為にいるのだと思う。
「まった?」
「さっき来たところなので大丈夫です」
 やる気を十分に見せている雄二に対して不安げな表情をしている綾乃。
 いくらユーリと一緒だと言っても不安で仕方ないのであろう。
「綾乃心配?」
「はい……。できれば行ってほしくないですが……雄二が頑張っているので応援はしたいです」
「必ず無事で帰って来るから安心していて?」
「わかりました。雄二?頑張ってね」
「まかせとけ」
 胸を叩き安心させる雄二。
 ユーリはテレポートを使い最前線の場所にやってくる。
 そこは先ほどまで居た場所と世界が違うのではないかと言うほど、見慣れない場所であった。
 光すら届かない薄紫色の霧が発生していて、周囲に生えている木などは枯れている。
 人が生活できるのかと言うほどに汚れている場所に見えた。
「ここは?」
「ここは魔大陸よ? 魔族が住む世界ね。貴方が最終に訪れる場所でもあった所よ? 今から見る事をしっかりと見てなさい?」
「はい」
 雄二はユーリに抱きついた状態で飛行をする。
 しばらく飛んで行くと黒色の歪な城が見え始める。
 それは人族の王国と雰囲気が違うだけで、立派なお城が立ちその周りでは民達が生活をしているのが見える。
 肌の色が人とは違い薄黒く見た目はエルフの耳と似ているが少し短いだけである。それを除けばなんら人とは変わらない生活をおくっている。
 町の人と笑いながら過ごす者、喧嘩する者、街を警護する者と人間と同じことをして生活をしている。
 そんな姿を見た雄二は人と何ら変わりがないと思い始める。
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