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より一層歓声が大きくなる。
 パレードも順調に進んでいると思いきや馬車がゆっくりとまる。
 何が起こったのか気になるツカサは立って前方を眺めるが、一番前で何かが起こっている事ぐらいしかわからなかった。
 気になるツカサはフリードに聞くと近くにいる兵士に見てこさせる。
 返ってきた兵士報告では列の前に飛び出して止まったらしい。その子供が気になるツカサは兵士に聞く、よほどの理由がない限り王族の進行を邪魔すると死罪にあたる。
 それを聞いたツカサは、馬車から足早降りると先頭に向かって駆け出していた。
 少し走ると、子供が兵士に暴力をされたのか横たわっていた。母親らしき人が子供を体で庇いながら兵士に許しを乞うていた。
「お願いします。どうか子供だけでも助けてください」
 兵士も助けたいと思うが、国が作った法に逆らえる事も出来ない。逆らうと自分の命も危ういため、願いは聞けなく首を横に振る。
 何かを決意した兵士は持っていた槍を親子に向けて振るうと同時にツカサが立ちふさがるが、振るった武器は通常人間の筋力では、スピードが落ちるが途中で中断することはできない。
 よって立ちふさがったのは良いが、威力を殺せずツカサの胸と肩の中間ぐらいにささる。
「うっ……」
 今まで味わったことの無い痛みが全身を走る。 
 不可抗力とは言え、自分の槍で王女になるかも知れない女性を刺してしまった兵士は、顔が青白くなり持っていた槍を落とし膝が砕ける様に座り込み震えている。
 後から追って来たフリードは嫌な感じを受ける。ツカサが走って行った方の領民は、何かに驚き沈黙をしている。嫌な汗を流し、着いた先には座り込んでいる兵士と血が付いた槍。
 その先には、肩付近から血を流しているツカサが目に入る。真っ白な肌とドレスは赤色に 
染まっていた。
「きっ…… 貴様!」
 腰に差していた剣を抜き今に切りかかろうとする。
「やめなさい!」
 ツカサの一言で我に返ることができたフリードだが剣を捨てて兵士の胸ぐらを掴んでいたが、それもツカサが止める。
「フリード! やめなさいと言っているでしょ!」 
 納得ができないフリードはついツカサに怒る。
「こやつは、高位であるお前を刺したのだぞ! 反逆行為として殺そうとして何が悪い!」
 確かにフリードが言っていることは間違ってはいないが、日本生まれのツカサからは人の命をそんな簡単に壊してしまおうとしている事に腹が立つ。
「殺そうとはされていません! 私が目の前に飛び出しただけです!」
 やりきれない表情になりながら乱暴に兵士から手を放した。
 へたり込む兵士に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「どうしてですか? 私はツカサ様を槍で傷つけてしまいました。反逆罪をおった僕にどうして優しくしてくれるのですか?」
 普通じゃありえない出来事に兵士は白黒させている。
「では、今ここにいる人たちに聞いてみればいいのです」
いきなりのツカサの言葉に周囲の人はざわつきはじめる。
「みなさんに問います。私は今この方に槍で刺された所を見た人はいますか? 確かに私は、目の前に飛び出しましたが、持っていた飲み物をこぼしてしまいドレスを汚してしまいました。 それに……。」
 着ていたドレスを少し下げて周りに傷が無いことを確認させた。
 真っ白い肌に赤色の液体が所々ついてはいるが、傷らしいものはなくなっている。
「見えましたか? 私は傷を負っていません。よってこの方には非はありません」
「感謝いたします。救って頂いたこの命今後、ツカサ様の為に捧げると誓います」
 ツカサの前で膝をつき右拳を自分の心臓の前に掲げ忠誠を誓われる。
「ありがとう」
 笑みをこぼす。
「あとは、あなた達ですね」
 平民の親子は先ほど出来事とフリードとツカサを前に震えが収まらない。
「大丈夫だった?」
 と言いながら呆けていた6才前後の少年をおこしてあげる。
「大丈夫だよ。ありがとうおねぇちゃん」
 将来王妃になるかもしれない人におねぇちゃん呼ばわりをした子供に親が叱ろうとしたが、ツカサが牽制をして止める。
「飛び出しは危ないからもうしたらダメだよ」
と言いながら頭をなでる。
「ごめんなさい。僕大きくなったらおねぇちゃんを守れる騎士になるから」
「楽しみにしているわ」
子供についていた泥を落としてあげる。
「本当にご迷惑をおかけしました。ツカサ様が居なければ私達はきっと死んでいたと思います」
「これからは、目を離さず見ていてくださいね」
 親子は、一礼をして列に戻っていく。
 慣れないことをしたツカサは、大きなため息をした。カツカツと音をたててフリードが寄ってくる。自分がどれだけ無謀な事をしてしまったかわかっているツカサは、怒られるとおもってとっさに目をつむる。
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