虫喰いの愛

ちづ

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2、霊媒

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「ひっ、あ、あ、ごめんなさ、だ、だます、つもりじゃなかったんです!」

 枯色かれいろの髪の毛を振り乱し、娘はがばりと平伏した。
 蝕神しょくがみはこらえきれないように吹き出し、

「いやいや、怒ってないよ。落ち着いて。狸寝入りというより死んだふり? 上手すぎて笑いそうだった。曲芸にもほどがあるだろ」
「ひいぃ、こわい、こわい、ごめんなさい! ごめんなさい‼」
「うーん、脅かしちまったかな。仕方ない。〝恐怖〟を喰ってやるか」

 蝕神は腐食した左手を娘に向かって伸ばした。ぞろろと湧いたうじが娘を取り囲み、娘は一層恐慌状態になる。ぶわり、と黒い靄がとぐろを巻いた。娘の目から口から耳から噴出する邪気。蝕神は「おっと」と目を見張り。

「いや! やだ‼ もう‼」
「──やはり黒木家くろきけ霊媒れいばいか。大丈夫、あんたの中に蛆たちは入らない」

 むしろ、と蝕神は声の口調を鎮めた。

「オレは魂を喰らう陰の神。お前の中に巣喰っている穢れを──魔性を喰ってやる。大丈夫、落ち着いて」

 蛆がむしゃむしゃと邪気を食べる。娘の涙や涎に張り付いて、熱心に蝕み続けた。荒れ狂っていた娘の呼吸は徐々に落ち着き、蛆がゆっくりと離れると、娘は困惑しながらも、正気を取り戻していた。

「どう? 少しは楽になった?」
「……は、はい、落ち着き、ました。ありがとう、ございます。え、と蝕神さまですよね? 黒木家の氏神うじがみの……」
「うん、そーそー。話ができるようになったなら事情を聞かせてくれないかな? 石室いしむろの中に入ろう。人間には居心地いい場所とは言えないだろうけど」

 あ、そうだ、大事なこと聞いてなかった、と娘に向かって、蝕神は右手を差し伸べた。

「名前はなんていうの? お嬢さん」
「……小花こばな、です」

 小花ちゃんね、可愛いじゃん、と蝕神は笑った。
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