上 下
10 / 81
第一部

人間になるには……?

しおりを挟む
 叔父の姿は人の中でも竜人りゅうじんという種族の姿を模しているらしい。
 ドラゴンの血を引く人を竜人と言うのだそうだ。
 確かに、よく見ると耳はファンタジー映画に出てくるエルフのようにとがっている。と、感心していたら、エルフは森人しんじんという別の種族で存在していると聞いて、もっと驚いた。

「どうやったら人間になれましゅか?」

 私は叔父に尋ねた。

「そうだね。ドラゴンの魔力は人の身体には多すぎるんだ。だから自分の魔力を切り離して、ちょっと周りからは見えにくいようにしまっておくのだが……見せてみたほうが早いな」

 魔力操作かぁ……。それはあまり自信がない。見てわかるものなのかな?
 不安そうに首を傾げた私に、叔父はいたずらっぽく笑った。

「ルチア、よく見ておくんだよ?」
「あいっ!」

 とりあえず、見てみなければ始まらない。
 すると、突然叔父は服を脱ぎ始めた。
 ちょっと、待って? なぜに脱ぐ?
 シャツのボタンをはずし、上着を脱いだかと思うと躊躇なくズボンも脱ぎすてて地面に落とす。下着一枚の姿になったところで、私は恥ずかしさに目をつぶった。

「ルチア、ちゃんと見なきゃ変化できないよ?」
「どうして服を脱ぐんでしゅか?」
「どうもこうも、脱がなければ破れてしまうからね」

 それはもっともだ。
 しばらくドラゴンとして生きてきたせいか、人間としての常識を忘れつつある。私は一刻も早く人間に変身する方法を会得することを心に誓った。
 こつんと頭を突かれて、私は仕方なく目を開ける。
 けれど、下半身が視界に入るのはさすがにまずいと思い、顔を上げてなんとか下を見ないようにした。

「まずは、ドラゴンの姿に戻るよ?」

 私は無言でうなずいた。
 叔父の美しい緋色の髪の毛がゆっくりと短くなっていく。尖った耳があった辺りから大きな角が両側に生えてきて、おしりの辺りからは長く立派な尻尾が生えていた。
 私は息をするのも忘れて、叔父の変身を見つめた。
 腕は大きく、太くなり、前足に変化する。足は少し折れ曲がり、後ろ足に。
 下半身を見ないようにしなければと思っていたことも忘れ、その変わりように目を奪われる。
 白く健康的に輝いていた肌には、びっしりと鱗が浮き上がり、火竜に特徴的な緋色の鱗に変わっていく。

「わあ、叔父さん、おもしろーい!」
「ラウル叔父さん、すっごい!」

 いつの間にかじゃれあうのをやめていたティートとマウロも、すぐ隣で叔父の変身を見つめている。
 叔父の背から大きな翼が二つ、空に向かって大きく伸びていく。緋色の翼を羽ばたかせて、巨体がふわりと宙に浮かび上がった。
 人の姿の時とは比べ物にならないほど、強大な魔力を感じる。
 ああ、かっこいい!
 私は興奮に目を輝かせた。
 ドラゴンとはかくあるべきという姿に、私は憧れを抱かずにはいられない。
 叔父はサービスのつもりなのか、空に向かって一つ、炎の吐息ブレスを吐き出した。
 ごおぅっという音とともに開いた口から吐き出された炎が、空を焦がす。青白く輝く炎はかなりの高温に違いない。

「すっげぇ!」
「うわぁ!」

 兄たちはかなり興奮している。つられてふたりとも小さなブレスを吐き出す。地竜や風竜である兄たちが吐き出すブレスも炎であるのが面白い。
 ブレスを吐き出しあう姿はちょっとシュールだった。
 私はあまりの迫力に、ぶるぶると震えながらその姿を遠巻きに見守る。

「ルチア、ちゃんと見ていたかい?」

 父よりも鮮やかな緋色の鱗を輝かせている姿を目にすると、やはり美形はドラゴンになっても変わらないのだと実感する。

「あい……」

 どうやったらこんなふうに鮮やかに変身できるのだろうか。

「次は、人間の姿になるよ?」

 私は唾を飲み込んだ。いよいよここからが本番だ。

「あいっ!」

 叔父は手のひらを合わせて、魔力を私の手でもつかめるほどの大きさに圧縮していく。
 さっきは変身に夢中になりすぎて、魔力の流れを見るのを忘れてしまったので、今度は注意して観察する。
 叔父はそっと地面に足を下ろし、今度は先ほどとはまったく逆の要領で人の姿に変化していく。急速に縮み、人の姿に変わっていた。

「大事なのは想像力だ」

 叔父の言葉にうなずきかけた私は彼が裸であることを思い出し、慌ててくるりとうしろを向いた。
 私は彼が裸であることを思い出し、慌ててくるりとうしろを向いた。

「ふ、ふきゅきゅ!」

 服を着てくれと言いたいのだが、動揺のあまり噛みまくってしまう。

「ああ、ごめんよ」

 叔父はあくまでも慌てることなくゆっくりと服を身につけている。人間の姿となっても、意識はドラゴンの方が強いのだろう。叔父には羞恥心というものがないようだ。
 だが、叔父のおかげで人の姿に変身できそうだ。
 私はにんまりと笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―

小松菜
ファンタジー
*プロローグ追加しました。 狼型改造人間 唯桜。 水牛型改造人間 牛嶋。 蛇型改造人間 美紅。 『悪の秘密組織 ヤゴス』の三大幹部が荒廃した未来で甦った。その目的とは? 悪党が跳梁跋扈する荒廃した未来のデストピア日本で、三大怪人大暴れ。 モンスターとも闘いは繰り広げられる。 勝つのはどっちだ! 長くなって来たので続編へと移っております。形としての一応の完結です。 一回辺りの量は千文字強程度と大変読みやすくなっております。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...