契約結婚のススメ

文月 蓮

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身体に刻みつけられる約束 ※

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「二度と、勝手に飛び出さないように」

 アロイスのサファイアの瞳が薄暗い室内でもわかるほどぎらついている。

「したくてしたわけじゃ……」

 レティシアとしても、アロイスに対して故意に知らせなかったわけではない。
 ヴァリエ卿にはきちんと行き先を告げて出かけたのだから、理不尽に責められる謂れはない。
 レティシアはアロイスの剣呑けんのんな雰囲気に怯え、あとずさる。

「だとしても、私の知らないところで死にかけていただろう? 私からあなたを奪おうとする者は許さない。それがあなたであろうとも」
「アル……」

 レティシアは思いつめた目で見つめてくるアロイスに、なにも言い返せない。
 アロイスの手が彼女の首のうしろに回り、がっちりと彼女の後頭部をつかんで引き寄せた。

「ん……」

 いつもより乱暴なキスが、レティシアの口を塞ぐ。

「っ、ん……っは、んう……」

 アロイスの舌がうごめき、彼女の口内を蹂躙じゅうりんする。
 激しいキスに息を奪われ、レティシアはくらくらした。

「アル……、くる……し」
「これは、罰だ」

 アロイスはキスを続けながら、レティシアの身体をまさぐった。
 首筋、二の腕、わき腹、腰へと柔らかな手つきで彼女の肌をなぞる。
 彼の指は的確にレティシアの弱い部分に触れてくる。
 レティシアの身体は次第に熱を帯びていく。

「あ……ぁ」

 レティシアの息は上がり、身体から力が抜けていく。
 キスに夢中になっているあいだに、寝間着は脱がされ、レティシアは一糸まとわぬ姿にされていた。
 アロイスが彼女の首筋に舌を這わせる。
 ちりりと疼くような感触がして、きつく肌を吸い上げられる。

「っは、あ……」

 甘ったるい声が口から漏れだすが、とめられない。

「なんど、あなたの全てが私のものだと覚えこませれば、無茶を、しなくなるんだろうな……」

 狂気を孕んだ声に、レティシアは抵抗する気力を失う。
 アロイスの唇が彼女の胸へと移動する。
 彼の手が胸を持ち上げ、その感触を確かめるように揉みしだく。アロイスは胸の頂に吸い付いた。
 口の中で先端を転がされ、そこは芯をもって立ち上がっていく。
 強く吸われると、きゅっと子宮のあたりが疼き、背筋を興奮が駆け上った。
 レティシアは奥底からこみ上げる快楽に耐えるように、シーツをきつくにぎりしめる。

「は……ぅ、ん」

 吸われる度に、レティシアの腰が跳ねる。

「レティ、あなたは私のものだろう?」
「うん、わたしはアルの……もの」

 頭がくらくらとして、なにも考えられなくなっていく。
 彼に触れられているだけなのに、レティシアの身体は舞い上がるほど気持ちよくなってしまう。
 互いに愛おしいと、気持ちが通じ合っただけで、これほど感じ方が変わるものなのかと、驚くほどだ。

「アル……すきだよ」
「レティ……それは卑怯だ」

 胸元からレティシアの顔を見上げるアロイスの耳元が赤くなっていた。

「え?」
「これでは、お仕置きにならないっ」

 アロイスはむきになったように、彼女の胸元に噛みついた。

「ああっ、ん!」

 びりびりと背筋を駆け抜けた快楽に、レティシアの目に涙がにじんだ。
 ブルーグレイの瞳が快楽に蕩ける。
 思わず彼の頭に手を伸ばし、とどめようとするが、快楽に力の抜けた手では大した抵抗にはならなかった。

「あ……るぅ……」

 胸を吸われただけなのに、達してしまいそうな予感に、レティシアは怯えた。
 まるで自分の身体が自分のものではないようで、なにもかもがアロイスの手によって作り変えられてしまうような感覚に襲われる。

「きもちいいか?」
「きもち……いい」
「ならば、もっと気持ちよくなるといい」

 ゆっくりと彼の手がレティシアの腰の括れをなぞって降りていく。やがて股のあいだへ到達する。
 蜜を湛えたその場所が、彼の指によって開かれていく。
 溢れた蜜が、くちゅりと淫靡な水音を響かせた。

「っひ、あ、あ!」

 びりびりと全身を貫く快楽に、勝手に身体が跳ねる。
 胸を吸われ、同時に蜜口を捏ねられて、レティシアのまぶたの裏に白い火花が散った。

「っや、あ、イ……く」
「ふ、きもちいいな?」

 とろかされ、あえぐことしかできないレティシアとは対照的に、アロイスはいまだに理性を保ち、楽しそうに笑みを浮かべている。

「ちもち……いい、よぉ……」

 けれど、あと少しで絶頂に達するというところで、なぜか彼の動きが止まった。

「どう……してぇ……?」

 その先にある悦楽を知ってしまっているレティシアは、切なさに腰を揺らした。

「罰だと言ったはずだ。あなたが気持ちよくなるだけでは、罰にならないだろう?」
「や……ぁ」

 快楽に蕩けた頭では、彼がこんな意地悪をしかけてくる理由が思いつかない。
 レティシアは苦しさに涙を滲ませた。
 止まっていた彼の手の動きが再び始まり、レティシアの身体は素直に快楽を拾い始める。
 口づけされて、また息が上がる。
 口内に侵入してきた舌が、歯茎をなぞり、舌の付け根まで到達する。
 そろりと舌を撫でられ、同時に彼の指がレティシアの内部に埋められた。

「ぅん……ん、っは……あ」

 彼の指がくちゅくちゅと水音を立てながら、レティシアの内部を穿つ。
 わずかに遠ざかっていた快感が再びかき立てられる。
 達してしまいそうになるたびに、彼の手の動きが止まり、レティシアはなんども焦らされた。
 その先にある快楽が欲しくて、レティシアはどうにかなってしまいそうだった。

「アルぅ……、ごめ……なさい。たす……けてぇ、も、おかし……く、なっちゃ、う」
「あなたが無茶をするなら、私はこうして、あなたの身体に刻み込もう」
「も、ゆる……してぇ」
「本当に、なにが悪いのかわかっているのか?」

 意地の悪い声でささやくと、アロイスはレティシアの秘部をまさぐりながら、耳朶に噛みついた。

「あぁ……っ、むちゃ、しないっ……て、約束する……からぁ」
「私を呼ぶんだ。『婚姻の契り』が、私をレティのところへ、導いてくれる」
「よぶっ、ちゃんと、呼ぶからぁ」

 アロイスの手がレティシアの婚姻の契りが刻まれた辺りをなぞった。
 魔力を注がれて、比翼の鳥がぼんやりと浮かび上がる。

「忘れるなよ?」
「約束、するぅ……」

 もはやなにを口走っているのかわからないまま、レティシアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、アロイスにしがみついた。

「いい子だ。イけ」

 耳元でささやかれながら、秘所を強くこすられて、レティシアは身体を硬直させた。

「っひ、あああああア!」

 息もできないほどの快楽に突き落とされる。
 びくびくと身体がのたうち、埋められて彼の指を締め付ける。
 レティシアは息の整わぬまま、どうにか目をひらくと、アロイスが獰猛な顔で笑っていた。

「絶景……だな」

 すべてを食べつくされてしまう予感に、レティシアは身体を震わせた。
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