異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

文字の大きさ
上 下
69 / 80
第三章 愛の逃避行

出くわしたくない相手

しおりを挟む
 緩やかな道だったので大した怪我がなくて済んだのは幸いだった。きょろきょろと見渡すもトルデンは見えない。

「これはこれは。嬉しいことにこんなところでお会いできるなんて」

 よろよろと立ち上がり、手枷が再び音を立てた時だった。人と会いませんように、と心の中で願っていたにも関わらず、声をかけられた。それも会いたくなかった相手にだ。

「お前、どうして……」

 目の前にいたのはオークスだった。逃げようと後ずさるもいとも簡単にオークスはオレを捕らえた。

「クソッ、離せっ」
「手間が省けた」

 オークスに抵抗しようと暴れるも無駄に終わり、オークスは剣を取り出した。いつかのように自身の手を斬りつけてオレに貰わせて大人しくさせる気だ。その時、またオークスの背後からザリッと落ち葉を踏む音が聞こえた。2人でそちらを見て驚いた。トルデンが追いついたのかと思えば、そこにいたのはエンフィルだった。

「エンフィル……」
「おやおや、これまた面白いところに……。国王陛下の命ですか?外交官に使い走りと大変なことで」

 エンフィルはオレを見た後、オークスを睨んだ。その初めて見るエンフィルの感情的な表情に少し驚いた。あまり喋らず、何を考えているか分からないエンフィルが、オークスに対してそんな表情をするのが意外だったのだ。

「もしや国王陛下の命に逆らうつもりで?今、ここでこの子供を逃がしたところで、あなたの罪がなくなるわけじゃないですが……」
「……罪?」
「おや、ご存じないので?エンフィル様はトルデン様に毒を持った張本人ですよ」
「え……?」

 その驚愕の事実に驚いている時、エンフィルの背後から「トモヤッ」とオレの名を呼ぶ声がした。トルデンがようやく追いついたのだ。小枝や落ち葉が服についている所を見ると慌てて追いかけてきてくれたようだ。

「……エンフィル」

 トルデンが驚いた表情で名を呟いた。そして、オークスとオレをその先に見るとキッと睨んだ。エンフィルはトルデンがいるのに後ろを振り向かない。先ほどのトルデンに毒を持ったと言うのがどうしても気になる。何故エンフィルがトルデンに毒を盛るのだろう?仲が良さそうには見えなかった。でも、だからといって毒を盛るほど憎んでいるようにも見えなかった。どちらかというと2人も言葉足らずで色々な隔たりがあり、仲良くなれるはずなのに仲良くなれないみたいに勝手に思っていた。

「あぁ、トルデン様、噂に聞いていましたが、国を一晩で一掃するなんて見事な物です」

 先ほどのエンフィルとトルデンの関係とは一転して、またオークスが変なことを口走る。国を一晩で一掃?どういうことだ?

「どうですか?血で汚れた手の感触は?きっとお父上もお喜びになるでしょう。大丈夫です。すぐに慣れます」

 トルデンはその事実を思い出したのか、悲しそうな表情をした。シーンと辺りが静まり返る。オークスはオレの襟首をしっかりと掴んでいて、逃げ出すこともできない。少しでも離れればトルデンとエンフィルが何とかしてくれるという思いはあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

守護霊は吸血鬼❤

凪子
BL
ごく普通の男子高校生・楠木聖(くすのき・ひじり)は、紅い月の夜に不思議な声に導かれ、祠(ほこら)の封印を解いてしまう。 目の前に現れた青年は、驚く聖にこう告げた。「自分は吸血鬼だ」――と。 冷酷な美貌の吸血鬼はヴァンと名乗り、二百年前の「血の契約」に基づき、いかなるときも好きなだけ聖の血を吸うことができると宣言した。 憑りつかれたままでは、殺されてしまう……!何とかして、この恐ろしい吸血鬼を祓ってしまわないと。 クラスメイトの笹倉由宇(ささくら・ゆう)、除霊師の月代遥(つきしろ・はるか)の協力を得て、聖はヴァンを追い払おうとするが……? ツンデレ男子高校生と、ドS吸血鬼の物語。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...