異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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番外編 宿屋の娘と王女

精霊の力 スキルside

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 ある時、雨が続く日があった。アビーはもうすっかり大丈夫だと思っていた。でもその日の雨はいつもと違った。雨が強まり、雷鳴が轟き始めた。突然、大きな雷が空を裂き、地面へと落ちた。アビーの身体は震え、耳を塞ぎ、何か叫びたい衝動に駆られたが、声にはならなかった。スキルが急いでアビーを抱きしめ、アビーの耳を覆うと、そっと囁いた。

「大丈夫、私がここにいるから」

 身体を震わすアビーを抱きしめ落ち着かせたいのに、さらにまた大きな雷が落ちた。その瞬間、部屋の中に不気味な静寂が訪れた。まるで空気が固まったかのようだった。すると、アビーのそばに現れたのは、圧倒的な存在感を放つ精霊王ファルだった。彼の姿は霧のようにぼんやりと現れ、空気が一瞬で冷たくなった。

 スキルは驚きながらもアビーをしっかりと抱きしめ、彼女を守るように構えた。しかし、アビーはその瞬間、精霊王の強大な力に圧倒され、精霊王が自分に従っていることを理解した。それと同時に、その力がどれほど恐ろしいかを実感し、恐怖が胸を締め付けた。

「アビー?大丈夫?」

 アビーはスキルの言葉に我に返り、現れた精霊が精霊の王でファルという名前だと伝えた。精霊王は威圧感を放っているだけで、特に何かをするわけではなく、静かにアビーを見ていた。今までアビーには精霊の加護だけでなく、精霊の力もあると昔から言われていた。でも、アビー自身はそれがよくわからなかった。でもこの時、精霊王を使役できることこそがその力だったと気づき、アビーは酷く動揺した。

 アビーの元に精霊王が現れてから少しの日にちが経った。クッシという大きな鳥がアオフモア国の上空に彷徨い、国全体がその存在に怯えた。アビーは助けたいと願い、精霊王に助けを求めた。しかし、彼女が精霊王に命じたその瞬間、鳥を助けるどころか、精霊王の力は暴走し、空に巨大な竜巻を引き起こしてしまった。人々は混乱に陥り、アビーは自分が力を制御できないことに絶望した。

 その場はスキルの歌声によって平和に収まったが、アビーは精霊王の力が自分の手に余るものだと痛感した。精霊王を使役するどころか、その力は彼女自身にも脅威となり得る。彼女は落ち込み、精霊王に頼れない自分に悔しさを覚えた。そんな彼女を、スキルが優しく励ました。

 それからまた少しの日にちが経った頃、この日も広場でスキルーは歌い、アビーは傍にいた。ガサッという誰かが草木を踏む音でスキルは歌うのを止めた。

「アビー様、探しました。外に出るのは喜ばしいことですが、まだお身体にも差し障ります。最初のうちは温かい目で見守っていましたが、こうも毎日外へ行かれると我々は心配です。どうかもう少し控えてください。それにこれからは王女としての公務も増えることとなりますので……」
「アビー、さま?……王女?」
「…………!」

 執事のような衣装を着た年配の男性が現れ、そう言った。アビーは知られたくなかったというような表情でスキルを見た。

「あなたがスキル様ですね。アビー様を元気づけてくださり、ありがとうございます」
「い、いえ、そんな……」

 自分よりもずっと年上の男の人が、綺麗な角度で自分にお辞儀をした。自分はただ歌っていただけで、御礼を言われることもしていない。むしろアビーが笑うと私もつられて笑い、安らぎを貰った。その年配の男性のお辞儀にスキルは困惑した。

「それよりも私、王女様と知らず、こんな風に口を聞いて申し訳ありません」
「違うの!いいの!お願い、これまで通りいつものように話して……」

 困った表情をして年配の男性の方を見ると、スキルを安心させるかのように微笑んだ後、頷いたので、「分かったわ」と返事をするとアビーはスキルに抱き着いた。

「アビー様、今日は帰りましょう。別にスキル様と会うことに反対している訳ではありません。スキル様さえ良ければいつでもお会いして頂いてもいいですが、スキル様にも色々なお時間がございます。スキル様の時間を奪い、お邪魔をしてはいけません」
「……はい。スキル、また会いに来てもいい?」
「えぇ、もちろんよ」

 それから、アビーがスキルの元へ来る頻度は減ったが、それでも二人は多くの時間を共に過ごした。勉強をしながら、お互いの知識と理解を深め合ったり、また時にはお城の広大な庭で遊びながら互いの世界を探りあった。スキルは歌を歌い、その美しい歌声が空間を満たす中、アビーはその隣で静かに聴き入った。それは少しの年月が経ち、2人が成長しても変わらない光景だった。

 アビーが王女でありながらここまで自由にスキルの傍にいられるのは、アオフモア国の特性かもしれない。この小さな国は精霊の加護を受けており、人々は自然と互いに優しく接する。そのため、厳格な階級制度に縛られることなく、互いに対等に交流する文化が根付いていた。それに加えてアビーは幼少期、床に臥せっていたので、存在も知られていなかったのだ。だから、アビーが大きくなって公の場に現れた時、人々は街で見かけたことのある女の子が王女だったことに驚いた。
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