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番外編 宿屋の娘と王女
共鳴する感情 スキルside
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アオフモア国はあまり大きくない。子供が産まれたら祝福の儀式が教会で行われ、皆で祝福する。それに祝福の儀式だけでなく、教会では集まって祈りを捧げたり、歌を歌ったりすることがある。小さい頃から歌を歌うのが好きなスキルは、教会へ行き、歌うこともしばしばあった。それなのに一度もあの子を見かけたことがなかったのだ。
次の日からアビーは早速宿屋へとやって来た。朝早くからわくわくした笑顔でアビーが来たのでスキルは微笑ましくなった。温かく出迎え、朝一番に獲れたアオナマルの魚で作ったサンドイッチを一緒に食べると、アビーがこんなに朝早く来た理由を言ってくれた。
「実は昨日、帰った後、精霊たちと話すこともできたの。それで嬉しくて、スキルにお礼を早く言いたかったの」
スキルは驚いた。この世界で精霊をしっかりと見える人間は少ない。ただ精霊の加護がついているアオフモア国の人々は精霊の気配を感じ取ったり、見ることが出来る人もいる。アオフモア国と隣接しているルゥ国とルクア国もそうだ。この3ヶ国は昔から仲が良く、精霊の加護がついていると言われ、国同士も仲が良いのだ。精霊の加護がついているおかげで、どの国も自然豊かで穏やかな気候を手に入れることができた。時折、アビーのように精霊の加護を授かった子供が生まれることもある。でも、どの国でも精霊と話すことができる人がいるとは聞いたことがなかった。
アビーはスキルが驚いていることにも気付かず、矢継ぎ早にあったことを話してくれる。精霊たちが今までのことをアビーに謝ってくれたらしい。謝ったと言っても精霊たちがアビーに悪いことをしたわけではない。アビーには生まれた時から精霊の加護がついていたし、アビーは精霊に好かれていた。でも、精霊の力が強すぎて幼いアビーには身体的にも精神的にも負担だったのだ。アビーが小さい頃、身体が弱り、伏せっていたのは精霊のせいだった。
アビーは知らないうちに精霊に恐怖を抱き、心が受け入れられなかったアビーは傍にいる精霊たちを無意識に見ようとしなかった。そうして、いつの間にかアビーの目には精霊が映らなくなった。精霊はそれでもアビーが好きでずっと傍にいた。でも、精霊が傍にいればいるほどアビーはその力の強さを感じ取り、怯えた。
「スキルのおかげで私は精霊を見ることが出来て、話すこともできたの。ありがとう、スキル」
自分よりもいくつか年下のはずなのに、凛とした表情できちんと感謝をし、伝える様は大人びて見えた。アビーが小さい頃、伏せっていたと聞いてスキルは納得した。
(だから教会で会えなかったのね。だって、一度見たらこんな可愛い子忘れるはずがないわ)
「精霊たちもスキルにお礼を言っていたわ。それとあと、またスキルの歌が聴きたいって」
アビーのお母さんが亡くなり、悲しんでいるアビーを精霊たちは元気づけたかった。でも、精霊たちはその術が分からなかった。アビーに呼びかけ、どれだけ慰めてもアビーには分からない。しまいにはアビーの悲しい気持ちが精霊全体に伝わり、皆一緒に悲しんだ。
アビーは母親を失ったことも、目には見えないが精霊が一緒に嘆き悲しんだことによって、また更に悲しい気持ちになってしまった。アビーは咄嗟に家を飛び出していた。精霊たちが慌ててアビーを追いかけていたら広場で歌を歌っているスキルを見て、何故かアビーも精霊も魅入ってしまって歌をずっと聴いていたとのことだった。
「私、歌うのが好きなの。だから、いつでも歌うから、いつでも聴いてね」
「ありがとう。スキルの歌を聴いた時、心が楽になった気がしたの。たまに部屋で教会から歌が聴こえることがあったのだけど、あの時も心が楽になってた。でも、一番スキルの歌が好き」
空のように透き通る綺麗な青色の瞳。整った目鼻立ちでじっと見つめられると、心臓を鷲摑みにされるような気持ちになる。そして、そんな綺麗で可愛い女の子が真剣な表情をして好きと言うものだから勘違いしてしまいそうになる。
「そう、それにね!おし……お家の人たちも、今までずっと身体が弱くて、眠っていた私が外へ飛び出したことにも驚いていたわ」
ニコニコとしてアビーが教えてくれる。先ほどのようにたまに大人びた雰囲気を見せることもあれば、素直で子供らしい一面も見せる。その日から毎日、アビーはスキルのいる宿屋クレミノへと訪れ、一緒に草花を採ったり、スキルが歌うと、その傍らでアビーと精霊たちが喜びながらその歌を聴く日々が続いた。
風が強いある日、2人が空を見上げると少し先にどんよりとした黒い雲が覆っていた。スキルが「雨が降りそうだから帰ろう」とアビーに言うと、アビーの悲しそうな表情に気付いた。
「どうしたの?大丈夫?」
「お父さまが亡くなったのも雨の日だったの……」
アビーのお母さんが亡くなっていたのは知っていたが、お父さんまで亡くなっていたのは知らなかった。こんなに小さな頃から、大切な人を失ったアビーの心の寂しさは計り知れない。
「もしアビーが良かったら雨の日は宿屋に泊まりに来てよ」
「本当に?いいの?」
「えぇ、もちろん」
そう言うとアビーの曇っていた表情は明るくなり、スキルはその表情を見て安心した。その日から雨の日はスキルの宿屋に泊まりに行き、アビーは雨の日が好きになった。
「さぁ、もう寝ましょ」
アビーが泊まりに来る日は、いつも一緒のベッドで仲良く眠る。宿屋・クレミノは落ち着く雰囲気でアビーも好きだった。雨の音を聞きながら、2人で色々な会話をする。好きな食べ物や、嫌いな食べ物、将来のこと。時折、アビーは死んだ父と母のことを思い出すのか寂しそうな顔をする。
「アビー、私はずっと傍にいるわ。だから、寂しがらないで」
「ありがとう、スキル。私、スキルのこと大好き。スキルが傍にいてくれて本当に嬉しい」
まだ幼い女の子のその言葉に深い意味はないと分かっていたものの、スキルはぎゅっと抱きしめられてドキドキした。綺麗な金色の髪を撫でると、眠りについたアビーのおでこに眠りのキスをしてスキルも眠った。
次の日からアビーは早速宿屋へとやって来た。朝早くからわくわくした笑顔でアビーが来たのでスキルは微笑ましくなった。温かく出迎え、朝一番に獲れたアオナマルの魚で作ったサンドイッチを一緒に食べると、アビーがこんなに朝早く来た理由を言ってくれた。
「実は昨日、帰った後、精霊たちと話すこともできたの。それで嬉しくて、スキルにお礼を早く言いたかったの」
スキルは驚いた。この世界で精霊をしっかりと見える人間は少ない。ただ精霊の加護がついているアオフモア国の人々は精霊の気配を感じ取ったり、見ることが出来る人もいる。アオフモア国と隣接しているルゥ国とルクア国もそうだ。この3ヶ国は昔から仲が良く、精霊の加護がついていると言われ、国同士も仲が良いのだ。精霊の加護がついているおかげで、どの国も自然豊かで穏やかな気候を手に入れることができた。時折、アビーのように精霊の加護を授かった子供が生まれることもある。でも、どの国でも精霊と話すことができる人がいるとは聞いたことがなかった。
アビーはスキルが驚いていることにも気付かず、矢継ぎ早にあったことを話してくれる。精霊たちが今までのことをアビーに謝ってくれたらしい。謝ったと言っても精霊たちがアビーに悪いことをしたわけではない。アビーには生まれた時から精霊の加護がついていたし、アビーは精霊に好かれていた。でも、精霊の力が強すぎて幼いアビーには身体的にも精神的にも負担だったのだ。アビーが小さい頃、身体が弱り、伏せっていたのは精霊のせいだった。
アビーは知らないうちに精霊に恐怖を抱き、心が受け入れられなかったアビーは傍にいる精霊たちを無意識に見ようとしなかった。そうして、いつの間にかアビーの目には精霊が映らなくなった。精霊はそれでもアビーが好きでずっと傍にいた。でも、精霊が傍にいればいるほどアビーはその力の強さを感じ取り、怯えた。
「スキルのおかげで私は精霊を見ることが出来て、話すこともできたの。ありがとう、スキル」
自分よりもいくつか年下のはずなのに、凛とした表情できちんと感謝をし、伝える様は大人びて見えた。アビーが小さい頃、伏せっていたと聞いてスキルは納得した。
(だから教会で会えなかったのね。だって、一度見たらこんな可愛い子忘れるはずがないわ)
「精霊たちもスキルにお礼を言っていたわ。それとあと、またスキルの歌が聴きたいって」
アビーのお母さんが亡くなり、悲しんでいるアビーを精霊たちは元気づけたかった。でも、精霊たちはその術が分からなかった。アビーに呼びかけ、どれだけ慰めてもアビーには分からない。しまいにはアビーの悲しい気持ちが精霊全体に伝わり、皆一緒に悲しんだ。
アビーは母親を失ったことも、目には見えないが精霊が一緒に嘆き悲しんだことによって、また更に悲しい気持ちになってしまった。アビーは咄嗟に家を飛び出していた。精霊たちが慌ててアビーを追いかけていたら広場で歌を歌っているスキルを見て、何故かアビーも精霊も魅入ってしまって歌をずっと聴いていたとのことだった。
「私、歌うのが好きなの。だから、いつでも歌うから、いつでも聴いてね」
「ありがとう。スキルの歌を聴いた時、心が楽になった気がしたの。たまに部屋で教会から歌が聴こえることがあったのだけど、あの時も心が楽になってた。でも、一番スキルの歌が好き」
空のように透き通る綺麗な青色の瞳。整った目鼻立ちでじっと見つめられると、心臓を鷲摑みにされるような気持ちになる。そして、そんな綺麗で可愛い女の子が真剣な表情をして好きと言うものだから勘違いしてしまいそうになる。
「そう、それにね!おし……お家の人たちも、今までずっと身体が弱くて、眠っていた私が外へ飛び出したことにも驚いていたわ」
ニコニコとしてアビーが教えてくれる。先ほどのようにたまに大人びた雰囲気を見せることもあれば、素直で子供らしい一面も見せる。その日から毎日、アビーはスキルのいる宿屋クレミノへと訪れ、一緒に草花を採ったり、スキルが歌うと、その傍らでアビーと精霊たちが喜びながらその歌を聴く日々が続いた。
風が強いある日、2人が空を見上げると少し先にどんよりとした黒い雲が覆っていた。スキルが「雨が降りそうだから帰ろう」とアビーに言うと、アビーの悲しそうな表情に気付いた。
「どうしたの?大丈夫?」
「お父さまが亡くなったのも雨の日だったの……」
アビーのお母さんが亡くなっていたのは知っていたが、お父さんまで亡くなっていたのは知らなかった。こんなに小さな頃から、大切な人を失ったアビーの心の寂しさは計り知れない。
「もしアビーが良かったら雨の日は宿屋に泊まりに来てよ」
「本当に?いいの?」
「えぇ、もちろん」
そう言うとアビーの曇っていた表情は明るくなり、スキルはその表情を見て安心した。その日から雨の日はスキルの宿屋に泊まりに行き、アビーは雨の日が好きになった。
「さぁ、もう寝ましょ」
アビーが泊まりに来る日は、いつも一緒のベッドで仲良く眠る。宿屋・クレミノは落ち着く雰囲気でアビーも好きだった。雨の音を聞きながら、2人で色々な会話をする。好きな食べ物や、嫌いな食べ物、将来のこと。時折、アビーは死んだ父と母のことを思い出すのか寂しそうな顔をする。
「アビー、私はずっと傍にいるわ。だから、寂しがらないで」
「ありがとう、スキル。私、スキルのこと大好き。スキルが傍にいてくれて本当に嬉しい」
まだ幼い女の子のその言葉に深い意味はないと分かっていたものの、スキルはぎゅっと抱きしめられてドキドキした。綺麗な金色の髪を撫でると、眠りについたアビーのおでこに眠りのキスをしてスキルも眠った。
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