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番外編 神の存在とは?
神殿での日々 ムヒアスside
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ムヒアスはそれほど信仰心のある人間ではなかった。ムヒアスは元より神官に興味はなく、ムヒアスが神官になることを希望していたのはルウファにいる母親だった。家族が神官になれば少しばかりのお金がもらえるからだ。信仰心なんてものは持っていないのだから、自分が神官になるだなんて微塵にも思っていなかった。でも、どうしてか祭壇の間で判定の儀式を行い、祝杯を飲んだ時、たちまち自分自身が光り輝いたので神官と認められてしまったのだ。
ムヒアスにとって、神殿での生活は窮屈なものだった。だからといって、故郷のルウファが好きなわけではない。父親は早く死に、母親はいつも貧困に苦しんでいた。小さい頃、一度神に祈ったことがある。どうかこの苦しい生活から逃れられますように、と。でも、ひもじい思いもしたし、母はいつもしんどそうだった。ある時、ルウファ新聞で神官が公募されていることを知った母親がムヒアスの意見など聞かずに勝手に申し込んだのだ。
ムヒアスは神殿を度々抜け出すことがあった。基本的に神官が外に出向くことはない。事の始まりはちょうどその時、庭園にある果実や植物の実りが悪く、ムヒアスはテヒシタに言われてルタという虫を捕りに行くことになったのだ。テヒシタ以外にも何人か神官はいるものの、厳しいのはテヒシタくらいだった。厳しいと言っても、それは神官の業務に携わることだけで、それ以外はもっぱら優しい。
ムヒアスが最初の外出以降、こっそり神殿を抜け出しても、テヒシタは特に何も言わず知らないふりをした。最年少で神官となったムヒアスはもちろん若い。ムヒアスが何も言わずこっそり出て行く時も、急を要してもいないが無理やり理由を作って外へ行く時も、テヒシタはムヒアスに何も言わなかった。もしかすると傍にいないルウファの息子を想っていたのかもしれないし、まだ若いムヒアスがもう少し外の世界を知っていても良いのではないかとテヒシタは考えていたのかもしれない。ムヒアスはそんなテヒシタの考えを知ることはなく、最後まで気づくことはなかったが。
「ククルカ、ありがとう」
いつも扉を開けてくれるのはククルカというムヒアスより少し年上の神官だった。テヒシタとククルカ以外に、インカという神官がもう1人いる。ユーシアという年配の神官もいるらしいが、ユーシアだけは例外を認められていてルウファで息子と住んでいる。
「ムヒアス、いつもどこに行ってるんだ?」
「…………」
ククルカがムヒアスに尋ねたが、それを煩わしそうに睨んだ。そのムヒアスの態度にククルカもどうしたものかと悩んでいる。
「そこで何してるんですか?食事の時間ですよ?」
ムヒアスとククルカの間に気まずい空気が流れていたところ、テヒシタがやって来たので、ムヒアスはこれ幸いにとその場を解散しようとした。
「インカとご飯を食べて来たらどうだ?」
テヒシタが見えなくなった後、ククルカにそう言った。ムヒアスが先ほどの問いに答えるつもりはないとククルカも分かったのか、ククルカはそれ以上、何も言わずにその場を去った。ククルカとインカは恐らく恋仲で、一度かまをかけたところ、動揺していたので実際にそうなのだろう。別に隠す必要はないと思うが、どうも2人は隠したいらしく、そのおかげでこうやって扉を開けてもらうのも頼みやすかった。ククルカもインカも十分優しい。自分がこうやって外に出ている理由も言ったら理解してくれるかもしれない。それでも、どこかで人を信じてはいけないという思いから、その理由を彼らに言うことはなかった。
ムヒアスが初めて外に出た時、ここから北にある湖でとれるルタという虫を捕まえてきて欲しいとテヒシタに言われたことが発端だった。神官は滅多に外に出ることはなく、神官は神殿の中で神に携わることを営む。神殿の庭で育つ植物や神官が口にする野菜の世話、井戸から水を汲む、神への祈り、毎日がそれの繰り返しで終わる。でも、その年、植物の実りが悪かった。特に白い綿のような植物・フッコが不作だった。テヒシタはそのフッコはルタという光り輝く虫の輝きと活気を好むと知っていたので、ムヒアスに頼んだのだ。ムヒアスは喜んだ。つまらない神殿での作業ではなく外の新鮮な空気を吸えるのだから。
ムヒアスにとって、神殿での生活は窮屈なものだった。だからといって、故郷のルウファが好きなわけではない。父親は早く死に、母親はいつも貧困に苦しんでいた。小さい頃、一度神に祈ったことがある。どうかこの苦しい生活から逃れられますように、と。でも、ひもじい思いもしたし、母はいつもしんどそうだった。ある時、ルウファ新聞で神官が公募されていることを知った母親がムヒアスの意見など聞かずに勝手に申し込んだのだ。
ムヒアスは神殿を度々抜け出すことがあった。基本的に神官が外に出向くことはない。事の始まりはちょうどその時、庭園にある果実や植物の実りが悪く、ムヒアスはテヒシタに言われてルタという虫を捕りに行くことになったのだ。テヒシタ以外にも何人か神官はいるものの、厳しいのはテヒシタくらいだった。厳しいと言っても、それは神官の業務に携わることだけで、それ以外はもっぱら優しい。
ムヒアスが最初の外出以降、こっそり神殿を抜け出しても、テヒシタは特に何も言わず知らないふりをした。最年少で神官となったムヒアスはもちろん若い。ムヒアスが何も言わずこっそり出て行く時も、急を要してもいないが無理やり理由を作って外へ行く時も、テヒシタはムヒアスに何も言わなかった。もしかすると傍にいないルウファの息子を想っていたのかもしれないし、まだ若いムヒアスがもう少し外の世界を知っていても良いのではないかとテヒシタは考えていたのかもしれない。ムヒアスはそんなテヒシタの考えを知ることはなく、最後まで気づくことはなかったが。
「ククルカ、ありがとう」
いつも扉を開けてくれるのはククルカというムヒアスより少し年上の神官だった。テヒシタとククルカ以外に、インカという神官がもう1人いる。ユーシアという年配の神官もいるらしいが、ユーシアだけは例外を認められていてルウファで息子と住んでいる。
「ムヒアス、いつもどこに行ってるんだ?」
「…………」
ククルカがムヒアスに尋ねたが、それを煩わしそうに睨んだ。そのムヒアスの態度にククルカもどうしたものかと悩んでいる。
「そこで何してるんですか?食事の時間ですよ?」
ムヒアスとククルカの間に気まずい空気が流れていたところ、テヒシタがやって来たので、ムヒアスはこれ幸いにとその場を解散しようとした。
「インカとご飯を食べて来たらどうだ?」
テヒシタが見えなくなった後、ククルカにそう言った。ムヒアスが先ほどの問いに答えるつもりはないとククルカも分かったのか、ククルカはそれ以上、何も言わずにその場を去った。ククルカとインカは恐らく恋仲で、一度かまをかけたところ、動揺していたので実際にそうなのだろう。別に隠す必要はないと思うが、どうも2人は隠したいらしく、そのおかげでこうやって扉を開けてもらうのも頼みやすかった。ククルカもインカも十分優しい。自分がこうやって外に出ている理由も言ったら理解してくれるかもしれない。それでも、どこかで人を信じてはいけないという思いから、その理由を彼らに言うことはなかった。
ムヒアスが初めて外に出た時、ここから北にある湖でとれるルタという虫を捕まえてきて欲しいとテヒシタに言われたことが発端だった。神官は滅多に外に出ることはなく、神官は神殿の中で神に携わることを営む。神殿の庭で育つ植物や神官が口にする野菜の世話、井戸から水を汲む、神への祈り、毎日がそれの繰り返しで終わる。でも、その年、植物の実りが悪かった。特に白い綿のような植物・フッコが不作だった。テヒシタはそのフッコはルタという光り輝く虫の輝きと活気を好むと知っていたので、ムヒアスに頼んだのだ。ムヒアスは喜んだ。つまらない神殿での作業ではなく外の新鮮な空気を吸えるのだから。
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