異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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第二章 拉致

許し難い現実 トルデンside[第一部完]

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 ふわっとした感覚。それは宙に浮いているかのようだった。その移動は一瞬だった。足の浮遊感がなくなる直前、母と自分の傍にいたという精霊・トッチに、精霊王についていくように言った。精霊は戸惑ったが、トルデンの強い意志を感じ取ったのか頷くとキラッと輝き、精霊王と消えて行った。

 地面に足がついてすぐ目に入った光景にカッとなり視界が揺らいだ。マルア国の王・マヌケスの後ろ姿。投げ出された白くて細い足。もう恐れはなかった。剣を取り出し、マヌケスの背中を切りつけた。赤い血が地面を汚し、自身にも跳ね返る。深く切り刻まれたマヌケスが前へ倒れ込まないように横に蹴った。その反動でマヌケスは口から血を吐いた。倒れたマヌケスの瞳は輝きを失い、すぐに絶命することが分かった。それでも、確実な死を求め、心臓を貫いた。精霊の加護を貰っていた母と母の故郷に申し訳なく思う。精霊は血や恐怖、人々の嘆きが嫌いだから。母国を汚すようなことをしてしまった。それでも、少しの戸惑いもなくマヌケスを殺し、憎い男が絶命した後でも怒りと憎しみは消えなかった。

 トモヤが小さな声で私の名を呼ぶ。人を殺してしまった彼は私を嫌いになるだろうか?

 殴られ、痣ができ、何かがこびりついてくっついた髪。ただ、ただ謝ることしかできなかった。抱きかかえると、こちらの世界に来た時よりも軽く、自分を呪うしかなかった。外套をきちんと着せてあげたいのに、背中にかけられた手枷の鍵を探すも見つからず、剣で壊そうと試みるも簡単には外れなさそうだった。手が震え、やり場のない怒りで色々な感情が渦巻き抑えられなかった。

 トンと胸に頬を預けたトモヤは意識を失った。まだ怒りは収まらない。自分にもこの国の人間にも。トモヤが起きないようにゆっくりと歩き、地下牢を出た。



 この日、トルデンがマルア国を出てすぐ、マルア国の空にはどんよりとした雲が覆った。

 最初は小雨だったが、次第に強くなり、大きな雷を交えて徐々に大雨となっていった。世界中の雨をかき寄せたのではないかというその稀に見ない悪天候は近隣の国の人々を恐怖に怯えさせた。でも、その雲はマルア国の上から動くことはなく、マルア国だけに降り注いだ。

 激しい雷と雨はマルア国の傭兵たちを死に至らしめた。雷に打たれる者、突風で吹き飛ばされ打ち所が悪く死に至る者、洪水に飲み込まれる者。恐れた傭兵たちはマルア国から出ようとしたが落雷と洪水で進路を断たれた。逃げることは許さないという神の意志であるかのように。

 その災害とも呼べる出来事は一晩中続き、しまいにはマルア国の全てが失われた。最後の1人が死に、すべてがなくなったその土地は本当に真っ白になってしまった。

 こうしてマルア国はこの世界から消失した。
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