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第二章 拉致
戦争中の国・マルア
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「痣ができているということは能力以外で出来た怪我も、身体に痛みがあるのは変わらないのか」
「……いてぇっ」
オークスがおもむろに短剣を取り出すと、浅い傷をオレの右腕に切りつけた。
「普通に傷つけてもいつものように意識は失わないのか……。いや、傷が浅いのか?」
オークスが今度は先ほどよりも少し深く斬りつけた。
「ぐっ、やめろよ……」
「大丈夫だ。殺しはしない。ただ確かめているだ」
そう言うオークスはニヤッと笑い、どこか楽しんでいるようだった。オークスは確認と称して何度かオレをいたぶった後、その傷口に薬を塗った。「効きが悪いが貴重な薬だ、感謝しろ」と嫌味を交えながら、オークスが言った。ガタガタと馬車が揺れる。
「今から行くマルア国は戦争真っ只中だ。多くの怪我を貰って、せいぜい生き延びるんだな」
それからどれくらいの時間が経ったのか分からない。ヒヒーンという馬の怯える鳴き声と共に、馬車は止まった。
「つ、つきました。早く降りてください。私はここまでです」
扉が開き、御者が怯えた声でそう言うと、早く降りるようにと急かした。遠くの方から足音が聞こえる。「ひっ」という御者の小さな悲鳴が聞こえたが、オークスは気にせず馬車から降りると、オレを引きずり下ろした。オークスは御者に金貨の袋を投げつけると、すぐさまその御者は走り去った。すぐ傍には屈強な男たちが立っており、威圧感を放っている。アドニク国でオレたちに声をかけてきた男に体格や風貌が似ていた。
「例の人間を連れて来た。案内しろ」
オークスは物怖じせず、その男たちに言った。その男たちはじろじろとオレを見るも、ついて来いと顔を動かした。見上げると目の前には薄汚い城があった。どんよりとした空も相まってその城には化け物がいるのではないかと思った。鉄格子の扉が開き、ドンドン中へと進む。どんよりとした空間に、血の匂いと悪臭が漂っていた。連れて行かれた先は、赤いカーペットが敷かれており、仰々しい椅子や煌びやかな燭台が置かれていて、比較的綺麗だと思われたが、先ほどよりマシというだけで十分汚いし、匂いは消せない。
王座には1人の男が座っていた。年齢は分からないが中年あたりだろうか?目の下にはクマがあり、短い黒い髪もどこか汚く見える。オークスがオレを床に跪かせると、その男はじろじろとオレを見た。
「そいつが本当に傷を貰い受けるのか?」
「はい、マヌケス国王陛下。この世界にはいませんが、治癒師みたいなものだと思って頂ければ」
マヌケスと呼ばれた男は、オークスに尋ねた後、もう一度転がっているオレに視線を落とした。その視線はまだ疑っている。
「こんなガキに本当に能力が?」
「もし良ければ一度お試しください」
「えっ?」
オークスの唐突な提案に驚いていると、マヌケスはオレの傍にいた男に炎の槍を打ち込んだ。「ぐはぁ」と傭兵が怪我した腕を押さえながら地面にうずくまり、傷口から流れる血を押さえている。オークスはオレの腕を掴み引きずると、その男に触れさせた。
「うぐぁっ……」
「い、いたくない!すごい!治った!治ったぞ!」
痛みのなくなった傭兵は驚きの声をあげている。マヌケスもその傭兵に近寄り、本当に怪我が治ったか確認している。
「いいだろう。高い金を払うんだ。お前には十分働いてもらうぞ」
見上げた先のマヌケスという男は興味深そうにオレを見ていた。
「手に触れさせたら怪我だけでなく毒も吸収します。どれだけ酷い怪我でも、死ぬと言われている毒でも能力のおかげか死ぬことはありません。ただ、実際に本人を傷つけると通常の人のように弱るようです。先ほどの怪我を除いて、ずっと怪我を貰っていなかったので万全の状態でしょう。ただ時折、水と食事は与えた方がいい。一応、餓死寸前でも怪我を貰っている状態だったら生き延び、本人の生死より能力が優先されるみたいですが、それ以上のことは確認できていないのでくれぐれも扱いにはお気をつけを」
「ふむ、よかろう」
オークスが淡々とオレの能力について説明した。オークスがどうしてアドニク国でオレに怪我を貰わせて大人しくさせなかったのか分からなかったが、これが理由らしい。確かにそれなら馬車の中で色々と確認していたのも納得がいく。
マヌケスという男が近くの傭兵に何か指示を出した。それはオークスに向けて攻撃をしかけようとする合図だった。でも、オークスはその攻撃を難なく避け、こう告げた。
「私を殺すのは得策ではないかと?元とは言えグルファン王国の騎士団長を務めていた。それにあの大国の内情を知るのも私だけだ」
そう言うとマヌケスもここでオークスに挑むのは良くないと思ったのか、手下に下がるように指示を出すと、いくつかの袋をオークスの足元へ放り投げた。オークスはそれを取ると中身を確認した。1つの袋には金貨が、そしてもう1つの袋には宝石らしきものが入っているようだ。それを手に取りほくそ笑む。
「またいい話があれば持ってきましょう。それでは」
そう言うと、オークスはその場を去った。
「そいつを地下牢に閉じ込めて、早速負傷した傭兵たちの怪我をもらわせろ」
マヌケスがそう言うと、傭兵の1人がオレの腕を掴むと、どこかへと引きずるように連れて行った。
「……いてぇっ」
オークスがおもむろに短剣を取り出すと、浅い傷をオレの右腕に切りつけた。
「普通に傷つけてもいつものように意識は失わないのか……。いや、傷が浅いのか?」
オークスが今度は先ほどよりも少し深く斬りつけた。
「ぐっ、やめろよ……」
「大丈夫だ。殺しはしない。ただ確かめているだ」
そう言うオークスはニヤッと笑い、どこか楽しんでいるようだった。オークスは確認と称して何度かオレをいたぶった後、その傷口に薬を塗った。「効きが悪いが貴重な薬だ、感謝しろ」と嫌味を交えながら、オークスが言った。ガタガタと馬車が揺れる。
「今から行くマルア国は戦争真っ只中だ。多くの怪我を貰って、せいぜい生き延びるんだな」
それからどれくらいの時間が経ったのか分からない。ヒヒーンという馬の怯える鳴き声と共に、馬車は止まった。
「つ、つきました。早く降りてください。私はここまでです」
扉が開き、御者が怯えた声でそう言うと、早く降りるようにと急かした。遠くの方から足音が聞こえる。「ひっ」という御者の小さな悲鳴が聞こえたが、オークスは気にせず馬車から降りると、オレを引きずり下ろした。オークスは御者に金貨の袋を投げつけると、すぐさまその御者は走り去った。すぐ傍には屈強な男たちが立っており、威圧感を放っている。アドニク国でオレたちに声をかけてきた男に体格や風貌が似ていた。
「例の人間を連れて来た。案内しろ」
オークスは物怖じせず、その男たちに言った。その男たちはじろじろとオレを見るも、ついて来いと顔を動かした。見上げると目の前には薄汚い城があった。どんよりとした空も相まってその城には化け物がいるのではないかと思った。鉄格子の扉が開き、ドンドン中へと進む。どんよりとした空間に、血の匂いと悪臭が漂っていた。連れて行かれた先は、赤いカーペットが敷かれており、仰々しい椅子や煌びやかな燭台が置かれていて、比較的綺麗だと思われたが、先ほどよりマシというだけで十分汚いし、匂いは消せない。
王座には1人の男が座っていた。年齢は分からないが中年あたりだろうか?目の下にはクマがあり、短い黒い髪もどこか汚く見える。オークスがオレを床に跪かせると、その男はじろじろとオレを見た。
「そいつが本当に傷を貰い受けるのか?」
「はい、マヌケス国王陛下。この世界にはいませんが、治癒師みたいなものだと思って頂ければ」
マヌケスと呼ばれた男は、オークスに尋ねた後、もう一度転がっているオレに視線を落とした。その視線はまだ疑っている。
「こんなガキに本当に能力が?」
「もし良ければ一度お試しください」
「えっ?」
オークスの唐突な提案に驚いていると、マヌケスはオレの傍にいた男に炎の槍を打ち込んだ。「ぐはぁ」と傭兵が怪我した腕を押さえながら地面にうずくまり、傷口から流れる血を押さえている。オークスはオレの腕を掴み引きずると、その男に触れさせた。
「うぐぁっ……」
「い、いたくない!すごい!治った!治ったぞ!」
痛みのなくなった傭兵は驚きの声をあげている。マヌケスもその傭兵に近寄り、本当に怪我が治ったか確認している。
「いいだろう。高い金を払うんだ。お前には十分働いてもらうぞ」
見上げた先のマヌケスという男は興味深そうにオレを見ていた。
「手に触れさせたら怪我だけでなく毒も吸収します。どれだけ酷い怪我でも、死ぬと言われている毒でも能力のおかげか死ぬことはありません。ただ、実際に本人を傷つけると通常の人のように弱るようです。先ほどの怪我を除いて、ずっと怪我を貰っていなかったので万全の状態でしょう。ただ時折、水と食事は与えた方がいい。一応、餓死寸前でも怪我を貰っている状態だったら生き延び、本人の生死より能力が優先されるみたいですが、それ以上のことは確認できていないのでくれぐれも扱いにはお気をつけを」
「ふむ、よかろう」
オークスが淡々とオレの能力について説明した。オークスがどうしてアドニク国でオレに怪我を貰わせて大人しくさせなかったのか分からなかったが、これが理由らしい。確かにそれなら馬車の中で色々と確認していたのも納得がいく。
マヌケスという男が近くの傭兵に何か指示を出した。それはオークスに向けて攻撃をしかけようとする合図だった。でも、オークスはその攻撃を難なく避け、こう告げた。
「私を殺すのは得策ではないかと?元とは言えグルファン王国の騎士団長を務めていた。それにあの大国の内情を知るのも私だけだ」
そう言うとマヌケスもここでオークスに挑むのは良くないと思ったのか、手下に下がるように指示を出すと、いくつかの袋をオークスの足元へ放り投げた。オークスはそれを取ると中身を確認した。1つの袋には金貨が、そしてもう1つの袋には宝石らしきものが入っているようだ。それを手に取りほくそ笑む。
「またいい話があれば持ってきましょう。それでは」
そう言うと、オークスはその場を去った。
「そいつを地下牢に閉じ込めて、早速負傷した傭兵たちの怪我をもらわせろ」
マヌケスがそう言うと、傭兵の1人がオレの腕を掴むと、どこかへと引きずるように連れて行った。
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