40 / 80
第二章 拉致
追い詰められる心
しおりを挟む
「はぁはぁっ」
2人で肩で呼吸しながら、茂みに隠れ、辺りを確認する。ようやく男たちを撒けたことに胸を撫でおろした。近くの木の穴蔵でオレたちは休むことにした。少し落ち着いてから先ほどの奴らについてムヒアスに尋ねた。
「さっきの奴らはドドルア国とファーカス国って言う国の奴らなのか?ここはさっき言ってたグルファン王国の領地なのか?どうしてここだと大丈夫なんだ?」
「……あぁ、そうだ。ドドルア国とファーカス国はグルファン王国を良く思っていないが、太刀打ちできない。むやみに領地に入ってもめ事を起こす気はないだろう」
今、入り込んだ森はギリギリ、グルファン王国の領地で、先ほどの2ヶ国はこちらに寄り付かないらしい。妊婦さんを助けた川辺はちょうどグルファン王国とドドルア国、ファーカス国の境目。今まで通って来た道は、そこから少しだけドドルア国を通ってファーカス国に入っていたとのことだ。その2ヶ国はグルファン王国に対して公然と敵意は見せていないので、大きなもめ事はないが腹に何かを抱えているらしい。
「逃げた御者が言っていたようにドドルア国とファーカス国は今、ピリついている。東の方で大きな戦争が起こり、それに乗じてグルファン王国に攻め込めないかと考えているのではないかと言われている」
「……そうなのか。じゃぁ、どうしてあいつらはオレを探してたんだ?」
「お前のことが以前新聞に載っていた。自己犠牲能力で第二王子の命が助かったと。さっきも言ったが、ドドルア国もファーカス国も戦争を起こそうと考えているのなら、お前の能力は欲しいはずだ」
ムヒアスが静かに言う。ムヒアスは紐のような何かを手に握り、ジッと見ていた。よく見るとそれは薄汚れたリボンだ。元は白かったはずのそのリボンはくすんで薄茶色の染みがついていた。血で汚れた箇所が時間が経ってくすんでいるのだ。
ムヒアスから聞いた国同士の関係は、ぶっちゃよく分からない。でも、今、ムヒアスが何かに追い詰められ苦しんでいることはオレのせいだと言うのは、はっきりと分かる。
「オレのせいでお前は巻き込まれたんだよな……ごめん」
「いや……」
その時、外からパキッと木の枝が折れる音が聞こえた。先ほどの男たちがやって来たのだろうか?ムヒアスはグルファン王国にあいつらは入ってこないと言っていたけど……。
ムヒアスと一緒に穴蔵から隠れて外の様子を盗み見た。そこにいたのはグルファン王国の騎士服を着た男だった。
(オレを探しに来たのだろうか……?オレを助けに来た?)
結局のところ、ムヒアスがオレを何処に連れて行こうとしているのか聞きそびれたままだ。でも、ルアという女性を助けたいのならグルファン王国に助けを求めたらいいのではないか?って考えた。グルファン王国が助けてくれるか分からない。でも、少なからずトルデンに言えば、絶対助けてくれるはずだ。
どうすればいいのか考えあぐねていると、その騎士はこちらの方へと近づき、その騎士の顔を見て驚いた。その男の顔に見覚えがあったからだ。オレを神殿の地下牢へと閉じ込めた騎士の1人だ。こちらを黙って見ている。その後ろから別の騎士がやって来て、声をかけた。
「おい、どうした?」
「いや、何でもない。あっちの方の偵察に行こう。ちょっと用を足してから行くから先に行っててくれ」
「あぁ、分かった」
ムヒアスも騎士の男があいつだと気付いて、じっと黙って様子を窺っている。騎士の男はもう1人の男が遠くへ行ったことを確認した後、更にこちらへと近づいてきた。
「おい、いるんだろ」
ムヒアスとオレはどうしたものか悩み、顔を見合わせた。ここにオレたちがいると男は確信しているのだろう。もう一度、こちらに向かって呼びかけた。ムヒアスとオレはしょうがなしに木の穴蔵から出た。
「伝言だ」
その騎士はひと房の髪束を地面に投げ捨てた。綺麗に輝く金色の髪。切られたその髪は、うるおいを失っているが、透き通るような白さが残っている。触ってもいないが、その髪は柔らかいのだろうと思う。ムヒアスが、地面に膝まづいてその髪束を拾い、握りしめた。
「時間が迫っている。女の命が惜しければ早くしろ。あっちに馬車を用意してある。すぐに迎え」
「ルア!ルアは大丈夫なのか?!うぐぁっ!」
ムヒアスの叫びを無視して男が近づくと、ムヒアスを蹴り上げた。そして、剣で深く、ムヒアスの手を突き刺した。
「おいっ!何やってるんだ!やめろっ!」
「もう少しか?」
「うがぁっ!」
騎士は剣を引き抜き、ムヒアスのもう片方の手にも剣を突き刺した。綺麗な髪束が赤く染まっていく。やめさせたくて騎士にドンとタックルするもビクともしない。せめてこれ以上、ムヒアスに怪我をさせたくなくて縛られた両手でその騎士の腕を掴み、ムヒアスから引き離そうとした。それでも、やはりビクともしなくて、オレは必死に叩いた。騎士がもう一度、ムヒアスを蹴り上げた後、こちらを向くと、オレの手首を掴んだ。
「……?!うぐぁっ!」
よくよく考えたらこの騎士はオレの能力を知っているのだ。そして、ムヒアスを剣で斬りつけたのも、オレにもらわせるためなのだと分かった。ムヒアスは手が血にまみれてもその髪束を離していない。男はオレの手をムヒアスに触れさせると、両手にズキズキと突き刺すような痛みがやって来て、意識を失った。
2人で肩で呼吸しながら、茂みに隠れ、辺りを確認する。ようやく男たちを撒けたことに胸を撫でおろした。近くの木の穴蔵でオレたちは休むことにした。少し落ち着いてから先ほどの奴らについてムヒアスに尋ねた。
「さっきの奴らはドドルア国とファーカス国って言う国の奴らなのか?ここはさっき言ってたグルファン王国の領地なのか?どうしてここだと大丈夫なんだ?」
「……あぁ、そうだ。ドドルア国とファーカス国はグルファン王国を良く思っていないが、太刀打ちできない。むやみに領地に入ってもめ事を起こす気はないだろう」
今、入り込んだ森はギリギリ、グルファン王国の領地で、先ほどの2ヶ国はこちらに寄り付かないらしい。妊婦さんを助けた川辺はちょうどグルファン王国とドドルア国、ファーカス国の境目。今まで通って来た道は、そこから少しだけドドルア国を通ってファーカス国に入っていたとのことだ。その2ヶ国はグルファン王国に対して公然と敵意は見せていないので、大きなもめ事はないが腹に何かを抱えているらしい。
「逃げた御者が言っていたようにドドルア国とファーカス国は今、ピリついている。東の方で大きな戦争が起こり、それに乗じてグルファン王国に攻め込めないかと考えているのではないかと言われている」
「……そうなのか。じゃぁ、どうしてあいつらはオレを探してたんだ?」
「お前のことが以前新聞に載っていた。自己犠牲能力で第二王子の命が助かったと。さっきも言ったが、ドドルア国もファーカス国も戦争を起こそうと考えているのなら、お前の能力は欲しいはずだ」
ムヒアスが静かに言う。ムヒアスは紐のような何かを手に握り、ジッと見ていた。よく見るとそれは薄汚れたリボンだ。元は白かったはずのそのリボンはくすんで薄茶色の染みがついていた。血で汚れた箇所が時間が経ってくすんでいるのだ。
ムヒアスから聞いた国同士の関係は、ぶっちゃよく分からない。でも、今、ムヒアスが何かに追い詰められ苦しんでいることはオレのせいだと言うのは、はっきりと分かる。
「オレのせいでお前は巻き込まれたんだよな……ごめん」
「いや……」
その時、外からパキッと木の枝が折れる音が聞こえた。先ほどの男たちがやって来たのだろうか?ムヒアスはグルファン王国にあいつらは入ってこないと言っていたけど……。
ムヒアスと一緒に穴蔵から隠れて外の様子を盗み見た。そこにいたのはグルファン王国の騎士服を着た男だった。
(オレを探しに来たのだろうか……?オレを助けに来た?)
結局のところ、ムヒアスがオレを何処に連れて行こうとしているのか聞きそびれたままだ。でも、ルアという女性を助けたいのならグルファン王国に助けを求めたらいいのではないか?って考えた。グルファン王国が助けてくれるか分からない。でも、少なからずトルデンに言えば、絶対助けてくれるはずだ。
どうすればいいのか考えあぐねていると、その騎士はこちらの方へと近づき、その騎士の顔を見て驚いた。その男の顔に見覚えがあったからだ。オレを神殿の地下牢へと閉じ込めた騎士の1人だ。こちらを黙って見ている。その後ろから別の騎士がやって来て、声をかけた。
「おい、どうした?」
「いや、何でもない。あっちの方の偵察に行こう。ちょっと用を足してから行くから先に行っててくれ」
「あぁ、分かった」
ムヒアスも騎士の男があいつだと気付いて、じっと黙って様子を窺っている。騎士の男はもう1人の男が遠くへ行ったことを確認した後、更にこちらへと近づいてきた。
「おい、いるんだろ」
ムヒアスとオレはどうしたものか悩み、顔を見合わせた。ここにオレたちがいると男は確信しているのだろう。もう一度、こちらに向かって呼びかけた。ムヒアスとオレはしょうがなしに木の穴蔵から出た。
「伝言だ」
その騎士はひと房の髪束を地面に投げ捨てた。綺麗に輝く金色の髪。切られたその髪は、うるおいを失っているが、透き通るような白さが残っている。触ってもいないが、その髪は柔らかいのだろうと思う。ムヒアスが、地面に膝まづいてその髪束を拾い、握りしめた。
「時間が迫っている。女の命が惜しければ早くしろ。あっちに馬車を用意してある。すぐに迎え」
「ルア!ルアは大丈夫なのか?!うぐぁっ!」
ムヒアスの叫びを無視して男が近づくと、ムヒアスを蹴り上げた。そして、剣で深く、ムヒアスの手を突き刺した。
「おいっ!何やってるんだ!やめろっ!」
「もう少しか?」
「うがぁっ!」
騎士は剣を引き抜き、ムヒアスのもう片方の手にも剣を突き刺した。綺麗な髪束が赤く染まっていく。やめさせたくて騎士にドンとタックルするもビクともしない。せめてこれ以上、ムヒアスに怪我をさせたくなくて縛られた両手でその騎士の腕を掴み、ムヒアスから引き離そうとした。それでも、やはりビクともしなくて、オレは必死に叩いた。騎士がもう一度、ムヒアスを蹴り上げた後、こちらを向くと、オレの手首を掴んだ。
「……?!うぐぁっ!」
よくよく考えたらこの騎士はオレの能力を知っているのだ。そして、ムヒアスを剣で斬りつけたのも、オレにもらわせるためなのだと分かった。ムヒアスは手が血にまみれてもその髪束を離していない。男はオレの手をムヒアスに触れさせると、両手にズキズキと突き刺すような痛みがやって来て、意識を失った。
12
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる