異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

文字の大きさ
上 下
34 / 80
第一章 手に入れた能力

ルウファ図書館 トルデンside

しおりを挟む
 それからまた数日、オークスの嫌味と繰り返される攻撃に辟易としていた頃、オークスが明日は神殿に行くと言ったので、その隙を狙ってルウファの図書館へと向かった。未だにムヒアス神官は行方が分かっていない。ムヒアス神官がいなくてもトモヤが元の世界に戻る方法がないか調べるために向かった。

 図書館の3階へと向かう。トモヤを連れて行こうか悩むも3階に入れる人間は制限がかかっている。

「トルデン様……母君のこと、お悔やみ申し上げます。トルデン様も、ご無事で何よりで……」

 そう声をかけてきたのは、司書のロズメアだった。彼女は口調はゆっくりなものの、頭の回転は早く、この図書館3階を取り仕切る唯一の司書だ。ロズメアはもう結構良い年で短い白髪は少しくるっとカールしている。少しふくよかな身体で、優しい顔つきで、少し縁の太い銀色の眼鏡も彼女に似合ってる。

 唯一というのは、図書館3階は機密内容や公開していない書籍などがあり、厳重に管理する必要があるので、最低限の人員で管理している。それがロズメアだった。

 そんな彼女だが先ほどの言葉はいつものようなのんびりさはなく、私への気遣いが見受けられた。私が御礼を言うと、いつものようにのんびりとした口調に戻ったのだけど。

「トルデン様、今日はなにようですか?お久しぶりですねぇ。まぁ、自由に見てくださいませ。そんなことより私の腰がもう悲鳴をあげてるんですがねぇ。他国出身の私がここで働けているのは嬉しいことですが、この年になってまで、なっがい言葉を覚えないといけないのも……」
「ロズメア、いつもありがとうございます。そうですよね……。今度ラウリアに伝えておきます。あ、そうだ。今日はロズメアの好きなお菓子を持ってきましたよ。あとで食べてください」

 そう言うとロズメアの疲れていた顔が元気になった。渡したのは、ヌワンエリという植物の葉の砂糖漬けだ。ヌワンエリはあまり花を咲かすことはなく希少で、その花で飲む紅茶は特別美味しい。通常はヌワンエリの葉で紅茶を飲むが、そちらももちろん美味しい。今日持ってきたヌワンエリの葉の砂糖漬けは、ロズメアが以前食べたいと言っていたものだった。

「まぁ、ありがとう!これを食べると明るく楽しい気持ちになるだけでなく、頭も冴えるから嬉しいのよねぇ」

 ロズメアへの挨拶をそこそこに目当ての本を探した。召喚者が元に戻る方法だ。

(おかしいですね……?)

 歴史的な本はあるものの、召喚者について分かるものは一切なかった。召喚者が元に戻る方法だけでなく、どうやって召喚されるかとかもだ。普通はあっても良さそうなのに。

「トルデン様、お目当てのはありましたぁ?」
「……ロズメア、召喚された人間が元に戻る方法が載っている本をご存知ですか?できれば神託の下りた神官がいなくても戻る方法……いえ、元に戻る方法だけでなくそれに関する本ならなんでもいいので……」
「あー、恐らくないですわねぇ」
「そうなんですか……」

 ロズメアはキョロキョロと周りを見渡して、誰もいないことを確認するとこっそりと言った。

「トルデン様、私の故郷ではこういう言い伝えがあります。『不都合なことは隠し、記録には残されない。言い伝えで知るべきことが多し』と」
「ロズメア……?」

 ロズメアののんびりした口調から一転して、少し低い声でそう言った。そこでロズメアの出身国は、オクアル国という北東にある小さな国で、占星術ができる人が多かったことを思い出した。でも、ロズメアには占星術の素質があまりなく、ほとんどできないと言っていたはずだ。でも、オクアル国出身というだけで、手際の良さや記憶力が逸脱していて、こうやって図書館3階の仕事をこなしてくれている。

「ふふふ、まるで秘境の地・ナミルのようですね」

 秘境の地・ナミル。これもまた不思議な国だった。その国は地図上には存在せず、どこにあるか分からない。入国できる時期や出国する時期が決まっていて、入国するには審査があると言われている。見たことのない国だが、自然豊かで人々の優しさが詰まったような国だと聞いたことがあった。ふと母の故郷のルゥ国を思い出す。

「トルデン様、急にごめんなさいねぇ。さっき我慢できなくて頂いたヌワンエリの砂糖漬けを食べたら急にさっきの言葉が頭に降りてきてぇ。でも、残念ですが、トルデン様のお求めになっているものはきっとありませんの」

 結局知りたいことは何一つ分からないまま城へと戻ることにした。トボトボと母の部屋に戻ると、驚いたことにトモヤがいた。

「どこ行ってたんだよ」

 トモヤは交換条件で魔術の訓練に行き始めたのを知っていて、怒っていた。トモヤに説明してもそれでも納得してもらえないようで、このような状況に狼狽えてしまう。

「……これ以上私のせいでトモヤを巻き込みたくなくて……」

 そう言うとトモヤはとんでもないことを言い出した。訓練で怪我させた騎士の怪我を貰い受けるとトモヤが言った時、自分でも感情が抑えきれずに荒げた声を出してそれの意味を確認した。驚いた表情をするトモヤにハッと我に返り、気を落ち着かせた。なにより相手の怪我はもう治ってる。トモヤが変な気を回さないようにそれを伝える。

 トモヤはその後も、部屋に戻らない理由や今日どこに行っていたか、気になることを私に問いただした。全て正直に答える。

「……どうしてオレなんかのためにそこまでするんだよ」
「私のせいでトモヤがこちらに呼び出されたので……トモヤが利用されてしまうことが、それでトモヤが苦痛を受けてしまうことが……嫌なんです」
「あぁ、お前はオレの為というよりも自分の罪滅ぼしの為にオレを前の世界に返そうとしてるんだな……」

 慌てて否定しようとするも、トモヤは「別にいい」と話を終わらせてしまった。

 どうしてだろう……?私がさっき言ったことは本心だ。トモヤをこれ以上、巻き込みたくないし、元の世界に戻らせたかった。でも、決して罪悪感を持ってのことじゃなかった。それを上手く伝えることができない。今まで人と関わることを避け、トラブルなど起こさないように無難に逃げ回って来たツケがここで来るなんて……。怒ったトモヤにどうしたらいいのか分からずうなだれて、黙り込んでしまう。

「……あれ、母親?」

 気まずい雰囲気の中、トモヤが尋ねた。母の写真だ。私に似ていると言ってくれて嬉しくて微笑んだ。傍により一緒にその写真を見ると、トモヤはもう1つの写真に気付き、手に取った。母と私たち兄弟が映っている写真。懐かしい気持ちが込み上げた。

 トモヤに「部屋に戻るぞ」と言われて素直に従った。先ほどの気まずい雰囲気もトモヤが母の写真を話題に振ってくれて、今も私が部屋に戻りやすいようにトモヤがきちんと、私が大丈夫というまで近寄らないと言ってくれた。

(私の方が年上なのにトモヤに気を遣わせてしまいましたね……)

 でも、またトモヤと過ごせるのだと思うと何故だか嬉しい気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...