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第一章 手に入れた能力

念じるってどういうこと……?

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 医務室で騎士の怪我を貰い受けてから数日が経った。左肩だけでなく全身がズキズキと痛み、熱を出してうなされながらベッドにずっと横たわっていた。飲み物を飲むことも食事することもままならなかったが、トルデンがその都度甲斐甲斐しく世話をした。

(こいつ……オレにかまってばっかでいいのかな……?)

 連日嫌々行っていた訓練もトルデンはオレが倒れてから行っている気配はない。時折瞼を開けるとトルデンはすぐに気付き、オレの左肩を庇うように抱き起こしては水を飲ませ、パン粥を食べさせた。オレが汗をかけば服を脱がして気持ちの良い温度のタオルでオレの身体を拭き、清潔な服に着替えさせる。全然動けないオレは、トルデンにされるがままだった。

 ようやく次にしっかりと意識を持ち、喋れるようになったのはその2日後だった。

「トモヤ、大丈夫ですか……?トモヤを1人にしてごめんなさい……」
「い、や……それ、よりも……」

 ずっと寝続けていたせいか声がカスカスだ。トルデンがオレを優しく起こし、いつものように水を飲ませた。

「あいつ……あの男に、無理やり……」

 オレはあのオークスという男に無理やり怪我を貰い受けさせられたことをトルデンに早く伝えたかった。

「……大丈夫です。もうあの男に触れさせません。まだしんどい時にすみません。でも、確認したくて……トモヤは無理やりと言いましたよね?トモヤが念じたわけではないのですか……?」

 トルデンが持ってきたパン粥を食べているとトルデンが尋ねた。オレは頷き、あったことを伝える。オークスに無理やり怪我した騎士の腕に触らされたこと。そして、トルデンの時もオレは念じたわけではなく手が触れた時に毒を貰い受けたのだと伝えた。

「そう、なんですか……私、知らなくて……すみませんでした……」
 
 トルデンが泣きそうな声でオレに謝った。トルデンの毒を貰い受けてからトルデン以外と触れ合うことはなかったし、そのトルデンも怪我などしていなかったからすっかりそのことを忘れていたのだ。

「その念じるっているのは何なんだ?」
「通常、召喚者は念じることでその魔力を使いこなすことができます。これは魔術を使う人間にも言えることですなんですが……」

 魔術も召喚者の能力も念じることで使うことができるらしい。だから、オレの能力もオレの意志で念じて使うことができるはずなのだ。でも、実際は触れただけで毒や怪我を貰い受けた。オレの意志に関係なしに。

「……オレは一度も念じてない」
「私にもどうしてか分かりません……。ムヒアス神官がいたら分かったかもしれないのですが……。ただ、言えることはトモヤは誰かに絶対触れないでください。勝手に貰い受けてしまうと言うのならそこは絶対に守ってください」

 トルデンが続けて「私にもです……」と悲しそうな顔をして言った。


 それから数日が経った。トルデンはオレの手が触れそうになるとそれを避ける。もちろんオレもわざと触れようとしてるわけではない。でも、ちょっとした瞬間に触れてしまいそうになることってあるだろ?皿を渡す時とかコップを貰う時。そんな時にトルデンはいち早く気付き、オレの手を避けるのだ。

 前の世界で風呂に入れなかった小さい頃、オレが誰かに触れそうになったら「ばっちぃ」と言われて避けられたことがあった。あの時は別にそんなの気にもしなかったのに、どうしてかトルデンに避けられるとオレは寂しく感じる。

「なぁ、さすがになんかイヤなんだけど……」

 今日もトルデンがオレの手を巧みにさけたので、オレは腹が立ち、思わずそう言っていた。

「あ、ごめんなさい……」
「いや、別に……」

 トルデンがあまりにも悲しそうな顔をする。オレはそんなつもりで言ったのではなかったのに。……ただ前のように接して欲しかっただけだ。オレは腹が立って、トルデンの手をぎゅっと掴んだ。

「なっ……トモヤ……?!」
「ほら?大丈夫だろ?お前だって怪我してたりしたら分かるんだから、そん時にそう言えよ。てか、お前、オレが言うまで甲斐甲斐しく世話してたじゃねーか」

 トルデンはオレがそう言うと納得したのか微笑んで頷いた。

「トモヤ、体調はどうですか?」

 トルデンは改めてオレに尋ねた。もうほとんど全快だ。痛みはあったが以前の毒の時より全然マシで寝込んでいた期間もずっと短い。そのことをトルデンに伝える。

「もしかすると……毒や怪我の期間と同じなのかもしれませんね……」

 トルデンは考え込んでそう言った。

「トモヤ、明日、もし体調が良ければルウファに一緒に行きませんか?」

 ルウファと言えばこのグルファン王国の大きな都市と言っていた場所だ。そして、以前神殿に行く時にトルデンがオークスに嘘をついた場所だ。

「明日は本当にルウファですよ。ルウファの観光をしましょう」

 オレが神殿のことを思い出したのに気付き、疑ったような表情をしたので、トルデンは慌てて弁解した。
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