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第一章 手に入れた能力
庭園
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「良い天気で良かったです」
「あぁ!」
あれからまた数日が過ぎ、今日は城の外にある庭園に遊びに来ている。トルデンはオレにずっと付き添っていて、王子なのにこんなに暇そうでいいのか?なんてオレが心配してしまう。トルデンは最初のうち、オレが病み上がりだからと外に連れ出そうとはしなかったし、本を読むのなら自分が読み聞かせると言うのでオレは介護されている気分だった。
いい加減、元気になったオレが怒るとトルデンはオレの健康状態を何度も確認しようやく庭園へと連れて行くと言った。それが今日だった。庭園は西の塔の上へと続く階段の窓から見下ろしたことがあったが、今、目の前で見て圧巻された。とても綺麗な花が咲き誇っていたからだ。
「花綺麗だな」
「私の母がここで花を見るのが好きだったんです」
「そうなのか……」
庭園は西の塔と東の塔の間にあって、大きな城の裏側にある。騎士たちがいる稽古場が近くにあるものの静かで、彩り鮮やかな鳥たちもその花を見にやって来てのどかな空間だ。トルデンが用意したお茶やお菓子がテーブルに並べられる。
「このクッキーは母がよく焼いてくれたものです。ボルと言われるお菓子です」
トルデンが座った時、稽古場と言われた方から1人の男がやって来た。厳かな赤色の騎士服を着たあの男だ。
「トルデン様、探しました」
「オークス騎士団長……神殿に行かれてたんじゃ……」
「まるで神殿に私が行っていて欲しいような言い方ですね。神殿の方でごたついて、トルデン様の魔術の訓練が遅れて申し訳ありません。あぁ、召喚者様、その節は大変無礼を失礼いたしました」
後半はオレに投げかけられた言葉だった。こいつのせいでオレは何日間もあの地下牢で過ごすことになったのだ。オレがきっとそいつを睨むと、オークスは肩を引いて口を開いた。
「そんなに怒らないでください。召喚者様に無礼を働いた騎士2名は厳重に処罰しましたので」
オークスが言った騎士2名と言うとオレを引きずり地下牢へ入れ、ずっと見張っていたあの2人だろうか?確かにあの2人も酷かった。でも、あの2人は目の前のこいつの命令を聞いていたのだ。どうしてこいつはここにいて、平然とオレたちに声かけているんだ。
「訓練の日程について近々お伝えします」
「……分かりました。ルウファでの作業も再開しますのでそちらを考慮して日程のほどお願いします……」
オークスは俺たちを一瞥すると去って行った。あからさまにトルデンは肩を落とし、元気がなくなっている。机に置かれたティーカップを見て小さく呟いた。
「せっかく入れたお茶が冷めてしまいましたね……」
オレは目の前のトルデンになんて声をかけたらいいか分からず、とりあえず目の前のクッキーを1つ取り、頬張った。砂糖ではない自然の甘さで頭がすっきりする。
「うまいな……」
「ふふっ、キトという癒しの木の実が入ってるんです。おいしいでしょ?」
「あぁ。お前の母親ってどんな人だったんだ……?」
トルデンは父親にはあまり好かれていないと言った。でも、母親のこと、母親が作った料理やお菓子、そして花について話す時はどこか嬉しそうだった。
「私の母はルゥ国出身でした。母はいつも優しくて、穏やかな人でした。母には魔力がなかったのですが、私には魔力がありました。ですが、使いこなすことができず、あの西の塔に……。母はそれを責めることなく、私に色々なことを教えてくれました……。誰かを愛すること、優しさ、命の尊さ……」
トルデンは最初、とまどいながら口を開いた。少しずつ話し始めていくうちに、嬉しそうに母親のことを語った。途中でトルデンはハッと我に返り「話過ぎましたね……」と言って、少し恥ずかしそうにした。
「トモヤのことを聞いてもいいですか?」
トルデンがオレに尋ねた。でも、オレにはトルデンのように母親を語ることはできない……。
「いや……オレには何も話すことがなくて……」
そう答えることしかできなかった。
「あぁ!」
あれからまた数日が過ぎ、今日は城の外にある庭園に遊びに来ている。トルデンはオレにずっと付き添っていて、王子なのにこんなに暇そうでいいのか?なんてオレが心配してしまう。トルデンは最初のうち、オレが病み上がりだからと外に連れ出そうとはしなかったし、本を読むのなら自分が読み聞かせると言うのでオレは介護されている気分だった。
いい加減、元気になったオレが怒るとトルデンはオレの健康状態を何度も確認しようやく庭園へと連れて行くと言った。それが今日だった。庭園は西の塔の上へと続く階段の窓から見下ろしたことがあったが、今、目の前で見て圧巻された。とても綺麗な花が咲き誇っていたからだ。
「花綺麗だな」
「私の母がここで花を見るのが好きだったんです」
「そうなのか……」
庭園は西の塔と東の塔の間にあって、大きな城の裏側にある。騎士たちがいる稽古場が近くにあるものの静かで、彩り鮮やかな鳥たちもその花を見にやって来てのどかな空間だ。トルデンが用意したお茶やお菓子がテーブルに並べられる。
「このクッキーは母がよく焼いてくれたものです。ボルと言われるお菓子です」
トルデンが座った時、稽古場と言われた方から1人の男がやって来た。厳かな赤色の騎士服を着たあの男だ。
「トルデン様、探しました」
「オークス騎士団長……神殿に行かれてたんじゃ……」
「まるで神殿に私が行っていて欲しいような言い方ですね。神殿の方でごたついて、トルデン様の魔術の訓練が遅れて申し訳ありません。あぁ、召喚者様、その節は大変無礼を失礼いたしました」
後半はオレに投げかけられた言葉だった。こいつのせいでオレは何日間もあの地下牢で過ごすことになったのだ。オレがきっとそいつを睨むと、オークスは肩を引いて口を開いた。
「そんなに怒らないでください。召喚者様に無礼を働いた騎士2名は厳重に処罰しましたので」
オークスが言った騎士2名と言うとオレを引きずり地下牢へ入れ、ずっと見張っていたあの2人だろうか?確かにあの2人も酷かった。でも、あの2人は目の前のこいつの命令を聞いていたのだ。どうしてこいつはここにいて、平然とオレたちに声かけているんだ。
「訓練の日程について近々お伝えします」
「……分かりました。ルウファでの作業も再開しますのでそちらを考慮して日程のほどお願いします……」
オークスは俺たちを一瞥すると去って行った。あからさまにトルデンは肩を落とし、元気がなくなっている。机に置かれたティーカップを見て小さく呟いた。
「せっかく入れたお茶が冷めてしまいましたね……」
オレは目の前のトルデンになんて声をかけたらいいか分からず、とりあえず目の前のクッキーを1つ取り、頬張った。砂糖ではない自然の甘さで頭がすっきりする。
「うまいな……」
「ふふっ、キトという癒しの木の実が入ってるんです。おいしいでしょ?」
「あぁ。お前の母親ってどんな人だったんだ……?」
トルデンは父親にはあまり好かれていないと言った。でも、母親のこと、母親が作った料理やお菓子、そして花について話す時はどこか嬉しそうだった。
「私の母はルゥ国出身でした。母はいつも優しくて、穏やかな人でした。母には魔力がなかったのですが、私には魔力がありました。ですが、使いこなすことができず、あの西の塔に……。母はそれを責めることなく、私に色々なことを教えてくれました……。誰かを愛すること、優しさ、命の尊さ……」
トルデンは最初、とまどいながら口を開いた。少しずつ話し始めていくうちに、嬉しそうに母親のことを語った。途中でトルデンはハッと我に返り「話過ぎましたね……」と言って、少し恥ずかしそうにした。
「トモヤのことを聞いてもいいですか?」
トルデンがオレに尋ねた。でも、オレにはトルデンのように母親を語ることはできない……。
「いや……オレには何も話すことがなくて……」
そう答えることしかできなかった。
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