異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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第一章 手に入れた能力

意外と譲らない性格

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「ほら、トモヤ、ちゃんと拭いてください」

 お風呂から出たトルデンと脱衣所へと向かうと、トルデンがタオルでオレをくるんで拭き始めた。目の前には服を着たまま濡れたせいでピッタリと肌にくっついた少し透けたシャツが見える。しっかりと張り付いているせいで、トルデンの体形が顕著に分かる。

 白い肌にピンク色の乳首。そして、あまり筋肉がなさそうだと思っていたのに、意外と筋肉質でお腹はきっと割れている。その体形にうらやましいと感じつつ、オレは何を見ているんだ?と恥ずかしくなり下を向いた。オレが下を向いたことを良いことに、トルデンがオレの頭を優しくゴシゴシとする。

「お、おいっ!自分でできるから!お前は自分を拭け」

 ハッと我に返り、オレはトルデンからタオルを奪い取った。

(どうしてオレはされるがままだったんだ……?)

 前の世界でオレはずっと1人でやっていた。だいたいお風呂に誰かと入るのも初めてだ。トルデンはオレがタオルを奪い取ったので、自分のシャツを脱ぎ始めた。やはり先ほども思ったけど、うっすらとお腹は6つに割れていて、綺麗なシックスパックだ。でも、ムキムキってほどじゃなくてソフトで良い感じだ。

「ト、トモヤ、そんなに見られると恥ずかしいです……」

 トルデンが恥ずかしそうにそう言い、その言葉でオレはトルデンのお腹をじっと見ていたことに気付き、頬がパーッと赤くなった。

「ちがっ……お前だってお風呂場ちょくちょく覗いてただろ!オレもそんな気持ちだからな!」

 オレがそう言うと、トルデンは首を傾げて「ふふっ、そうですね。今度からはあまり覗かないようにします」と言った。それぞれ着替えると、またトルデンの部屋へと戻って行った。部屋に着くと今度はお菓子を机に出してきた。そのお菓子を頬張りながらトルデンに質問する。
 
「そういやトルデンは何歳なんだ?」

「私ですか?今年20歳になります。トモヤは何歳ですか?」

 オレの予想した通り、トルデンは年上だった。オレはこちらの世界に来る前は17歳だったけど、あれから1ヵ月は経っていると言っていたからもう18歳になっているはずだ。オレは4月生まれだ。4月生まれと言えば3月生まれに比べて身長が高いと言われているのに(本当かどうか知らないけど)オレはどんな時も誰よりも身長が低かった。トルデンは身長が高い。オレより2歳年上だから高かったとしても、じゃぁオレがあと2年後にトルデンの身長になるかと言われればならない。

(なんか腹立つな……)

「……トモヤ?」

 オレが勝手に腹を立てているとトルデンが不思議そうに首を傾げて俺に声かけた。

「じゅう、はっさい……」

 オレはしぶしぶ年齢を答えた。トルデンはオレの年齢を聞いて驚いたような顔をした。

「おいっ!お前、今オレのこと身長低いとかガリガリだと思っただろ……」

 トルデンは口には出さなかったが、オレのことを見る目が同情的に感じたのだ。

「違いますよ……私はただ……トモヤはたくさん食べたらもっと大きくなりますよ。私が身長伸びたのもちょうどその頃でした」

 トルデンは何か言いかけて口をつぐんだ後、自分が身長が伸びた時の話をした。トルデンも昔、あまり大きくなかったらしい。その話を聞いてオレはちょっと嬉しくなった。

(ってことはオレもまだまだ伸びるはずだよな……)

「ふふっ、じゃぁお菓子ももっと食べないとですね」

 顔に出したつもりはなかったが、トルデンは少し微笑んだ後、机に置いてあったお菓子を一つ摘まむと俺の口の前へと持ってきた。

「じ、自分で食べれる!」
 
 トルデンはちょっとのことでもこうやってオレの面倒を見る。その度にオレは断るも、トルデンは隙さえあればオレに何かしようと甲斐甲斐しくオレの世話を焼こうとした。

「さぁ、トモヤ、まだまだ病み上がりなのですから、寝る時間ですよ」

 オレは大分元気になったと思っていたのに、疲れやすいみたいでもう眠気が来ていた。トルデンの方がオレよりもオレの体調管理をしている。トルデンがオレを抱きかかえてベッドへと連れて行こうとしたので、オレは自分で歩けると言ってベッドへと言った。

 この部屋のベッドは1人で寝るには大きすぎでどこらへんに寝ればいいのか悩んでしまう。
 トルデンがオレをベッドに運ぶ時は真ん中にオレを寝かせていたけど、真ん中で寝るのは贅沢に思えてベッドの隅の方に横たわった。布団はふわふわで、いつまで経ってもこの柔らかさにオレは慣れない。

「トモヤ、どうしてそんな隅っこで寝るんですか?もっと真ん中に行かないと落ちますよ?それにほらもっと肩までかぶらないと」

 トルデンがベッドの側へやって来て、オレをベッドの真ん中の方へ追いやると、口うるさくオレに小言を言いながら、肩まで軽くて肌さわりのいい布団をかぶせた。

「トモヤが寝付くまでずっと傍にいるので、トモヤは安心して眠ってください」

 お風呂の時もそうだが、こいつが傍にいるともちろんオレは落ち着かない。

「お前はどこで寝るんだよ……」
「私ですか?安心してください。トモヤに何かあってもすぐに対応できるように私はいつもあそこのソファで寝ています」

 トルデンが言っているソファはこの部屋にあるえんじ色のソファで、2人で座るとゆったりは座れるがトルデンが眠るには恐らく小さすぎる大きさだ。オレなら全然寝れるだろうけど……。それにあのソファはオレも座ったことがあるけど、柔らかいがこのベッドに比べると硬い素材だ。

「他に寝る場所はないのか?」

 オレにこの大きなベッドを譲って王子であるトルデンがソファで寝るのは落ち着かなかった。

「この部屋にはないですね……母の部屋にはベッドがありますが……トモヤの体調が戻るまで私はこの部屋にいます」

 またもトルデンは断固として譲らないという意志表示をする。基本的に優しいのにたまにこうやって譲らないことがある。

「……お前もベッドで寝ろよ」

 トルデンはオレの言っている意味が分からず首を傾げた。

「オレ1人でこのベッドは大きすぎるし、落ち着かないから別に一緒に寝てもいい。その代わり離れて寝ろよ」

 オレがここまで詳しく言うとようやくトルデンも理解したのか、驚いた表情をした。

「いいんですか?でも、ここならトモヤに何があってもすぐに対応できますね」

 トルデンが嬉しそうに言うので、変な奴だなと思った。オレが奥の方へと詰めると、トルデンもベッドの反対側の方に入り込んだ。

「トモヤ、もっと肩までかぶってください。寝ましょう。良い夢を」

 トルデンはオレの方を向いて瞼を閉じた。こちらの世界にやって来て初めて見た時のトルデンの顔色の悪さを思い出すと、大分良くなったことが目に見えて分かった。

 サラサラとした綺麗な金色の髪。オレとは似ても似つかない。優しさも綺麗さも。もう一度トルデンの綺麗な顔を眺めて、トルデンと同じように瞼を閉じて眠りについた。
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