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第一章 手に入れた能力

魔力はあるらしい

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「おい大丈夫か?」

 西の塔の部屋へと戻るため、2人で城の廊下を歩いていた。トルデンの様子が変だったので、隣にいるトルデンを見上げて、尋ねた。

「……心配させてしまいましたね。大丈夫です」

 トルデンはオレを心配させまいと俺にニコッと微笑んだ。でも、その微笑みが作られたものだと分かり、心のどこかでモヤっとした。西の塔の部屋へと戻るとトルデンはお茶をいれた。椅子に座り、出されたお茶は花の良い香りがして一口飲むと穏やかな優しい味がした。熱すぎない温度で飲みやすい。向かい側に座ったトルデンも一口飲むと優しくそのコップを置いた。トルデンの表情はまだ曇っているので、先ほどの国王陛下の部屋でのことを思い出し、トルデンに気になっていることを尋ねた。

「さっきのは父親なんだよな?」
「はい、先ほどお会いした国王陛下が私の父です。ですが、あまり好かれてはいないと思います……」
「ふぅん……。母親はどうしたんだ?」

 確かに向こうもトルデンのことを心配しているそぶりもなかったし、トルデンの態度からも苦手な相手なのだろうと分かった。ふと初めて食べた時のパン粥は母親がよく作ってくれたと言っていたことを思い出し、母親について尋ねた。でも、聞いた瞬間、トルデンの端整な顔が歪み辛そうな表情をしたので聞いたことを後悔した。

「母は少し前に亡くなりました……」
「わりぃ……そんなこと聞いて……」

 トルデンがそんな悲しい声を出すのが申し訳なくなり、すぐに謝った。

「いえ、気にしないで……お腹は空いていないですか?」

 そう言われて朝のパン粥以外食べていないことに気付いた。

「病み上がりなので消火にいいものを用意しますね。少し待っててください」

 トルデンはそう言うと部屋に戻って来たばかりだと言うのにすぐにまた出て行った。
 そして、すぐに何か持って帰って来て、手に持たれているお盆の上の丼ぶりのような器からは昨日と同じく湯気が立っている。目の前に置かれたその丼ぶりを覗き込むと、透明の出汁に白いヌルンとした短い麺のような何かと白い身が入っていた。

「ジムンという魚とギムコという麦をこねて餅麵にしたスープです。出汁はヨウロレインという貝からとってます」

 うどんみたいな感じだと思ったら本当にうどんみたいな料理だった。トルデンも座り、オレの前に置いたのと同じ器をコトンと置いた。トルデンも一緒に食べるらしい。

「熱いので気を付けてくださいね」

 湯気が立っていて熱いことは分かっているが、貝からとったと言われた出汁からは微かに塩の匂いが漂っていて空腹のお腹を刺激し、ゴクリと唾を飲む。スプーンを手に取り、器に突っ込むと短くて丸い麺をスプーンですくう。一口食べると短い麺はもちもちした触感で、温かい出汁が全身を温めてくれる。胃がポカポカして食欲が増し、もっと食べたくてスプーンで短い麺をすくうとまた口へと運んだ。

「ふふっ」

 トルデンがオレを見て少し笑う。その笑みはトルデンから自然と出たものだ分かり、オレは少し安心した。昨日トルデンに食べ物は逃げないと言われたことを思い出して、口に運ぶスピードを少しゆるめた。

「そう言えばずっとここに住んでるのか?」

 王子と言えばもっと良い部屋に住んでいてもいいのにこの部屋は綺麗だけど質素だ。普通は先ほど行った立派なお城の方に住むもんじゃないのだろうか?

「はい、私と母は小さな時からこの西の塔にいます。でも、この塔も住みやすいですよ?」

 聞くとこの塔にも食事を作る部屋とかもあるらしい。だからトルデンは食事をすぐに持ってこれたのだと分かった。

「さっき魔術の訓練って言われてたけど、どういうことなんだ?」
「私は……その魔力はあるんですが、うまく魔術を使いこなすことができなくて……」

 トルデンは濁すように言うので、あまり言いたくないようだ。トルデンがこちらをじっと見て止まっている。まるで何かを確かめるような感じでオレを見るので、次の餅麺をすくっていいのか悩み手を止める。

「あ、ごめんなさい。トモヤには魔力がありそうで良かったです」

 トルデンがオレの手が止まっていることに気付き謝った。その意味が分からずスプーンで餅麺をすくいながらも、首を傾げる。

「この世界では魔力がない人間はその……あまり地位が高くないんです……なので、トモヤに魔力があって良かったと思って……」
「ふぅん?じゃぁ、トルデンには魔力があんまりないのか?」

 先ほど魔術をうまく使いこなせないと言っていたことと、わざわざ「トモヤに」と言ったことが気になり、トルデンに魔力があまりないから魔術が不得意なのかと思ったのだ。

「いえ、魔力はある方だと思います……。トモヤも私と同じくらいの魔力だと思います。この世界では女性や子供には魔力があまりないんですが、成長するにつれて男性には魔力が徐々に備わってきます。もちろん女性でも魔力がある人も子供の時から魔力を持っている人も少なからずいますが」
「ふぅん。召喚された人間、全員に魔力があるもんじゃないのか?」
「実は誰かが召喚されたのはとても久しぶりなんです……。過去に召喚された人たちにも魔力があったと言われていますが、本当のところ分からないんです」
「過去に召喚された人たちはどこにいるんだ?新聞にオレのことを『素晴らしい人材になるだろう』と書いてあったけど、オレは元の世界に戻れないのか?」

 そう聞いたものの元の世界に心底戻りたいかと言われれば迷うところだが……。いやでも、この世界に来てすぐの出来事を思い出し、あんな待遇を受けるならどっちの世界も同じものかもしれない。そして、あの新聞の書き方が気になったのだ。オレの能力をこれからも使うという感じで書かれているように思ったのだ。毎回あの酷い痛みを受けないといけないのかと思うとゾッとする。

「いえ、過去の召喚者たちは役目を果たして元の世界へ帰った人もいると聞いています。召喚者は元の世界に戻るか、こちらの世界に残るかを選ぶことができるはずです。ですが、先ほど父はそのことについて何も言いませんでした。おそらく父はこの世界ーーこのグルファン王国に、トモヤが残って欲しいと考えていて、あえて言わなかったのだと思います」

 最後の方は少し言いづらそうにして小さな声になっていった。父親のことを悪く言っているように自分で感じて濁したのかもしれない。

「今度合間を見て神殿に一度一緒に行きましょう。トモヤを召喚したのはムヒアス神官だと聞いています。彼なら何か知っているはずです」

 召喚された時に神父の服を着ていた若い青年を思い出した。倒れた時に一瞬見ただけだけど。
 帰りたいかどうかと言われたら少し悩むものの、あえてオレに伝えようとしなかったトルデンの父親に少し腹が立ち、オレはトルデンに頷いて返事をした。
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