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第一章 手に入れた能力

この世界について

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 翌朝また目を覚ますと椅子に座っていたトルデンが傍へと駆け寄って来た。トルデンは恥ずかしげもなくオレのおでこに手を当てると「熱はないですね」と言って安心した表情をする。

「ちょうど先ほど食事を持ってきたところなんです。食べましょう」

 机を見ると昨日食べたあの優しい味がする料理が置かれていた。なんだっけ?モルモルとかいう乳でパンを煮込んだヤツだ。鼻をくすぐる匂いに自然と唾を飲み来んでいた。

「ふふっ、食べましょう」

 椅子に座って湯気が出ているパン粥のようなものをスプーンですくい口へと運ぶ。昨日と変わらず口の中で溶け優しい味だ。

「体調も大分戻ったみたいで良かったです」

 向かい側に座ったトルデンがそう言った。そこで先ほどオレのおでこに自然と触れて熱がないか確認していたことを思い出した。オレはどれくらい眠っていたのだろうか?オレが眠っている間、目の前の男がずっと看病してくれていたのだろうか?

「オレはどれくらい寝てたんだ?」

 実際のところ、痛みとしんどさであまり記憶がなかった。地下牢でトルデンがオレを外へと出してくれたことは覚えているがこの部屋でどれくらい寝ていたのか分からなかったのだ。

「友也がこちらの世界に来てから1ヵ月は経っています……地下牢からこの部屋へ連れてきたのですが、この部屋に来てから友也はずっと眠っていて……」

 話を聞くとオレはずっとこの部屋で2週間以上過ごしていたらしい。ということはオレは地下牢にも2週間ほどいたということだ……。あんなところに閉じ込められてオレよく生きてたな……。

「少し良くなったかと思えば熱を出したりして心配でした……」
「お前が診てくれてたんだよな……?ありがとな……」

 目の前の男がオレを本当に心配していたことが伝わったので、オレは何となく感謝の言葉を伝えていた。でも、トルデンはオレのその言葉を聞いて何故か悲しそうな表情をした。

「そう言えば、オレが呼ばれた理由っていうのがお前が毒を盛られて死にそうになっていたからって言ってたよな?どういうことだ?」

 そう、オレは家で突き飛ばされた後、意識を失って次に目を覚ましたらこの世界へ来ていて訳も分からないうちにこんな状況になっていた。この訳の分からない状況の説明を聞いたっていいはずだ。

「この世界には治癒師がいないんです。私が毒に倒れ死に瀕した時、神からのお告げーー神託ーーが神官におり、私の毒を治せる人間としてトモヤが召喚されました」
「どうして治癒師がいないんだ?普通はいそうだけど……」
「それは私にも分かりません……。ですが、私のせいでトモヤが召喚されたことは確かです……」

 トルデンが時折悲しそうな表情をする理由が分かった。トルデンは自分のせいでオレが召喚されたことを申し訳なく思っているのだ。今までオレの周りには自分さえ良ければいいという人間が多かったので、トルデンのようなタイプはいなかった。そして、トルデンはこの世界と召喚者についてのことを教えてくれた。

「今、トモヤがいるこの国はグルファン王国と言って、この世界で一番大きい国です。この世界の人間は基本的に皆、魔力を持っていて魔術を使うことができます。魔術には大きく分けて2種類あります。攻撃魔術と護る魔術です。攻撃魔術は火・水・風・土の4種類が基本の魔術です。この攻撃魔術を使える人間の方が圧倒的に多いです。護る魔術は結界が張れたりしますが、治癒などは含まれていません」
「へぇ、凄いな!トルデンは何が使えるんだ?」
「いえ、私のは大したことは……」

 トルデンが丁寧に説明してくれる。魔力や魔術と聞いて一気にこの世界が異世界なのだと実感した。トルデンは何が使えるのか気になり、聞いてみるもそこは何故だかはぐらかされてしまった。トルデンが引き続き説明する。

「召喚者はその時この世界で必要とされている能力を持っています。今回の場合は、先ほど言っていたように私の毒を治すための能力です。ただ思い描いていたような治癒能力ではなく、相手の毒を貰い受けるという能力だったみたいです……」

 あの時の全身を襲うような痛みを思い出し身を震わせた。どうして普通に治すとかって能力じゃなくて俺が貰い受けないといけないんだよ……。

「それであなたの能力に名前がついたんですが……」

 トルデンが言いづらそうにして口を開き、薄っぺらい紙を俺に手渡した。
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