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第二章 拉致

仕組まれた罠 トルデンside

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 神殿の中へと入っていくトモヤの背中が消えるまでずっと見ていた。どうしてここまで心に彼が残るのだろう?淋しい想いをかき消して城へと戻る。糧tに召喚者を帰したことを怒られるかと思えばルニスは何も言ってこなかった。

(……気付いていない?そんなまさか……)

 でも、あえてこちらから言う必要もないと思い、魔術の訓練などに励んだ。でも、これが失敗だった。トモヤが元の世界に戻ったと思ってから数日が経った頃、ラウリアが私の元へとやって来た。その様子は彼にしては珍しく慌てていた。

「テヒシタが神殿で、ムヒアスがアドニクルモアの森で死んでいたと報告が……」
「え……?ラウリア、今、なんて……」
「テヒシタとムヒアスの遺体が見つかったんだ……」
「え……じゃぁ、トモヤは?!トモヤはどうなったんですか?!彼は元の世界に戻れたんですか?!」
「やっぱりトルデンが彼を神殿に連れて行ったんだね……。マルア国が最近他国に攻め入っているってのはトルデンも知ってるよね?現地の状況を確認するために精鋭の騎士2人をそこに派遣してたんだけど、定期連絡でオークスと見慣れぬ子供を見かけたと……」
「トモヤは連れ去られたってことですか?!」

 どうしてあの時、一緒について行かなかったのだろう……。どうして彼が元の世界に戻るまでしっかりと見ておかなかったのだろう……。後悔ばかり襲い掛かり、いてもたってもいられず、思わずラウリアに掴みかかりそうになる。

「トルデン、落ち着いて。それよりもどうしてムヒアスが神殿に戻ってきたことを?」

 今度はラウリアが慌てふためく自分を宥めた。ラウリアの質問に、ルウファでユーシアから聞いたと素直に答える。ラウリアは少し考え込んだ表情をした後、状況を手短に教えてくれる。

 まずムヒアスが神殿に戻ってきたことを誰も知らなかった。そして、神殿で死んでいるテヒシタとムヒアスが見つかったのはほぼ同時刻だった。テヒシタが死んでから時間が経っていたが、その理由はテヒシタが死んでいた部屋に隠し通路があり、そこが開いていると外側から中に入れないようになっていたらしい。残っていた神官はいつまで経っても出てこない2人を怪しみ、開けようとしたが中々開かず、発見が遅れたことが原因だった。恐らくその後は、ムヒアスがトモヤを拉致し、ドドルア国とファーカス国を経由してアドニクル国のアドニクルモアの森へ。そこでムヒアスはオークスに殺害され、マルア国へ行ったのだろうということだった。

「何か仕組まれてる気がするね。……トルデン、行くのかい?」
「えぇ」
「……分かった。マルア国は勢力を取り戻して今は入ることが難しいらしい。それにあそこの今のぼんくら王は、僕には劣るけど魔力が凄い。下手に太刀打ちしない方がいいだろう」

 マルア国……ラウリアの言うぼんくら王には残念なことに魔力があり、自身の父親を殺して最近自分が国王陛下となった国だ。死んだ父親もロクでもないヤツだったが、その息子は今のように近隣国を支配しようと攻撃を仕掛けている。マルア国は小さな国で資源もあまりなく、不衛生で屈強な男が多い。傭兵たちのたまり場だ。そして、そのぼんくら息子は女性に対して酷い仕打ちをしていると聞く。女性を閉じ込め、貞操保護をかけて苦しめているという……。ずっと平和だったこの世界にこんな蛮行を許していいはずがない……。

 ラウリアが更に情報を教えてくれる。マルア国のぼんくら王のマヌケスは、城で踏ん反り返っているらしい。そして、自分の命が一番大事だと考えているのか、自分以外の魔術は城内で使用禁止にしている。使用すれば魔術を使用しようとした人間は爆発するらしい。でも、それで良かったのかもしれない。今、魔術を使用しても感情を抑えられる自信がない。

「マルア国の北側にあるユグラシア国は侵攻が進み、マルア国の支配下になるのは目前だ。更なる侵略場所としてその北側にある国々を狙っているらしい。でも、そこに手を出そうとするのならグルファン王国も黙っていないとマルア国も分かっているはず。父上には僕から言っておくよ。気を付けて」
「ありがとう、ラウリア」

 お礼を言うや否や、すぐに部屋から飛び出した。

「待って、トルデン。これを」

 ラウリアが呼び止め、差し出したのは転移魔法石だった。転移魔法石は貴重な物だ。転移魔術自体が高度で、その魔術を魔法石に施すのは余程の手練じゃないと難しいのだ。下手な人間が施すと、違う場所に着いたり、最悪空間の隙間を彷徨うことになる。そして、何よりも魔法石の採れる量も少なく、使用時に負荷がかかりすぎると、すぐに壊れるので、高価で手に入りにくい。そんなものをラウリアが渡してくれるなんて……。

「ルウファの東側に行けるはずだよ。今、マルア国では激しい戦闘が巻き起こっている。気を付けて。僕も内部のことを調査したらすぐに追いかけるよ」
「ありがとう、ラウリア」

(トモヤ、どうか無事で……早く彼の元へ行かないと)

 ラウリアに渡された転移魔法石で、その場を去った。
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