異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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第二章 拉致

ぼんくら王

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 マヌケスはスキルが逃げたことが分かり、怒りに震えていた。何度もオレの頬を殴り、蹴り上げた。先ほど死んだ男の暴力でも弱り、また後ろに手を拘束されているオレはなすすべがもうなかった。それでもキッとマヌケスを睨みつけると、マヌケスはゴクリと唾を飲んだ。

「……ガキにも男にも別に興味はなかったが、お前みたいな生意気なガキを屈服させるのは興奮させる何かがあるな……」

 舌なめずりしながら、近寄るマヌケスは再びオレを殴り、蹴った。それだけならまだ良かった。殴られるのも蹴られるのも痛いし、死にそうだ。だが、自己犠牲能力で吸収した怪我の方が耐えきれないことも多かった。暴力だけでマヌケスが満足して終わってくれたなら良かったのに、マヌケスはオレの服に手をかけた。後ろ手に鎖で繋がれているため、服は破かれ肌が露わになる。

「お前も女のように屈辱と痛みを実際に味わうといい」

 マヌケスはオレのズボンに手をかけ、ひきずり下ろした。憎しみを覚えた男の前で抵抗もできず、丸裸にされたのである。どこの世界でもどうしようもないクズな人間はいるのだな……。そう思った。

「色白だが、痩せこけて色気がないな。抱き心地が悪そうだ」

 オレの裸を見て、好き勝手言う男に腹が立った。痩せこけて色気がないと言われる筋合いもなければ、オレが痩せたのはお前らがろくに食事を与えなかったからだろう。マヌケスの手がオレの腹をなぞる。

「触るなっ!」

 口だけの抵抗など虚しく、マヌケスはペタペタとオレの身体をまさぐる。足をバタつかせ必死に抵抗しようとする。

「暴れるな。女の代わりに嬲ってやる」
「女に逃げられて可哀想だな。おい知ってるか?オレの世界ではお前みたいな男をマヌケって言うんだよ。名前にも入っててぴったりだな」

 もうこの状況から逃れられるのは難しいと分かったオレは、マヌケスをあざ笑ってやった。マヌケスは馬鹿にされたことで更に怒り、オレの頬をぶった。何度か殴った後、満足したのか、オレのズボンを完全に脱がすと、尻の方へ手を持って行き、穴に指を入れようと爪を立てて弄った。それが痛くて眉間にしわを寄せると、マヌケスはその表情を見て喜んだ。「爪、立てんな、へたくそ」って悪態をついたらまた殴りつけ、わざと爪を立てて指を突っ込んだ。

「女みたいに濡れないのか。男は面倒だな」

 マヌケスはめんどくさくなったのか、ズボンを寛げ、醜い逸物を取り出した。

「おい、お前のちんこくせぇんだけど……ぐっ……」

 またもや拳で殴られ、うめき声をあげる。マヌケスがオレの左足を持ち上げたので、足で蹴り上げようとするも力では叶わず、熱い塊がオレの穴へと押し付けられた。

ーーいやだ、やめろ……お前みたいなクズをオレは受け入れたくない…

 十分に解されていない穴にマヌケスはうまく挿れられないのか、自身の唾液を手に垂らし、自分のちんこに塗りつけた。滑りをそれで良くしたつもりなのだろう。こんな男に陵辱されるぐらいなら舌を噛み切って死んだ方がマシなのかもしれない。そう思っていたらマヌケスがオレの口に指を突っ込んだ。あくまでもオレを死なせるつもりはないらしい。その後もどれだけ暴言を吐いても殴られるだけで死に至るまでの暴力は振るわれなかった。

 マヌケスの涎まみれの手がオレのお腹や足を這い回る。まるでなめくじが身体で蠢いているようだ。冷たい床で冷えた身体は生暖かい嫌な汚れに包まれた。マヌケスがオレの足を上げ、挿入しようとオレにのしかかってきた。生暖かいマヌケスのちんこが穴の入り口にあたる。惨めで苦しくてこの現実を目の当たりにしたくなくて、せめて早く終わるようにとゆっくりと目を閉じた。

ーーピシャッ

 瞼に生暖かい何かがかかり、目を開くと視界が血しぶきで赤く染まった。マヌケスの背中を誰かが切りつけたのだ。マヌケスがオレの真上に倒れこむ前に横へと蹴り倒された。マヌケスは一瞬呻き声を上げたが、その後は浅い呼吸を繰り返す。そして、トドメを刺すかのように剣先がマヌケスの心臓を貫いた。
 
「……デ……ン」

 赤く染まった視界。視線の先には焦り、悲しみ、そして死んだマヌケスに憎悪を向けるトルデンがいた。声にならない音でその名を呼んだ。カランと持っていた剣を地面に落とすと、トルデンは跪き、オレを抱きしめた。

「トモヤ……トモヤ、ごめんなさい……遅くなってごめんなさい……」

 トルデンはただ、ただ謝り続け、オレを逃がさないようにとぎゅっと抱きしめる。殴られ、蹴られ、血だらけの薄汚いオレをトルデンは気にもせず力強く胸に寄せる。

ーー丸裸で惨めで下半身は男の唾液を塗りつけられているこんな汚いオレを……

 トルデンがぎゅっともう一度抱きしめた。汚いオレを粗末に扱うこともなく、壊さないようにこんな風に優しく抱きしめられたことは今までなかった。この世界に来てトルデンだけがいつもオレをこんな風に抱きとめてくれていた気がする。トルデンが羽織っていた白い外套をオレに被せると、オレを抱えあげた。こうやって抱きかかえられるのも何度目だろう。色濃く残っているのは2回目だ。1度目の時も地下牢からこうやってオレを救ってくれた。

(まるで王子様みたいだ……あぁ、こいつ王子様だっけ……)
 
 真っ白な外套は汚いオレなんかには似合わず、すぐに汚してしまいそうなのにトルデンは気にせず包み込んだ。後ろ手に手錠をされたままなので、外套はすぐにずり落ちそうになる。トルデンはオレから外套が落ちないようにもう一度ぎゅっと力強く抱きしめた。トルデンが躊躇することなく汚れたオレを抱きかかえるので申し訳なくなる。

「オ、レは……大丈夫だ……よご……れるぞ……」

 掠れた声でそう言うのに、トルデンはただ、ただ抱きしめた。その手はどうしてか震えている。トルデンが外套を取り去る気も、オレを下ろす気もないと分かり、諦めて自身の頰をトルデンの胸に託した。トルデンの暖かさが伝わり、その温もりにひどく安心した。
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