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第一章 手に入れた能力

召喚された少年 トルデンside

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 神殿へつき、出迎えたククルカ神官にいれてもらった。ククルカ神官はムヒアスよりも少し年上の青年だ。

「トルデン様。お目覚めになられて良かったです」
「ククルカ神官、テヒシタ神官は?」
「テヒシタ神官は今、不在でして……」
「私を召喚した方は今どこに?」
「それが今回の神託について私たちは何も知らされてなかったんです。だから状況が全く分からず……」

 私たちと言うのは、もう1人のインカ神官だろう。今、神殿には4人の神官しかいない。最年長であるテヒシタ神官が神殿を不在にしているのも珍しかった。もう1人、この場にはいないがムヒアス神官がいるはずだ。この会話内容から今回、神託が下りたのはムヒアス神官なのだろう。ムヒアス神官の所在が気になったものの、先にあの少年を探さないと。

「……恐らく召喚者様は地下にいます」

 後ろから声が聞こえ、振り返るとそこにはインカ神官がいた。インカは周りをキョロッと見渡して、誰もいないことを確認して小さな声で続けた。

「オークス様が少し前、地下へ行っていました。少し前、私たちには神殿の奥へは近づかないようにと言われて……」

 召喚の儀式が行われる少し前に、オークスは祭壇の間で祈りの儀式を行うようにと2人に命じたらしい。祈りの儀式は長い時間を要するため、召喚の儀式が行われたと知ったのは後のことだった。

 インカに教えてもらった地下への道は、普通とは異なるものだった。まずその扉は壁に似た形状で一見は分からない作りだった。扉を開けると明かりが1つもなく真っ暗で、その様子はおどろおどろしい。

(一体どうして神殿にこんな場所が……?)

 それにどうしてオークスはこの神殿の隠し通路を知っていたのだろうか?いや、そんなことよりもこんな薄気味悪い所に本当にあの少年がいるのだろうか?速足で地下へと向かうと、明かりが見え始めた。

「なんてことを……」

 扉を開けると騎士が驚いた表情でこちらを見た。騎士たちがこちらに声をかけるよりも先に声を荒げた。あの少年は地下牢にいれられ、横たわっていた。

「早く彼を出してください!」
「トルデン様!困ります!」
「どうしてこんな仕打ちを?私の命を救ったのは彼なんでしょう?」
「まだしぶとく生きていますが、あんな小さな体じゃすぐに死ぬだろうとのことで、死んだ後の処理が手間だからここへいれておくようにオークス騎士団長から……」

 すぐに死ぬ?処理が手間?本当に人の言っている言葉なのだろうか?これほどまで怒りを感じたことはなかった。

「ですが、彼は生きています。私の命を救った恩人です。部屋を与えてください」
「……あっ、トルデン様っ……!」

 オークスがこの神殿を取り仕切っているので、勝手をしたら怒られるかもしれない。それでも、彼への仕打ちを許すことができなかった。騎士を振り切り、牢屋の中へと入る。

 顔色は悪く、浅い呼吸をしているものの少年は生きている。しゃがみ込んで様子を見ると、少年もしんどそうな表情でこちらを見上げた。抱きかかえると思いのほか軽く、驚いた。最初、少年は緊張で強張っていたが、それよりも体力がなく身体がきついのか、顔を私の胸に委ねた。今にも壊れてしまいそうな彼を優しくぎゅっと抱きしめる。

「私の命を救ってくれてありがとうございます。私はトルデン・キャンベル。グルファン王国の第二王子です」
「あぁ……そう……」

 早くこの鬱蒼とした場所からこの子を連れ出してあげたい。でも、急いで走り去ってこの子にしんどい思いをさせたくない。彼を気遣いながら地下牢を後にした。いつの間にか少年は眠っていた。城へ戻るための馬車に乗る時、彼をどのように乗せるか悩んだ。体調が良くないこの子には揺れがしんどいかもしれない。担架に使用される振動を吸収する布素材のフッコで彼を包んだ。

(馬車の中で横たわらせてあげた方がいいだろうか……?)

 ただ神殿とグルファン王国に繋がる道は険しい場所もある。彼を抱えて移動することにした。時折、苦しそうにうめき声をあげる。

(私のせいで……)

 あの新聞の通り、彼の能力は自己犠牲なのだろう。私の毒を貰い受けたのだ。あの時、死んでもいいと思っていた。でも、目が覚めた時、生きていることにどこか安堵している自分もいた。でも、だからと言って、誰かを犠牲にしてまで生きてはいたくなかった。

「うぅ……」

 少年をぎゅっと抱きしめ、額から出る汗を拭うと、少し落ち着きまた眠りについた。馬車が城へと到着したら、すぐに西の塔へと彼を連れて行った。お風呂にも入らせてもらえなかったのだろう。彼の服は吐しゃ物で汚れていた。ボロボロになった服を脱がせると、あばら骨が浮き出るくらいに痩せていて、どうしようもない怒りが込み上げた。

 お風呂に入れてあげても彼は深い眠りについたままだった。うなされていることからどこか痛みがあるようだが、外観では分からない。焼けるような痛みを思い出し、いまだに彼はその影響を受け続けているのかと思うといたたまれなかった。

 それから少年は長いこと眠っていた。毎日欠かさずお風呂に入れ、食事も眠っている彼でも食べれる物を用意した。ミネラルと酸素を持つミーラル石で水を沸かしたもの。魚のジムンを煮たお汁。モルモルの乳を温めたもの。他にも果物をすりおろしたものとかをあげたりした。

 彼がようやく目を覚ました時、私は嬉しかった。その少年は、吊り目が印象的だった。用意していた食事に手を付けないので、まだ体調が悪いのかと思い、口へとスプーンで運ぶと1口食べた後は、あっという間に自らの手で平らげた。

 召喚された少年はトモヤといった。食事をパクパクと食べる姿がひな鳥みたいで可愛く思う。トモヤの元の世界には魔術と言ったものはないようで、この世界について説明すると不思議そうな表情をした。そのついでにトモヤの魔力を見ると十分な魔力量がありそうで安心した。この世界で魔力がないことは大変だから……。
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