異世界で手に入れた能力『自己犠牲』のせいで第二王子と愛の逃避行

miian

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第一章 手に入れた能力

見慣れない天井

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 次に目が覚めると、染み一つない真っ白な天井が見えた。

(あれ?おかしいな……)

 だって、オレの家は古びた木造で薄暗く、こんな真っ白ではないからだ。

(ーーここはどこだ?)

 少し視線をずらすと壁も天井と同じく真っ白だ。真っ白な天井に真っ白い壁。こんな真っ白で汚れ一つない空間はオレの人生に似ても似つかない。

「……っ……」

 起き上がろうとすると身体中に痛みが走り、あの男に殴り蹴られてからそんなに時間は経っていないのだと分かった。

「……召喚様を無事に呼び出すことができました」

 どこかから声が聞こえる。
 怠い身体を動かすことが出来ず、顔だけをずらしてそちらを見ると、神父のような白い衣装を着た男と赤い騎士のような服を着た黒い髪の男がこちらをチラチラ見ながら何か言っている。
 
 どちらも厳かな衣装を身にまとっていて、ここは夢の世界か何かなのかと思った。でも、身体の痛みがここは現実なのだと分からせる。その神父と騎士の傍には別に2人の男が立っていた。その男たちは会話している1人の男と同じような騎士服を着ている。その内の1人が俺をチラッと見て言いにくそうに口を開いた。

「彼が……本当に救うのでしょうか……?見るからにみすぼらしく、それに少し……汚いですが……」
「もう一刻を争う時だ。そいつをトルデン様の所へ連れて行って、無理矢理にでも助けろ」

 男たちが何か言っているがその内容が分からず混乱した。そんなオレをよそに、ずっと立っていた屈強な騎士2人が横たわっているオレの方へと近づいてくる。先ほど話していた騎士の服よりも今近づいてくる2人はシンプルなデザインだ。オレの傍へとやって来た2人は乱暴にオレの両腕をそれぞれ掴み、ずるずると引きずって部屋の端へと連れて行った。

 先ほど首を動かした時には見えなかったものの、今いるこの部屋には、もう1人ベッドに横たわっている人間がいたのだ。瞼を閉じて微動だにしないその男は、眠っているのにカッコ良いことが分かるくらい綺麗な顔たちだ。
 綺麗な金髪は真っ白な部屋の光を吸収して輝きを増しているようにも見える。でも、その男の顔色は悪く、青白い。呼吸も浅く、死に瀕しているようだ。

 引きずられたオレは状況が分からないまま眠っている男の横へと跪かされた。
 左腕の拘束は解けたものの、オレの右に立っている騎士がオレの右手を取り上げ、金髪の男に手をかざすように持って行った。

「念じろ」
「えっ……?」

 オレの手を持っている騎士が低い声でオレに命令する。今この状況さえも理解していないオレは疑問の声を上げたが、騎士は何も教えてくれず、言うことを聞かないオレにイライラしているようだ。

「一刻も争うんだ。早くしろ」
「でも、わか……」

 わからない、そう言おうとした時、目の前の眠っている男の顔色がより一層悪くなり、咳き込み少しの血を吐いた。オレの右手を掴んでいる騎士が驚き、咳き込んだ男の様子を見るために一歩近づいた。オレの右手を持った状態だったので、バランスを崩しながら引っ張られるような形で、咳き込む男に近づいた。

 その時、咳き込んでいた男の目が薄っすらと開いた。その隙間から見える瞳は髪と同じ金色で綺麗だった。男の瞼がもっと開いた時、オレと目が合った。その小麦畑のような瞳は暖かく引き込まれそうだ。騎士がもう一歩近づき、オレの手が金色の瞳の男の手に触れた。

「ぐっ……うっ……」

 急に胸が苦しくなり、燃え盛るような熱さが身体中を襲った。その猛烈な痛みに呻き苦しみ、声にならない悲鳴を上げる。その場に胸を押さえながら床に倒れ込むと床に透明の液を嘔吐した。自然と込み上げた胃液を吐き出せばマシになるかと思ったのに全身を襲う酷い痛みは消えることなく、床に横たわりながらもう一度吐いた。

「トルデン様!」

 神父服の男がこちらへとやって来た。声の感じからも若く感じたその男を薄っすらと目を開けて見ると、茶色い髪をした若い青年のようだった。全身から血の気が引き、寒さで震えるも、誰もオレに近寄らず助けようともしない。金髪の男だけが重要なようだ。冷や汗がどこもかしこにも流れ、この苦しみから逃れられないかと考えるも、無駄に終わり、浅い呼吸を繰り返した。

「トルデン様の顔色が戻ったぞ。こいつ、念じてなかったと思ったんだが……」
「でも、この苦しみようはトルデン様の毒を貰い受けたのではないでしょうか?」

 先ほどよりも痛みは増し、顔を上げることもできない苦しみの中、男たちがよく分からないことを言っている。

(ーー毒を貰い受けた…?)

 毒を貰ったからオレは今、こんなに苦しいのか?
 また咳き込むと、殴られ怪我していた口元の血と透明の液体が混じり、真っ白な床を汚した。

「まぁ、いい。こんな小さい身体で、この毒を受けたら恐らく死ぬだろう。面倒だからすぐに処理できるよう地下牢にでも入れておけ」

 立派な騎士服を着た男が騎士2人に命令した。
 小汚い、みずぼらしい、小さい……どれも今までよく投げかけられていた言葉で何とも思わないはずなのに今、自分が死にかけているせいか、ひどく悲しい気持ちになった。

「ったく、床汚しやがって」

 騎士2人が悪態をつきながら汚そうにオレの両脇を抱え、真っ白な床を引きずってどこかへと連れていった。
 誰もいないガランとした廊下もお構いなしに引きずり、恐らく地下牢へ繋がっている扉を騎士が開けると、その先は真っ暗だった。真っ暗な地下へ続く階段も苦しみ悶えるオレのことなんか気にせず引きずった。身体の内側から起こる熱のような痛みだけでなく、階段1段下ろされるたびに物理的にくる痛みでうめき声をあげるしかなかった。
 
 そうして、オレは暗くじめっとした地下牢へと放り投げられた。苦しさで動くこともままならず、目をうっすら開けると地下牢と言われるだけあって、薄汚れた床が見えた。


ーーオレの人生の最後にはこっちの方がしっくりくるな……


 先ほどまでは全身が冷たかったのに、今は熱を持ち始めたのかクラクラし始めた。
 いっそのこと意識を失ってすぐに死なせてくれたらいいのに……。
 そう考えるのに全然眠ることも死ぬこともできず、熱さと寒さを交互に感じながら浅い呼吸を繰り返した。
 ようやく瞼を閉じることが出来たのはそれから少し経ってからだった。
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