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第8章

紛失事件?犯人はいったい誰?

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英語専門の塾が軌道にのってきて順調だった頃、いつものように塾へ行くと大山が険しい表情をして私に話してきた。

「○先生、困ったことに財布が盗まれたみたいなんだ」

「えっ、大山先生それは大変じゃないか」

「そうなんだよ。昨日の夜にはあったんだけど、今朝、目を覚ましたら財布がなくなってるんだ」

大山は直ぐに警察には届け出をしたようだが、財布には大金とカードが複数枚入っていた。カード会社には直ぐに連絡を入れたようであるが、現金に関しては手の打ちようがなかった。

何故、財布に大金が入っていたのかというとほとんどの塾生は銀行振込みだったが、一部の塾生は月謝で支払っていたからである。

前日、月謝を支払っていた塾生がいたから大山の財布には大金が入っていたのだ。

大山は大家さんの家族を疑ったりもしていたが、証拠がなかったので犯人が見つからなければどうすることもできないと思っていた。

結局、その日以降、数日経っても犯人は捕まらなかったが、そのことがきっかけで大山のお金の管理はシビアになっていった。

今まで月謝で支払っていた子もすべて振込みに統一し、財布にも必要以上の大金は入れないようになった。

大山のお金に関する執着心はただ者ではなく、将来のビジョンや展望について私に話すことも多かった。

大山は近い将来、教室を増やしていき全国展開していくことや50代になって大金持ちになったら引退してきれいな奥さんを見つけて結婚したいと語っていた。

その時、私は大山の話していることが本当に現実的になるのかなぁと思ったが、1年以内に2教室目を開校した。

教室を増やしていくことによって講師数も増やしていかなければいけないが、大山は高三の塾生を巧みな言葉で操り大学生になったら講師として雇っていた。

実際、タウンワークなどの求人情報誌を使うとお金がかかるので塾生に呼び掛けていたのである。

塾生であればだいたいその子の性格も知っているし、近場の子が多いから余分な交通費を支給せずにも済むからである。

大山という男は金をかけるところはトコトンかけるが、かけなくても良いところはトコトンかけない男である。

大山のネクタイは当時、100円ショップのものを愛用していたし(今はわかりませんが)、100円ショップのものをこよなく愛していた。

新規開校して約1ヶ月が過ぎた12月、まだ塾生が少なかった頃大山からクリスマスツリーを買ってくるように頼まれた。私はわざわざクリスマスツリーにお金をかける必要はないと思ったが、大山はクリスマスツリーを置いておけば興味をもってくる子どもたちはいるといってトコトンお金をかけていた(続)
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