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4章 世界樹のダンジョンと失われし焔たちの記憶
108話
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「焔さん! 焔さんっ!!」
「え、ああ……」
急速に意識を取り戻した焔の目に飛び込んできたのは、慌てた様子で焔を揺すっている明日香の姿だった。
「あれ? 俺はいったい……」
「いきなり目が死んで、呼びかけても全然反応しないし……。めちゃくちゃ心配したんですよ!」
「わ、悪い……」
焔はまだ少しボーっとする頭でまわりを見回す。
そこは間違いなく、ゲームの世界。
流れ込んできたのは現実世界での記憶であろう。
まるで走馬燈のように流れ込んできた記憶だったが、そのほとんどが今の焔には覚えのないものだった。
舞依のこと、神楽のこと、そしてなぜか現実世界にもいた明日香のこと。
それに中庭の少女、つまり汐音のことも。
現実世界のことのはずなのに、神社での出来事や最後の堕天使のような化け物のことは、記憶がない上にあり得るはずのないことばかり。
ただ、それでも焔にはわかってしまう。
それが作り物の映像なんかではないことを。
どんな方法を使ったのかはわからないが、なぜか焔の中から消えていた記憶。
そして現実世界に起こっていたゲームのような出来事。
これらはすべて本物なのだと。
「なあ、明日香。君は本当にこの世界の住人なのか?」
「え……、もしかして焔さんも何か記憶が戻ったんですか?」
「ということは明日香もか?」
「はい……。突然頭の中に私の知らない記憶が流れ込んできて……」
「俺もだ。でも多分本当にあったことなんだと思う」
「私もそう思います。だって……、焔さんを初めてみた時、なぜだか懐かしい感じがしたんです」
「そうか……、俺だって、人見知りのはずなのに最初から打ち解けられてたのは、知らない記憶があったからなのかもしれないな」
「人見知り……?」
「なんだよ……、本当だからな」
「友達少ないだけじゃ……」
「失礼だな!」
「うふふ、それより、これからはお兄ちゃんって呼んだ方がいいですか?」
「う……、なんかそれはくすぐったいな。まあ好きにしてくれ」
「は~い」
結局明日香がどんな存在なのか焔にはわからなかったが、明日香の様子におかしなところがないので、とりあえずは安心していた。
ゲームの世界の存在と現実世界で会っていた。
これがどういうことなのか。
明日香も焔たちと同じく、プレイヤーのひとりということだろうか。
それともあの化け物たちと同じような、何かよくわからない出来事が起きていたのだろうか。
考えたところで答えはわかるはずもなく、焔はいったんこのことは置いておくことにした。
そこに再び上空から光が降り注ぎ、ふたりは空を見上げる。
空からはなんと、白い翼を生やした女性がゆっくりと舞い降りてきたのだった。
その女性とは、ふたりも知る人物、神ノ木汐音。
あまりに突然の登場にふたりは言葉を発することなく、汐音が目の前に着地するのをただ見守っていた。
汐音が無事、地に足をつけると、背中にあった白い翼はふわっと光になって消えていく。
驚くふたりに汐音はニコッと天使のような笑顔をむけた。
「やっと会えたね、焔君、明日香ちゃん」
「汐音さん……」
さきほど思い出した記憶のこともあり、汐音に対しての気持ちの整理が追いついていない焔は名前を呼ぶだけで精一杯だった。
それに対して明日香は、特に思うこともないのか、前回出会った時と同じような対応をする。
「私は別に会いたくはありませんでしたけどね」
「え~ひどいなぁ。もしかして大好きな焔お兄ちゃんの初恋が私だっていうこと、そんなに気にいらないのかなぁ?」
「なっ」
汐音のからかうような言葉に、明日香は顔を赤くして反応する。
ただ、いつもの明日香のように突っかかることもなく、そのままおとなしくなってしまった。
その姿は現実世界での明日香の様子に似ていて、焔は少し困惑する。
やはり記憶が戻ったことの影響が出ているということか。
汐音はどこまで状況を知っているのだろう。
そしてどこまで記憶を保持しているのだろうか。
焔にはそれが気になっていた。
もしかして初めからすべてを知っていたのではないのか。
そう思うと、何か隠し事をされていたようで、あまり気分のいい話でなかった。
焔はそんな複雑な気持ちを抱きながら汐音を見つめていると、急に目が合ってニコッと笑顔を返される。
その瞬間、すべての負の感情が吹っ飛んでいき、焔の胸の中は幸せでいっぱいになった。
そして焔は思った、『天使だ……』と。
焔のにやけた表情を見た明日香は、少し不愉快な気持ちになりジト目をむけるが、焔はまったく気付かなかった。
その時、ようやく気を失っていた舞依が目を覚ます。
「舞依!」
「あ、お兄ちゃん」
「よかった、無事で……」
「お兄ちゃんも無事でよかった……」
舞依は目を覚ましたばっかりでいつものような元気はなかったが、例の冷たい感じはなく、元の状態に戻っているのだと焔は安心した。
あの冷たい舞依は、表面上では昔の舞依に似ているが、内面は大きく違っている。
記憶の戻った焔にはそれがよく分かった。
しかし、あの舞依が何なのか、その正体はわからないままだ。
そんな舞依に汐音が近づいていき、舞依はそれに気づいて顔をあげる。
「こんにちは舞依ちゃん」
「あれ、お兄ちゃんがふたり?」
「え?」
舞依はこの世界で汐音本人には会ったことがない。
汐音の姿は焔の変身状態でしか見たことがなかったため、焔とは別に汐音がいることを不思議に思った。
「私はあなたのお兄ちゃんではないよ」
「じゃあお姉ちゃん?」
「はわっ!?」
舞依にお姉ちゃんと呼ばれ、まるで電撃が走ったような顔で、2歩、3歩と後ろに下がっていく。
そして急に表情を緩めると、いきなり舞依を抱きしめにかかった。
「そう! お姉ちゃんだよ~!」
「いや、違うでしょうが」
舞依に抱きついた瞬間に明日香が後頭部に手刀を入れる。
汐音は「あはは……」と苦笑いしながらも、舞依を離すことはしない。
同じ桜色の髪をした二人が抱き合っていると、まるで本当の姉妹のようだった。
「そういえば、汐音さんってゲームの世界に出てこれないんじゃなかったでしたっけ?」
「うん……、それなんだけどね」
汐音はふにゃけていた顔から真剣な表情へと変え、話を始める。
「私がこっちの世界に戻ってこれたってことは、もうゲームの世界と現実の世界の境界がかなり曖昧になってきてるってことなの」
「現実世界との境界が曖昧?」
「そう。この前までの私はシステム側にいた。つまりはゲームの外側だから、現実世界の方にいたんだよね」
「まあ、確かにそうですね」
「そんな私が何かするわけでもなく、ごく普通にこの世界に入ってこれた」
「そうなんですか」
「つまり、もうこの世界自体が外の世界と繋がってしまっているの。現実世界からの干渉を直接受けるようになる」
「でもそれって、別に普通のことなんじゃ……。ゲームの世界なんて、現実世界からは丸見えなものじゃないですか? 逆ならともかく……」
「今の状態なら逆もあり得るんだよ。それに現実世界といってもあの世界だよ? 焔君たち、記憶が戻ったのならわかるよね?」
「え?」
それは焔たちが深く考えないようにしていたこと。
あの記憶が現実世界のものなのなら、神社や病院でのことは現実世界で起きた出来事ということになる。
「今の現実世界ではデータでしかない存在が人に危害を加えることができる」
「そんな、どうやって……」
「行き過ぎたMR技術は、人に現実と仮想の区別をできなくさせた」
「でも物理的に傷ついたりしないですよね。そりゃ、システムのコントロールを奪ってとかはできるかもしれないですけど……」
「ううん、もっと直接的だよ。例えばゲームみたいに剣で戦って、それが自分の体を傷つけた時、その痛みも脳が作り出してしまう」
「え?」
「そして目からは映像として自分の体が傷ついた情報が入ってくる。あまりにも仮想の情報が多すぎて、人はそれを間違いだと認識できなくなった」
「そんなことが本当に……」
「さらにだよ。HIMIKOが作り出した、人の情報をデータ化する技術と、張り巡らされた通信網を使って、今どんどん人がデータに置き換えられていってる」
「は?」
「少なくとも、私たちのいた街……、いや、島はもう本物の人間はいないと思う」
「そんなの信じられないんですけど……」
汐音から告げられる話のほとんどが焔には信じられるようなものではなかった。
そんなもの作り話の世界。
ありはしないSFか何かの設定みたいに聞こえていた。
「信じない方がいいかもしれないね。それとこのHIMIKOの技術を研究開発していたのは神楽さんたちなんだよ」
「嘘だろ……、あの人そんなすごい人だったのか……」
「神楽さんは早い段階でこうなるとわかってしまった。だからネットワークをほとんど遮断したこの世界に、データ化したあなたたちを送ったんだよ」
「そういうことだったのか。でもそんなの時間の問題じゃないか。結局この世界を維持するのだってサーバーとかいろいろ必要で、大元を壊されでもしたら終わりだ」
「だからこの世界をHIMIKOのサービスと近いところに置いたんじゃないかな。ここを消したらAIたちもすべて消えちゃうようになってるからね」
「そうか、でもだからこそ、逆に完全には隔離できなかったんですね」
「うん、ここが繋げられたということは、もうすぐこの世界にもやってくる。というよりはもうすでにいろいろやられてる感じはあるね」
「そうですね。今思えばおかしいところはたくさんあった。ベータテストだからかと思ってたけど……」
「今私たちがしなきゃいけないのは現実世界を取り戻すことじゃない。この世界を守ることだと思う」
「はい。でもどうすればいいんでしょうね」
「ふふふ、この世界はね、ゲームなんだよ。だから現実世界よりも戦いやすいと思わない?」
「あえてゲームとして戦って勝つってことですか? いいですね!」
「でしょ? うまくいくかはわからないけど、私はこの世界を守りたいんだ。結構好きなんだよねこの世界」
「俺もですよ。戻ってこいって言われても俺はここに残りますよ。だってここにはみんながいますからね」
焔の頭の中に、仲間たちや、旅先で出会った人たちの顔が浮かんでくる。
ゲームの世界とか現実だとかもうどうでもよかった。
自分の大切な人たちの笑顔を守りたい。
焔はただ、それだけを願い、戦う覚悟を決めた。
「え、ああ……」
急速に意識を取り戻した焔の目に飛び込んできたのは、慌てた様子で焔を揺すっている明日香の姿だった。
「あれ? 俺はいったい……」
「いきなり目が死んで、呼びかけても全然反応しないし……。めちゃくちゃ心配したんですよ!」
「わ、悪い……」
焔はまだ少しボーっとする頭でまわりを見回す。
そこは間違いなく、ゲームの世界。
流れ込んできたのは現実世界での記憶であろう。
まるで走馬燈のように流れ込んできた記憶だったが、そのほとんどが今の焔には覚えのないものだった。
舞依のこと、神楽のこと、そしてなぜか現実世界にもいた明日香のこと。
それに中庭の少女、つまり汐音のことも。
現実世界のことのはずなのに、神社での出来事や最後の堕天使のような化け物のことは、記憶がない上にあり得るはずのないことばかり。
ただ、それでも焔にはわかってしまう。
それが作り物の映像なんかではないことを。
どんな方法を使ったのかはわからないが、なぜか焔の中から消えていた記憶。
そして現実世界に起こっていたゲームのような出来事。
これらはすべて本物なのだと。
「なあ、明日香。君は本当にこの世界の住人なのか?」
「え……、もしかして焔さんも何か記憶が戻ったんですか?」
「ということは明日香もか?」
「はい……。突然頭の中に私の知らない記憶が流れ込んできて……」
「俺もだ。でも多分本当にあったことなんだと思う」
「私もそう思います。だって……、焔さんを初めてみた時、なぜだか懐かしい感じがしたんです」
「そうか……、俺だって、人見知りのはずなのに最初から打ち解けられてたのは、知らない記憶があったからなのかもしれないな」
「人見知り……?」
「なんだよ……、本当だからな」
「友達少ないだけじゃ……」
「失礼だな!」
「うふふ、それより、これからはお兄ちゃんって呼んだ方がいいですか?」
「う……、なんかそれはくすぐったいな。まあ好きにしてくれ」
「は~い」
結局明日香がどんな存在なのか焔にはわからなかったが、明日香の様子におかしなところがないので、とりあえずは安心していた。
ゲームの世界の存在と現実世界で会っていた。
これがどういうことなのか。
明日香も焔たちと同じく、プレイヤーのひとりということだろうか。
それともあの化け物たちと同じような、何かよくわからない出来事が起きていたのだろうか。
考えたところで答えはわかるはずもなく、焔はいったんこのことは置いておくことにした。
そこに再び上空から光が降り注ぎ、ふたりは空を見上げる。
空からはなんと、白い翼を生やした女性がゆっくりと舞い降りてきたのだった。
その女性とは、ふたりも知る人物、神ノ木汐音。
あまりに突然の登場にふたりは言葉を発することなく、汐音が目の前に着地するのをただ見守っていた。
汐音が無事、地に足をつけると、背中にあった白い翼はふわっと光になって消えていく。
驚くふたりに汐音はニコッと天使のような笑顔をむけた。
「やっと会えたね、焔君、明日香ちゃん」
「汐音さん……」
さきほど思い出した記憶のこともあり、汐音に対しての気持ちの整理が追いついていない焔は名前を呼ぶだけで精一杯だった。
それに対して明日香は、特に思うこともないのか、前回出会った時と同じような対応をする。
「私は別に会いたくはありませんでしたけどね」
「え~ひどいなぁ。もしかして大好きな焔お兄ちゃんの初恋が私だっていうこと、そんなに気にいらないのかなぁ?」
「なっ」
汐音のからかうような言葉に、明日香は顔を赤くして反応する。
ただ、いつもの明日香のように突っかかることもなく、そのままおとなしくなってしまった。
その姿は現実世界での明日香の様子に似ていて、焔は少し困惑する。
やはり記憶が戻ったことの影響が出ているということか。
汐音はどこまで状況を知っているのだろう。
そしてどこまで記憶を保持しているのだろうか。
焔にはそれが気になっていた。
もしかして初めからすべてを知っていたのではないのか。
そう思うと、何か隠し事をされていたようで、あまり気分のいい話でなかった。
焔はそんな複雑な気持ちを抱きながら汐音を見つめていると、急に目が合ってニコッと笑顔を返される。
その瞬間、すべての負の感情が吹っ飛んでいき、焔の胸の中は幸せでいっぱいになった。
そして焔は思った、『天使だ……』と。
焔のにやけた表情を見た明日香は、少し不愉快な気持ちになりジト目をむけるが、焔はまったく気付かなかった。
その時、ようやく気を失っていた舞依が目を覚ます。
「舞依!」
「あ、お兄ちゃん」
「よかった、無事で……」
「お兄ちゃんも無事でよかった……」
舞依は目を覚ましたばっかりでいつものような元気はなかったが、例の冷たい感じはなく、元の状態に戻っているのだと焔は安心した。
あの冷たい舞依は、表面上では昔の舞依に似ているが、内面は大きく違っている。
記憶の戻った焔にはそれがよく分かった。
しかし、あの舞依が何なのか、その正体はわからないままだ。
そんな舞依に汐音が近づいていき、舞依はそれに気づいて顔をあげる。
「こんにちは舞依ちゃん」
「あれ、お兄ちゃんがふたり?」
「え?」
舞依はこの世界で汐音本人には会ったことがない。
汐音の姿は焔の変身状態でしか見たことがなかったため、焔とは別に汐音がいることを不思議に思った。
「私はあなたのお兄ちゃんではないよ」
「じゃあお姉ちゃん?」
「はわっ!?」
舞依にお姉ちゃんと呼ばれ、まるで電撃が走ったような顔で、2歩、3歩と後ろに下がっていく。
そして急に表情を緩めると、いきなり舞依を抱きしめにかかった。
「そう! お姉ちゃんだよ~!」
「いや、違うでしょうが」
舞依に抱きついた瞬間に明日香が後頭部に手刀を入れる。
汐音は「あはは……」と苦笑いしながらも、舞依を離すことはしない。
同じ桜色の髪をした二人が抱き合っていると、まるで本当の姉妹のようだった。
「そういえば、汐音さんってゲームの世界に出てこれないんじゃなかったでしたっけ?」
「うん……、それなんだけどね」
汐音はふにゃけていた顔から真剣な表情へと変え、話を始める。
「私がこっちの世界に戻ってこれたってことは、もうゲームの世界と現実の世界の境界がかなり曖昧になってきてるってことなの」
「現実世界との境界が曖昧?」
「そう。この前までの私はシステム側にいた。つまりはゲームの外側だから、現実世界の方にいたんだよね」
「まあ、確かにそうですね」
「そんな私が何かするわけでもなく、ごく普通にこの世界に入ってこれた」
「そうなんですか」
「つまり、もうこの世界自体が外の世界と繋がってしまっているの。現実世界からの干渉を直接受けるようになる」
「でもそれって、別に普通のことなんじゃ……。ゲームの世界なんて、現実世界からは丸見えなものじゃないですか? 逆ならともかく……」
「今の状態なら逆もあり得るんだよ。それに現実世界といってもあの世界だよ? 焔君たち、記憶が戻ったのならわかるよね?」
「え?」
それは焔たちが深く考えないようにしていたこと。
あの記憶が現実世界のものなのなら、神社や病院でのことは現実世界で起きた出来事ということになる。
「今の現実世界ではデータでしかない存在が人に危害を加えることができる」
「そんな、どうやって……」
「行き過ぎたMR技術は、人に現実と仮想の区別をできなくさせた」
「でも物理的に傷ついたりしないですよね。そりゃ、システムのコントロールを奪ってとかはできるかもしれないですけど……」
「ううん、もっと直接的だよ。例えばゲームみたいに剣で戦って、それが自分の体を傷つけた時、その痛みも脳が作り出してしまう」
「え?」
「そして目からは映像として自分の体が傷ついた情報が入ってくる。あまりにも仮想の情報が多すぎて、人はそれを間違いだと認識できなくなった」
「そんなことが本当に……」
「さらにだよ。HIMIKOが作り出した、人の情報をデータ化する技術と、張り巡らされた通信網を使って、今どんどん人がデータに置き換えられていってる」
「は?」
「少なくとも、私たちのいた街……、いや、島はもう本物の人間はいないと思う」
「そんなの信じられないんですけど……」
汐音から告げられる話のほとんどが焔には信じられるようなものではなかった。
そんなもの作り話の世界。
ありはしないSFか何かの設定みたいに聞こえていた。
「信じない方がいいかもしれないね。それとこのHIMIKOの技術を研究開発していたのは神楽さんたちなんだよ」
「嘘だろ……、あの人そんなすごい人だったのか……」
「神楽さんは早い段階でこうなるとわかってしまった。だからネットワークをほとんど遮断したこの世界に、データ化したあなたたちを送ったんだよ」
「そういうことだったのか。でもそんなの時間の問題じゃないか。結局この世界を維持するのだってサーバーとかいろいろ必要で、大元を壊されでもしたら終わりだ」
「だからこの世界をHIMIKOのサービスと近いところに置いたんじゃないかな。ここを消したらAIたちもすべて消えちゃうようになってるからね」
「そうか、でもだからこそ、逆に完全には隔離できなかったんですね」
「うん、ここが繋げられたということは、もうすぐこの世界にもやってくる。というよりはもうすでにいろいろやられてる感じはあるね」
「そうですね。今思えばおかしいところはたくさんあった。ベータテストだからかと思ってたけど……」
「今私たちがしなきゃいけないのは現実世界を取り戻すことじゃない。この世界を守ることだと思う」
「はい。でもどうすればいいんでしょうね」
「ふふふ、この世界はね、ゲームなんだよ。だから現実世界よりも戦いやすいと思わない?」
「あえてゲームとして戦って勝つってことですか? いいですね!」
「でしょ? うまくいくかはわからないけど、私はこの世界を守りたいんだ。結構好きなんだよねこの世界」
「俺もですよ。戻ってこいって言われても俺はここに残りますよ。だってここにはみんながいますからね」
焔の頭の中に、仲間たちや、旅先で出会った人たちの顔が浮かんでくる。
ゲームの世界とか現実だとかもうどうでもよかった。
自分の大切な人たちの笑顔を守りたい。
焔はただ、それだけを願い、戦う覚悟を決めた。
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