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4章 世界樹のダンジョンと失われし焔たちの記憶
91話
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平和な日常に異変が起きたのは突然だった。
ある朝、いつも通り早い時間に目が覚めた焔は、ふと窓の外に目をやってその異変に気づく。
「なんだありゃ……」
視線の先にあったもの、それは汐音のいる空間にある世界樹によく似たものだった。
そしてその方角は、汐音からもらった種を埋めた島がある方向だ。
つまりはあの種が成長した姿だということだろう。
焔は詳細の確認をするため、すぐに仕度をして宿を出る。
ひとりでむかうつもりだったのだが、後ろから明日香と舞依が追いかけてきていた。
「お兄ちゃん、あそこにむかうんだよね? 私も行く!」
「明日香はともかく、舞依は危険だから残ってくれ」
「大丈夫だよ、私結構レベル上げておいたから」
「え?」
舞依の言う通り、いつの間にか舞依のレベルは50を超えていた。
普通にしていればそう簡単には越えられないレベルだ。
「いつの間に……」
「ふふん、明日香ちゃんに鍛えてもらってたんだ~」
「明日香に?」
焔は明日香の方を見る。
明日香は何も言わず、笑顔で頷いていた。
いつも遊びに出かけていたと思っていた焔だったが、実際には特訓をしていたらしい。
焔が裏技的にレベルを上げていなければ、かなり置いていかれていたことだろう。
正直焔からするとレベル50というのはまだ不安がある水準だ。
しかし、舞依の頑張りを無駄にしたくないという思いから、これ以上舞依の同行を拒否する気にはなれなかった。
「わかった。でも舞依は自分の身の安全を最優先するんだぞ? 危険なことは俺と明日香に任せておいてくれ」
「うん、わかった」
「じゃあ行くか」
焔たち三人は、種を埋めた例の島へと急ぐ。
そこは保安システムも動かない、この世界での死が存在する可能性がある場所。
島に入ると、そこには焔たちを迎え入れるかのように、世界樹へと続く道ができている。
そのまま進んでいくと、世界樹の正面には内部へと続く扉が存在した。
「中に入れるってことか」
「ダンジョンになっている可能性が高いですね。どうしますか?」
「……行ってみよう」
明日香も警戒する中、焔はこのまま進むことを決める。
ここまで戦闘もしていないので、一度引き返しても同じだと焔は考えた。
優希を連れてくる手もあるが、中に入っている間に外で何かが起きた時のために戦力になる人物をみんなのそばに置いておきたいという思いもある。
焔が扉に手を当てると、それに反応するように扉は自動で開く。
三人が中に入ると、その扉は再び閉じられ、そして消えてしまった。
「嘘だろ……」
「閉じ込められちゃった?」
「そのようですね」
嫌な予感しかしない展開に、焔の中に焦りが生まれる。
しかしそこで思い出す。
これは汐音のくれた種からできたダンジョンのはずなのだ。
だとすれば彼女なら何か知っているのではないかと気付く。
「ちょっと汐音さんに連絡してみる」
焔はフレンドリストを呼び出し、汐音との連絡を試みようとする。
しかしフレンドリストはすべてグレーアウトしていて、汐音どころか他の者とも連絡が取れない状態だった。
「これ、まずいんじゃないか?」
「まだわかりませんよ、特にモンスターの気配とかはありませんし」
「まあ確かに……」
「とりあえず戻れない以上は進むしかないでしょうね」
「明日香……、たくましいな」
「たくましいと言われてもうれしくはありませんね」
帰ることのできなくなった焔たちはとりあえず前に進むことにした。
先にあるのは螺旋状の階段のみ。
焔たちはひたすらに階段を上り続けることになった。
吹き抜けではないので、踏み外して落下というようなことにはならないが、上がどこまで続いているのかもわからない。
ぐるぐると階段を上り続け、ついに扉が目の前に現れた。
「いかにもボス部屋って感じだな」
「でもここまでモンスターもいなかったよ?」
「そうだな、まあ何にしても行くしかないよな」
焔はためらわず扉に手を触れる。
入り口の時と同じように扉が開き、そこを通ると扉は閉じて消えていった。
「いったい何がしたいんだろうな、ここは」
ただ階段を上らせて、そして帰り道を無くしていく。
焔にはまったく目的がわからなかった。
とりあえず目に入るのは大きな大きなフロアと、その奥にある螺旋階段の道だ。
「何も起きないね」
「もしかしてここはまだ準備のできていないダンジョンなんじゃないか?」
この世界は元々ゲームとして作られており、ベータテスト中だったこともあって未完成のダンジョンが残っていてもおかしくはない。
ただ汐音が関わっているというのが焔には気になるところだった。
こんな意味のないダンジョンを生み出すためにあのクエストを受けさせたというのか。
「とりあえず進みましょう。早く帰りたいですし」
「悪いな明日香、巻き込んで」
「それはいいですよ、もっとひどい目に合うと思ってましたし」
「俺、明日香と出会えて本当によかったよ」
「な、なんですか突然……。変なフラグが立ちそうなんでやめてください」
明日香はプイっと顔を逸らして先に進む。
その時、フロアの中心からまぶしい光が放たれ、さらに渦巻くような風が発生した。
風をやり過ごし、その光の元へ目をやると、そこから巨大な騎士のようなモンスターが現れる。
そのレベルは40。
派手なエフェクトの割にはそれほど高くないレベルに焔は少しだけ安心した。
しかし舞依にとっては少々危険な相手ではある。
焔は舞依を明日香にまかせてモンスターの方へむかおうとするが、その前に明日香が指先をモンスターへとむける。
そしてその指先から赤いレーザーのようなものが放たれ、騎士型モンスターは一瞬で光の玉となった。
焔にはその攻撃に見覚えがあった。
優希が初めて会った時に焔を撃ち抜いたものと同じようなものだ。
「明日香……、最初に俺と戦った時、手を抜いてただろう」
「そんなことはないですけど、まあやる気はなかったですよ」
「ですよね~」
いくら汐音の力が強すぎるとはいえ、本気の明日香ならもっと善戦しただろう。
今は生きているとはいえ、一度死んだことのある攻撃を目の前にして、焔は少し背中が冷たくなった。
「さあ、行きましょうか」
「ああ。次は舞依にも戦わせてやってくれよ」
「そうですね、私が全力でサポートしますよ」
にこっと笑う明日香の顔を見て、いつも通りのはずなのに、今の焔には少し恐怖を感じるものとなっていた。
ある朝、いつも通り早い時間に目が覚めた焔は、ふと窓の外に目をやってその異変に気づく。
「なんだありゃ……」
視線の先にあったもの、それは汐音のいる空間にある世界樹によく似たものだった。
そしてその方角は、汐音からもらった種を埋めた島がある方向だ。
つまりはあの種が成長した姿だということだろう。
焔は詳細の確認をするため、すぐに仕度をして宿を出る。
ひとりでむかうつもりだったのだが、後ろから明日香と舞依が追いかけてきていた。
「お兄ちゃん、あそこにむかうんだよね? 私も行く!」
「明日香はともかく、舞依は危険だから残ってくれ」
「大丈夫だよ、私結構レベル上げておいたから」
「え?」
舞依の言う通り、いつの間にか舞依のレベルは50を超えていた。
普通にしていればそう簡単には越えられないレベルだ。
「いつの間に……」
「ふふん、明日香ちゃんに鍛えてもらってたんだ~」
「明日香に?」
焔は明日香の方を見る。
明日香は何も言わず、笑顔で頷いていた。
いつも遊びに出かけていたと思っていた焔だったが、実際には特訓をしていたらしい。
焔が裏技的にレベルを上げていなければ、かなり置いていかれていたことだろう。
正直焔からするとレベル50というのはまだ不安がある水準だ。
しかし、舞依の頑張りを無駄にしたくないという思いから、これ以上舞依の同行を拒否する気にはなれなかった。
「わかった。でも舞依は自分の身の安全を最優先するんだぞ? 危険なことは俺と明日香に任せておいてくれ」
「うん、わかった」
「じゃあ行くか」
焔たち三人は、種を埋めた例の島へと急ぐ。
そこは保安システムも動かない、この世界での死が存在する可能性がある場所。
島に入ると、そこには焔たちを迎え入れるかのように、世界樹へと続く道ができている。
そのまま進んでいくと、世界樹の正面には内部へと続く扉が存在した。
「中に入れるってことか」
「ダンジョンになっている可能性が高いですね。どうしますか?」
「……行ってみよう」
明日香も警戒する中、焔はこのまま進むことを決める。
ここまで戦闘もしていないので、一度引き返しても同じだと焔は考えた。
優希を連れてくる手もあるが、中に入っている間に外で何かが起きた時のために戦力になる人物をみんなのそばに置いておきたいという思いもある。
焔が扉に手を当てると、それに反応するように扉は自動で開く。
三人が中に入ると、その扉は再び閉じられ、そして消えてしまった。
「嘘だろ……」
「閉じ込められちゃった?」
「そのようですね」
嫌な予感しかしない展開に、焔の中に焦りが生まれる。
しかしそこで思い出す。
これは汐音のくれた種からできたダンジョンのはずなのだ。
だとすれば彼女なら何か知っているのではないかと気付く。
「ちょっと汐音さんに連絡してみる」
焔はフレンドリストを呼び出し、汐音との連絡を試みようとする。
しかしフレンドリストはすべてグレーアウトしていて、汐音どころか他の者とも連絡が取れない状態だった。
「これ、まずいんじゃないか?」
「まだわかりませんよ、特にモンスターの気配とかはありませんし」
「まあ確かに……」
「とりあえず戻れない以上は進むしかないでしょうね」
「明日香……、たくましいな」
「たくましいと言われてもうれしくはありませんね」
帰ることのできなくなった焔たちはとりあえず前に進むことにした。
先にあるのは螺旋状の階段のみ。
焔たちはひたすらに階段を上り続けることになった。
吹き抜けではないので、踏み外して落下というようなことにはならないが、上がどこまで続いているのかもわからない。
ぐるぐると階段を上り続け、ついに扉が目の前に現れた。
「いかにもボス部屋って感じだな」
「でもここまでモンスターもいなかったよ?」
「そうだな、まあ何にしても行くしかないよな」
焔はためらわず扉に手を触れる。
入り口の時と同じように扉が開き、そこを通ると扉は閉じて消えていった。
「いったい何がしたいんだろうな、ここは」
ただ階段を上らせて、そして帰り道を無くしていく。
焔にはまったく目的がわからなかった。
とりあえず目に入るのは大きな大きなフロアと、その奥にある螺旋階段の道だ。
「何も起きないね」
「もしかしてここはまだ準備のできていないダンジョンなんじゃないか?」
この世界は元々ゲームとして作られており、ベータテスト中だったこともあって未完成のダンジョンが残っていてもおかしくはない。
ただ汐音が関わっているというのが焔には気になるところだった。
こんな意味のないダンジョンを生み出すためにあのクエストを受けさせたというのか。
「とりあえず進みましょう。早く帰りたいですし」
「悪いな明日香、巻き込んで」
「それはいいですよ、もっとひどい目に合うと思ってましたし」
「俺、明日香と出会えて本当によかったよ」
「な、なんですか突然……。変なフラグが立ちそうなんでやめてください」
明日香はプイっと顔を逸らして先に進む。
その時、フロアの中心からまぶしい光が放たれ、さらに渦巻くような風が発生した。
風をやり過ごし、その光の元へ目をやると、そこから巨大な騎士のようなモンスターが現れる。
そのレベルは40。
派手なエフェクトの割にはそれほど高くないレベルに焔は少しだけ安心した。
しかし舞依にとっては少々危険な相手ではある。
焔は舞依を明日香にまかせてモンスターの方へむかおうとするが、その前に明日香が指先をモンスターへとむける。
そしてその指先から赤いレーザーのようなものが放たれ、騎士型モンスターは一瞬で光の玉となった。
焔にはその攻撃に見覚えがあった。
優希が初めて会った時に焔を撃ち抜いたものと同じようなものだ。
「明日香……、最初に俺と戦った時、手を抜いてただろう」
「そんなことはないですけど、まあやる気はなかったですよ」
「ですよね~」
いくら汐音の力が強すぎるとはいえ、本気の明日香ならもっと善戦しただろう。
今は生きているとはいえ、一度死んだことのある攻撃を目の前にして、焔は少し背中が冷たくなった。
「さあ、行きましょうか」
「ああ。次は舞依にも戦わせてやってくれよ」
「そうですね、私が全力でサポートしますよ」
にこっと笑う明日香の顔を見て、いつも通りのはずなのに、今の焔には少し恐怖を感じるものとなっていた。
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