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1章 憧れのゲームの世界へ
21話
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みんなのもとへと戻る途中、焔は夏海の姿を見つける。
声をかけようと近づいてみるが、なにか様子がおかしい。
どうやらまだ女神との通信途中のようだった。
本当に女神は各個人と別々の通信を行っているということだ。
いったいどうやっているのか、焔にはわからなかった。
「あの、もし私がこの世界に残ったとして、現実の私が死んでしまってもこっちの私は生き続けられるんですよね?」
「はい、現実の体とゲーム内のアバターは同一人物であり、別の人間でもあります。あなたの命はあなたのものです」
「そうですか……」
夏海と女神の通信を偶然聞いてしまった焔は、その内容からあることに気づく。
(そんなことを聞くってことは、夏海ちゃんの体はもしかして……)
元々夏海は幼いころから入院を繰り返しているくらい体の弱い子だ。
実は舞依や焔が夏海と出会ったのも、汐音と同じあの病院だった。
最近は元気そうに見えたので、焔はてっきり順調に回復しているものだと思っていた。
しかし、女神との話からするとそうではないようだ。
現実世界の死を確認するということは、もう長くはないということなのだろう。
つまり生きようとするならば、夏海には選択肢はなく、ここにとどまることになる。
もし全員が帰るという選択をしても、夏海は一人でここにいることになってしまう。
焔としてはかわいいもう一人の妹のような夏海にそんな寂しい思いはさせられない。
まだ焔も迷いがあったが、これで吹っ切れた。
(この世界に残ろう。細かいことは後で考えればいい。俺が偽物かもしれない? それでもいい。俺は俺だ!)
実際に自分がふたりいるところを見ずに済むことが救いになるかもしれない。
見なければ実感も薄いだろうから。
焔は夏海を言い訳にして残ることを決めた。
くすぶっている迷いを、夏海のためだということにして断ち切った。
本当は自分だけが残り、ひとりぼっちになるのが怖かっただけだ。
少し心苦しいところはあったが、結果的に夏海のためにもなる。
きっと後悔はしない、これでいいと、焔は自分に言い聞かせた。
通信を中断した夏海が思いつめたような表情で立ち尽くす。
焔は声をかけないでおこうと思っていた。
いままで夏海から病気のことについて相談を受けたりなどしていなかったので、きっとあまり話したくないのだろうと考えたからだ。
しかし、今の夏海の表情を見て、居ても立っても居られなくなった。
さっきの話は聞いてないことにして、とりあえず夏海の支えになる言葉をかけてあげたかった。
きっと夏海もひとりになるのではないかと不安なのだろう。
「夏海ちゃん?」
「ぴぇ!? ほ、焔さん!」
突然かかった声に夏海が変な声を出しながら驚く。
「夏海ちゃんのところにも女神の通信入った?」
「は、はい、でもみんなログアウトしますよね普通……」
つらそうな表情でうつむく夏海を見て、焔は自分の考えが間違っていないと判断した。
それなら夏海の不安を少しでも和らげたいと思った。
「それなんだけど、俺は残ろうかなって思ってる」
「え?」
「いやほら、別にどっちを選んでも現実の自分は変わらないわけで、ならこっちに残ってる自分がいてもいいんじゃないかなって思ってさ」
これは本当の気持ちではないが、焔として不自然ではない答えを口にした。
焔としても簡単に割り切れる出来事ではない。
しかし、ここで夏海に不安な気持ちを悟られては意味がない。
焔はネガティブな感情を押し殺して、なるべく明るく話をした。
「夏海ちゃんはどうするか決めた? まあすぐに答えを出さなくてもいいと思うけどさ」
「わ、私も残ります! よかった……、私だけなんじゃないかと思って不安だったんです……。ひとりぼっちはさみしいから……」
夏海の不安は、焔が考えていたことと同じだった。
少なくともこれでひとりぼっちという状況はなくなる。
ひとりからふたりになる、それだけでもお互いに不安はかなり解消されていた。
「あ、あの、焔さん!」
「うん? どうしたの?」
「もし、この世界に留まるのが私たちだけだったら、その時はその……、私と……」
「あ、焔さんこんなところにいた!」
「「!?」」
夏海が何かを言いかけた時、誰かが焔に声をかけてきた。
それは明日香だった。
どうやら焔を探しに出てきたようだ。
「夏海さんもここにいたんですか、突然出ていくからびっくりしましたよ」
「あ、ごめんなさい……」
「いえ、別に責めてるわけじゃないですよ、ひとりの方が冷静に判断できますし」
「あ、ありがとう」
おどおどしながら上目遣いで答える夏海を見て、明日香が二へっと笑う。
この場にふさわしくない表情に焔は少し引いた。
(こいつ、舞依だけを狙ってるわけじゃなく、かわいければ誰でもいいのか? 夏海ちゃんが危ない……かも)
魔王としてよりも、こういうところの方が危険な気がすると焔は感じていた。
「さあ戻りましょう、舞依さんたちも心配してますよ」
「それはいけないな、すぐ戻るよ」
先に帰っていく明日香に続くように焔も歩き始める。
その焔の服を夏海がきゅっと後ろからつかんでいた。
「夏海ちゃん?」
「ごめんなさい、でもちょっとだけ、宿に着くまででいいですからこうさせてください……」
「ああ、わかった」
一応兄のような存在として、焔は夏海の支えになると決めた。
もしふたりだけになったら、その時は全力で夏海のそばにいてあげようと思った。
「夏海ちゃん、どうせならお姫様抱っこしてあげようか?」
「なっ、そんなことされたら死にます!」
「ええええ!?」
夏海の言葉をネガティブに受け取り落ち込む焔。
ふたりはゆっくりと宿まで戻っていった。
声をかけようと近づいてみるが、なにか様子がおかしい。
どうやらまだ女神との通信途中のようだった。
本当に女神は各個人と別々の通信を行っているということだ。
いったいどうやっているのか、焔にはわからなかった。
「あの、もし私がこの世界に残ったとして、現実の私が死んでしまってもこっちの私は生き続けられるんですよね?」
「はい、現実の体とゲーム内のアバターは同一人物であり、別の人間でもあります。あなたの命はあなたのものです」
「そうですか……」
夏海と女神の通信を偶然聞いてしまった焔は、その内容からあることに気づく。
(そんなことを聞くってことは、夏海ちゃんの体はもしかして……)
元々夏海は幼いころから入院を繰り返しているくらい体の弱い子だ。
実は舞依や焔が夏海と出会ったのも、汐音と同じあの病院だった。
最近は元気そうに見えたので、焔はてっきり順調に回復しているものだと思っていた。
しかし、女神との話からするとそうではないようだ。
現実世界の死を確認するということは、もう長くはないということなのだろう。
つまり生きようとするならば、夏海には選択肢はなく、ここにとどまることになる。
もし全員が帰るという選択をしても、夏海は一人でここにいることになってしまう。
焔としてはかわいいもう一人の妹のような夏海にそんな寂しい思いはさせられない。
まだ焔も迷いがあったが、これで吹っ切れた。
(この世界に残ろう。細かいことは後で考えればいい。俺が偽物かもしれない? それでもいい。俺は俺だ!)
実際に自分がふたりいるところを見ずに済むことが救いになるかもしれない。
見なければ実感も薄いだろうから。
焔は夏海を言い訳にして残ることを決めた。
くすぶっている迷いを、夏海のためだということにして断ち切った。
本当は自分だけが残り、ひとりぼっちになるのが怖かっただけだ。
少し心苦しいところはあったが、結果的に夏海のためにもなる。
きっと後悔はしない、これでいいと、焔は自分に言い聞かせた。
通信を中断した夏海が思いつめたような表情で立ち尽くす。
焔は声をかけないでおこうと思っていた。
いままで夏海から病気のことについて相談を受けたりなどしていなかったので、きっとあまり話したくないのだろうと考えたからだ。
しかし、今の夏海の表情を見て、居ても立っても居られなくなった。
さっきの話は聞いてないことにして、とりあえず夏海の支えになる言葉をかけてあげたかった。
きっと夏海もひとりになるのではないかと不安なのだろう。
「夏海ちゃん?」
「ぴぇ!? ほ、焔さん!」
突然かかった声に夏海が変な声を出しながら驚く。
「夏海ちゃんのところにも女神の通信入った?」
「は、はい、でもみんなログアウトしますよね普通……」
つらそうな表情でうつむく夏海を見て、焔は自分の考えが間違っていないと判断した。
それなら夏海の不安を少しでも和らげたいと思った。
「それなんだけど、俺は残ろうかなって思ってる」
「え?」
「いやほら、別にどっちを選んでも現実の自分は変わらないわけで、ならこっちに残ってる自分がいてもいいんじゃないかなって思ってさ」
これは本当の気持ちではないが、焔として不自然ではない答えを口にした。
焔としても簡単に割り切れる出来事ではない。
しかし、ここで夏海に不安な気持ちを悟られては意味がない。
焔はネガティブな感情を押し殺して、なるべく明るく話をした。
「夏海ちゃんはどうするか決めた? まあすぐに答えを出さなくてもいいと思うけどさ」
「わ、私も残ります! よかった……、私だけなんじゃないかと思って不安だったんです……。ひとりぼっちはさみしいから……」
夏海の不安は、焔が考えていたことと同じだった。
少なくともこれでひとりぼっちという状況はなくなる。
ひとりからふたりになる、それだけでもお互いに不安はかなり解消されていた。
「あ、あの、焔さん!」
「うん? どうしたの?」
「もし、この世界に留まるのが私たちだけだったら、その時はその……、私と……」
「あ、焔さんこんなところにいた!」
「「!?」」
夏海が何かを言いかけた時、誰かが焔に声をかけてきた。
それは明日香だった。
どうやら焔を探しに出てきたようだ。
「夏海さんもここにいたんですか、突然出ていくからびっくりしましたよ」
「あ、ごめんなさい……」
「いえ、別に責めてるわけじゃないですよ、ひとりの方が冷静に判断できますし」
「あ、ありがとう」
おどおどしながら上目遣いで答える夏海を見て、明日香が二へっと笑う。
この場にふさわしくない表情に焔は少し引いた。
(こいつ、舞依だけを狙ってるわけじゃなく、かわいければ誰でもいいのか? 夏海ちゃんが危ない……かも)
魔王としてよりも、こういうところの方が危険な気がすると焔は感じていた。
「さあ戻りましょう、舞依さんたちも心配してますよ」
「それはいけないな、すぐ戻るよ」
先に帰っていく明日香に続くように焔も歩き始める。
その焔の服を夏海がきゅっと後ろからつかんでいた。
「夏海ちゃん?」
「ごめんなさい、でもちょっとだけ、宿に着くまででいいですからこうさせてください……」
「ああ、わかった」
一応兄のような存在として、焔は夏海の支えになると決めた。
もしふたりだけになったら、その時は全力で夏海のそばにいてあげようと思った。
「夏海ちゃん、どうせならお姫様抱っこしてあげようか?」
「なっ、そんなことされたら死にます!」
「ええええ!?」
夏海の言葉をネガティブに受け取り落ち込む焔。
ふたりはゆっくりと宿まで戻っていった。
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