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1章 憧れのゲームの世界へ
12話
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焔はみんなのところに戻り、今日は明日香のところに残ることを伝える。
千歳や夏海は少し驚いていたが、同じゲーマーとしてこの世界に感じているものは似ているらしく、理解はされた。
舞依は、焔が帰らないなら自分も帰らないと言い出し、一緒に残ることになる。
結局千歳たちも、もうしばらくは一緒にいることになった。
さっきまで使っていた無人宿の部屋に全員押しかけるわけにもいかないので、部屋は女の子たちに使ってもらい、焔と千歳は少し辺りを散歩してみることに。
いくらお腹が空いてないとはいえ、このまま何も食べずに寝てしまうのもよくないと思い、ついでに軽い食べ物を調達することにした。
焔は手首のデバイスからマップを呼び出し、周囲にそれらしいお店がないかを調べる。
とその時、ふと目をやった画面の端で妙なものを発見する。
なんと時間の表示がふたつあったのだ。
いつも見ていた時間は今十八時過ぎなので、これは間違いなく現在の時刻だろう。
しかしその外側に隠れるように表示されている時間は十二時前だった。
もしかしたらログイン時間を表示しているのかとも考えたが、ちょうど見ている間に一分時間が進んだので止まっているわけではないようだ。
そこで焔はある考えに辿り着く。
これは現実世界の時間なんじゃないかと。
ゲーム世界が現実世界よりも早い時間で回されていればありえない話ではない。
焔はすぐにでも確認したかった。
「千歳、ちょっと確認したいことがあるから、一回ログアウトしてみるわ」
「あ、うん、わかった、なるべく早く戻ってきてね」
ここで問題なのは、再開した時にどこからスタートするのかということ。
それから、ゲーム内の時間が早めてあったとしたら、少し現実に戻ってる間にかなりの時間が過ぎてしまう可能性があることだ。
だとしても、現実の時間がどうなっているのか調べておくべきだと焔は判断した。
もし、ほとんど時間がすぎていないなら、ずっとこの世界にとどまることもできるからだ。
焔はメニュー画面を呼び出し、一番下にあるログアウトのボタンをタップ。
すると確認画面が現れ、『はい』をタップする。
その瞬間、焔の頭に自分を引っ張りはがされるかのような、痛みを超える感覚が襲ってきた。
「うわぁあああ!!」
「ど、どうしたの焔、ねえ!」
「う、うう」
目の前の世界がぐるぐると渦巻き、全身の感覚が溶けて消えていくようだった。
立っていることができず、膝をつき、胸を押さえながらうずくまる。
「焔! 焔!」
千歳の声がだんだんと遠くなっていっていた。
これはまずい。
焔がそう思ったとき、急に痛みがおさまり意識が戻ってきた。
苦しい息の乱れを整えようと深呼吸をする。
そして気がつけば、焔は千歳の胸に抱かれていて、そこで深呼吸をしてしまう。
千歳の甘い香りが、さきほどまでの苦しみを癒してくれている。
「す~は~す~は~」
「……焔?」
明らかに焔の状態が変化したため、千歳は胸から焔を少し引き離す。
すると焔は、幸せなまま天に召されたような顔をしていた。
「焔、大丈夫?」
「あ、ああ、もう大丈夫だ」
まるで何事もなかったかのように、完全に元の状態に戻った焔。
一応自分の体がちゃんと動くかを確認する。
呼吸も戻り、手足もしっかりと動く、問題はなさそうだった。
「ありがとな千歳」
「何があったの? 普通じゃなかったよ?」
「ああ、ログアウトのボタンをタップしたら、急に苦しくなってな」
「え?」
それよりも、焔は間違いなくログアウトのボタンを押している。
なのにいまだこの世界にとどまっているというのはどういうことなのだろうか。
焔はもう一度、恐る恐るメニュー画面を呼び出す。
そこで驚くべきことが起きていた。
ログアウトのボタンがグレーアウトしていて、反応しないようになっていたのだ。
「どうなってるんだ……」
「どうしたの?」
「あ、いや、何でもない……」
焔はなぜかこのことをとっさに隠してしまった。
それがどうしてかはわからないが、冷静になるには時間が必要だった。
その後、散歩を続けようとした焔を、千歳が心配して引き留め、宿まで戻ることになった。
千歳や夏海は少し驚いていたが、同じゲーマーとしてこの世界に感じているものは似ているらしく、理解はされた。
舞依は、焔が帰らないなら自分も帰らないと言い出し、一緒に残ることになる。
結局千歳たちも、もうしばらくは一緒にいることになった。
さっきまで使っていた無人宿の部屋に全員押しかけるわけにもいかないので、部屋は女の子たちに使ってもらい、焔と千歳は少し辺りを散歩してみることに。
いくらお腹が空いてないとはいえ、このまま何も食べずに寝てしまうのもよくないと思い、ついでに軽い食べ物を調達することにした。
焔は手首のデバイスからマップを呼び出し、周囲にそれらしいお店がないかを調べる。
とその時、ふと目をやった画面の端で妙なものを発見する。
なんと時間の表示がふたつあったのだ。
いつも見ていた時間は今十八時過ぎなので、これは間違いなく現在の時刻だろう。
しかしその外側に隠れるように表示されている時間は十二時前だった。
もしかしたらログイン時間を表示しているのかとも考えたが、ちょうど見ている間に一分時間が進んだので止まっているわけではないようだ。
そこで焔はある考えに辿り着く。
これは現実世界の時間なんじゃないかと。
ゲーム世界が現実世界よりも早い時間で回されていればありえない話ではない。
焔はすぐにでも確認したかった。
「千歳、ちょっと確認したいことがあるから、一回ログアウトしてみるわ」
「あ、うん、わかった、なるべく早く戻ってきてね」
ここで問題なのは、再開した時にどこからスタートするのかということ。
それから、ゲーム内の時間が早めてあったとしたら、少し現実に戻ってる間にかなりの時間が過ぎてしまう可能性があることだ。
だとしても、現実の時間がどうなっているのか調べておくべきだと焔は判断した。
もし、ほとんど時間がすぎていないなら、ずっとこの世界にとどまることもできるからだ。
焔はメニュー画面を呼び出し、一番下にあるログアウトのボタンをタップ。
すると確認画面が現れ、『はい』をタップする。
その瞬間、焔の頭に自分を引っ張りはがされるかのような、痛みを超える感覚が襲ってきた。
「うわぁあああ!!」
「ど、どうしたの焔、ねえ!」
「う、うう」
目の前の世界がぐるぐると渦巻き、全身の感覚が溶けて消えていくようだった。
立っていることができず、膝をつき、胸を押さえながらうずくまる。
「焔! 焔!」
千歳の声がだんだんと遠くなっていっていた。
これはまずい。
焔がそう思ったとき、急に痛みがおさまり意識が戻ってきた。
苦しい息の乱れを整えようと深呼吸をする。
そして気がつけば、焔は千歳の胸に抱かれていて、そこで深呼吸をしてしまう。
千歳の甘い香りが、さきほどまでの苦しみを癒してくれている。
「す~は~す~は~」
「……焔?」
明らかに焔の状態が変化したため、千歳は胸から焔を少し引き離す。
すると焔は、幸せなまま天に召されたような顔をしていた。
「焔、大丈夫?」
「あ、ああ、もう大丈夫だ」
まるで何事もなかったかのように、完全に元の状態に戻った焔。
一応自分の体がちゃんと動くかを確認する。
呼吸も戻り、手足もしっかりと動く、問題はなさそうだった。
「ありがとな千歳」
「何があったの? 普通じゃなかったよ?」
「ああ、ログアウトのボタンをタップしたら、急に苦しくなってな」
「え?」
それよりも、焔は間違いなくログアウトのボタンを押している。
なのにいまだこの世界にとどまっているというのはどういうことなのだろうか。
焔はもう一度、恐る恐るメニュー画面を呼び出す。
そこで驚くべきことが起きていた。
ログアウトのボタンがグレーアウトしていて、反応しないようになっていたのだ。
「どうなってるんだ……」
「どうしたの?」
「あ、いや、何でもない……」
焔はなぜかこのことをとっさに隠してしまった。
それがどうしてかはわからないが、冷静になるには時間が必要だった。
その後、散歩を続けようとした焔を、千歳が心配して引き留め、宿まで戻ることになった。
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