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其の十八 毒舌王子の隠れ家(19)
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「せ、世間がどう言おうと、あ……あの人を見れば、どんなにか素晴らしい女性だと言う事はわかるじゃないか。君だって、つい今しがた、そんな話に踊らされる連中を一刀両断にするような発言をしたじゃないか。つ、つまり、君だって口ではどう言おうと、内心では澪子さんが優れた女性だと、わかっているんだろ……」
揶揄と嘲笑の入り混じる琥珀の瞬きに頭の中がカァ……と熱くなり、煽られるまま口を動かした。
「ぼ、僕は今日、まるで拉致されるようにあんな場に引きずられては行ったが、あ……あの女性に会えた事は、ほ、本当に光栄な出来事だったと実感している。た、ただ美しいというだけじゃなく、澪子さんは聡明で、機知にも富んでいて、その上、思いやりある優しい心の人だとよくわかった。あ、あの人は確かに天華宗の宗主の令嬢だろうが、そういう事情や、男だとか女だとか、そういう事は関係なく、ひとりの優れた資質を持つ人物として、一つの教団の次代を担う重責を負う立場に置かれるのは、不思議な事でも何でもない。寧ろ、妥当だと思う。な、何より君の事を、ほ、本当に心から、す、好いているのが、言葉の端々からよく伝わって来た……。ぼ、僕は、澪子さんと君とは、に……似合いだと思ったぞ……」
冬月は僕の言葉を聞き咎めたというように急に視線を尖らせると、
「いったい何処が似合いだって?」
いきなり不機嫌になった口調に狼狽し、僕は急いで眼鏡を押し上げながら、
「いや、その……だってあの人は、その……」
「何だよ」
「い、いや、だ、だから、その……」
「もごもごしてちゃわからないだろ」
苛立った様子を見せて迫る冬月にゴクリと喉を鳴らし、僕はそろそろと口を開いた。
「……ぼ、僕は、君と澪子さんが、その……似ていると感じたんだ……」
「似ている? 僕と彼女が?」
琥珀の視線の強さに気圧されつつ、おずおずと頷いてまた眼鏡をずり上げ、
「う、うん……、その、何と言うか、君と澪子さんは、お……同じ種類の人間というか……、同じ匂いがするというか……。いや、その、上流の人たちが醸し出す空気だとか、よ……容姿が整っている者同士だとか、そういう意味とはまた違って……。ええと……、自分でもよくわからないが、その、何故だかそう感じるとしか言えないが……」
うまく説明する事が出来ず、余計に苛立たせるかと思ったが、冬月は角立てていた目を伏せると、黙って酒に口をつけた。それから何を見るともなしに座敷の隅に顔を向け、そのまま沈黙したきり、じっと考え事でもするように動きを止めてしまった。
揶揄と嘲笑の入り混じる琥珀の瞬きに頭の中がカァ……と熱くなり、煽られるまま口を動かした。
「ぼ、僕は今日、まるで拉致されるようにあんな場に引きずられては行ったが、あ……あの女性に会えた事は、ほ、本当に光栄な出来事だったと実感している。た、ただ美しいというだけじゃなく、澪子さんは聡明で、機知にも富んでいて、その上、思いやりある優しい心の人だとよくわかった。あ、あの人は確かに天華宗の宗主の令嬢だろうが、そういう事情や、男だとか女だとか、そういう事は関係なく、ひとりの優れた資質を持つ人物として、一つの教団の次代を担う重責を負う立場に置かれるのは、不思議な事でも何でもない。寧ろ、妥当だと思う。な、何より君の事を、ほ、本当に心から、す、好いているのが、言葉の端々からよく伝わって来た……。ぼ、僕は、澪子さんと君とは、に……似合いだと思ったぞ……」
冬月は僕の言葉を聞き咎めたというように急に視線を尖らせると、
「いったい何処が似合いだって?」
いきなり不機嫌になった口調に狼狽し、僕は急いで眼鏡を押し上げながら、
「いや、その……だってあの人は、その……」
「何だよ」
「い、いや、だ、だから、その……」
「もごもごしてちゃわからないだろ」
苛立った様子を見せて迫る冬月にゴクリと喉を鳴らし、僕はそろそろと口を開いた。
「……ぼ、僕は、君と澪子さんが、その……似ていると感じたんだ……」
「似ている? 僕と彼女が?」
琥珀の視線の強さに気圧されつつ、おずおずと頷いてまた眼鏡をずり上げ、
「う、うん……、その、何と言うか、君と澪子さんは、お……同じ種類の人間というか……、同じ匂いがするというか……。いや、その、上流の人たちが醸し出す空気だとか、よ……容姿が整っている者同士だとか、そういう意味とはまた違って……。ええと……、自分でもよくわからないが、その、何故だかそう感じるとしか言えないが……」
うまく説明する事が出来ず、余計に苛立たせるかと思ったが、冬月は角立てていた目を伏せると、黙って酒に口をつけた。それから何を見るともなしに座敷の隅に顔を向け、そのまま沈黙したきり、じっと考え事でもするように動きを止めてしまった。
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