穢れなき禽獣は魔都に憩う

クイン舎

文字の大きさ
上 下
44 / 59

其の十八 毒舌王子の隠れ家(19)

しおりを挟む
「せ、世間がどう言おうと、あ……あの人を見れば、どんなにか素晴らしい女性だと言う事はわかるじゃないか。君だって、つい今しがた、そんな話に踊らされる連中を一刀両断いっとうりょうだんにするような発言をしたじゃないか。つ、つまり、君だって口ではどう言おうと、内心では澪子さんがすぐれた女性だと、わかっているんだろ……」
 揶揄やゆ嘲笑ちょうしょうの入り混じる琥珀のまたたきに頭の中がカァ……と熱くなり、あおられるまま口を動かした。
「ぼ、僕は今日、まるで拉致らちされるようにに引きずられては行ったが、あ……あの女性ひとに会えた事は、ほ、本当に光栄な出来事だったと実感している。た、ただ美しいというだけじゃなく、澪子さんは聡明そうめいで、機知きちにもんでいて、その上、思いやりある優しい心の人だとよくわかった。あ、あの人は確かに天華宗てんげしゅうの宗主の令嬢だろうが、そういう事情や、男だとか女だとか、そういう事は関係なく、ひとりの優れた資質を持つ人物として、一つの教団の次代をになう重責を負う立場に置かれるのは、不思議な事でも何でもない。むしろ、妥当だとうだと思う。な、何より君の事を、ほ、本当に心から、す、好いているのが、言葉の端々からよく伝わって来た……。ぼ、僕は、澪子さんと君とは、に……似合いだと思ったぞ……」
 冬月は僕の言葉を聞きとがめたというように急に視線をとがらせると、
「いったい何処どこが似合いだって?」
 いきなり不機嫌になった口調に狼狽ろうばいし、僕は急いで眼鏡を押し上げながら、
「いや、その……だってあの人は、その……」
「何だよ」
「い、いや、だ、だから、その……」
してちゃわからないだろ」
 苛立いらだった様子を見せてせまる冬月にゴクリと喉を鳴らし、僕はそろそろと口を開いた。
「……ぼ、僕は、君と澪子さんが、その……似ていると感じたんだ……」
「似ている? 僕と彼女が?」
 琥珀の視線の強さに気圧けおされつつ、おずおずとうなずいてまた眼鏡をずり上げ、
「う、うん……、その、何と言うか、君と澪子さんは、お……同じ種類の人間というか……、がするというか……。いや、その、上流の人たちがかもし出す空気だとか、よ……容姿が整っている者同士だとか、そういう意味とはまた違って……。ええと……、自分でもよくわからないが、その、何故だかそう感じるとしか言えないが……」
 うまく説明する事が出来ず、余計に苛立たせるかと思ったが、冬月は角立かどだてていた目を伏せると、黙って酒に口をつけた。それから何を見るともなしに座敷の隅に顔を向け、そのまま沈黙したきり、じっと考え事でもするように動きを止めてしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。 二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。 しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。 生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。 それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。 これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

元ヤン妻とサイエンティスト夫。

コウサカチヅル
キャラ文芸
 ボランティアな実験(?)で入れ替わった夫婦の、ショートショートなお話です(ㆁᴗㆁ✿)。

処理中です...