孤悲纏綿──こひてんめん

Arakane

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Fからの手紙

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……さて、ここまで柄にもなくつまらない時候の挨拶なんぞをつらつらと書き連ねたのは、源泉から湧き水がでるが如くのこの興奮が僕をまるごと幻想的世界に押し流してしまわないよう、なんとかとどめようと試みているからだ、と言ったら君はいったいどう思うだろうね? いや、それこそ僕らしくないと驚かれるのは承知だよ。
 とにかく僕のこの手紙と一緒に同封した日記帳を読んでくれたまえ。これは先日、市内において独り暮らしのアパートで机に突っ伏すようにして死んでいるのを発見された五十崎檀子いそざきまゆこという高校教師が、その死の間際まで書いていたと思われる日記帳だ。
 開いて見れば君にもすぐにわかるだろうが、この非常に乱れた文字でありながら、微に入り細に入り、びっしりと頁を埋め尽くすこの文章はある出来事についての故人の私的な回想録であると同時に、非常に興味をそそられる独白文だ。
 これはひょんなことから僕の手に渡って来たものだが、ねぇ、君はもうとっくに僕の好奇心の旺盛なことは知っているだろう? それで僕はこの婦人について、独自に調査を行ってみたんだよ。そうしたらね、どうやらこの婦人は君の同郷らしいことがわかったんだ。
 いつか君の帰省に無理やりついて行ったことがあるだろう? あのとき君はずいぶん迷惑そうな顔をしていたけれど、そのおかげで僕はこの婦人がわざと曖昧に記すにとどめているだいたいの場所におおよその見当をつけることができたんだよ。そういうわけもあって、君にこの日記帳を送ろうと思ったのさ。
 だがね、僕はもしかすると、婦人は誰かに読まれることを前提として書いたのではないかとも思うんだよ。……しかしまぁ、生憎僕は君とは違って人の気持ちがわからないらしいから──とは君のげんだが──また見当違いも甚だしいと、君の不興を買うかもしれないから、ここで僕の意見を披歴ひれきするのはやめておこう。
 でもきっと今回ばかりは君も僕の傍若無人な酔狂──と、これもまぁ君の言い種だが──を責めようとは思わないはずだぜ。何しろ、ここに書かれていることの一部は──読めばすぐに僕の言っている箇所がわかるぜ──君が憑りつかれたみたいに・・・・・・・・・・探究している事柄と大いに関係がありそうだからね。
 これを君がどうするかは君次第だ。だけど、僕は君が無粋な奴じゃないことを知っているからこそ、君に預けようという気になったんだ。

 とにかくまぁ、読んでみてくれ。そしてこの内容について何か僕に質問があるとか、話し合いたいとか、とにかくそういう気になったら、遠慮はいらない。いつでも連絡してくれたまえ。

 それではまた。──君の友人F


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