2 / 36
Fからの手紙
しおりを挟む
……さて、ここまで柄にもなくつまらない時候の挨拶なんぞをつらつらと書き連ねたのは、源泉から湧き水が出でるが如くのこの興奮が僕をまるごと幻想的世界に押し流してしまわないよう、なんとか止めようと試みているからだ、と言ったら君はいったいどう思うだろうね? いや、それこそ僕らしくないと驚かれるのは承知だよ。
とにかく僕のこの手紙と一緒に同封した日記帳を読んでくれたまえ。これは先日、市内において独り暮らしのアパートで机に突っ伏すようにして死んでいるのを発見された五十崎檀子という高校教師が、その死の間際まで書いていたと思われる日記帳だ。
開いて見れば君にもすぐにわかるだろうが、この非常に乱れた文字でありながら、微に入り細に入り、びっしりと頁を埋め尽くすこの文章はある出来事についての故人の私的な回想録であると同時に、非常に興味をそそられる独白文だ。
これはひょんなことから僕の手に渡って来たものだが、ねぇ、君はもうとっくに僕の好奇心の旺盛なことは知っているだろう? それで僕はこの婦人について、独自に調査を行ってみたんだよ。そうしたらね、どうやらこの婦人は君の同郷らしいことがわかったんだ。
いつか君の帰省に無理やりついて行ったことがあるだろう? あのとき君はずいぶん迷惑そうな顔をしていたけれど、そのおかげで僕はこの婦人がわざと曖昧に記すにとどめているだいたいの場所におおよその見当をつけることができたんだよ。そういうわけもあって、君にこの日記帳を送ろうと思ったのさ。
だがね、僕はもしかすると、婦人は誰かに読まれることを前提として書いたのではないかとも思うんだよ。……しかしまぁ、生憎僕は君とは違って人の気持ちがわからないらしいから──とは君の言だが──また見当違いも甚だしいと、君の不興を買うかもしれないから、ここで僕の意見を披歴するのはやめておこう。
でもきっと今回ばかりは君も僕の傍若無人な酔狂──と、これもまぁ君の言い種だが──を責めようとは思わないはずだぜ。何しろ、ここに書かれていることの一部は──読めばすぐに僕の言っている箇所がわかるぜ──君が憑りつかれたみたいに探究している事柄と大いに関係がありそうだからね。
これを君がどうするかは君次第だ。だけど、僕は君が無粋な奴じゃないことを知っているからこそ、君に預けようという気になったんだ。
とにかくまぁ、読んでみてくれ。そしてこの内容について何か僕に質問があるとか、話し合いたいとか、とにかくそういう気になったら、遠慮はいらない。いつでも連絡してくれたまえ。
それではまた。──君の友人F
とにかく僕のこの手紙と一緒に同封した日記帳を読んでくれたまえ。これは先日、市内において独り暮らしのアパートで机に突っ伏すようにして死んでいるのを発見された五十崎檀子という高校教師が、その死の間際まで書いていたと思われる日記帳だ。
開いて見れば君にもすぐにわかるだろうが、この非常に乱れた文字でありながら、微に入り細に入り、びっしりと頁を埋め尽くすこの文章はある出来事についての故人の私的な回想録であると同時に、非常に興味をそそられる独白文だ。
これはひょんなことから僕の手に渡って来たものだが、ねぇ、君はもうとっくに僕の好奇心の旺盛なことは知っているだろう? それで僕はこの婦人について、独自に調査を行ってみたんだよ。そうしたらね、どうやらこの婦人は君の同郷らしいことがわかったんだ。
いつか君の帰省に無理やりついて行ったことがあるだろう? あのとき君はずいぶん迷惑そうな顔をしていたけれど、そのおかげで僕はこの婦人がわざと曖昧に記すにとどめているだいたいの場所におおよその見当をつけることができたんだよ。そういうわけもあって、君にこの日記帳を送ろうと思ったのさ。
だがね、僕はもしかすると、婦人は誰かに読まれることを前提として書いたのではないかとも思うんだよ。……しかしまぁ、生憎僕は君とは違って人の気持ちがわからないらしいから──とは君の言だが──また見当違いも甚だしいと、君の不興を買うかもしれないから、ここで僕の意見を披歴するのはやめておこう。
でもきっと今回ばかりは君も僕の傍若無人な酔狂──と、これもまぁ君の言い種だが──を責めようとは思わないはずだぜ。何しろ、ここに書かれていることの一部は──読めばすぐに僕の言っている箇所がわかるぜ──君が憑りつかれたみたいに探究している事柄と大いに関係がありそうだからね。
これを君がどうするかは君次第だ。だけど、僕は君が無粋な奴じゃないことを知っているからこそ、君に預けようという気になったんだ。
とにかくまぁ、読んでみてくれ。そしてこの内容について何か僕に質問があるとか、話し合いたいとか、とにかくそういう気になったら、遠慮はいらない。いつでも連絡してくれたまえ。
それではまた。──君の友人F
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー
至堂文斗
ホラー
――其れは、人類の進化のため。
歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。
魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。
決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。
さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。
たった一つの、望まれた終焉に向けて。
来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。
これより幻影三部作、開幕いたします――。
【幻影綺館】
「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」
鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。
その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。
疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。
【幻影鏡界】
「――一角荘へ行ってみますか?」
黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。
そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。
それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。
【幻影回忌】
「私は、今度こそ創造主になってみせよう」
黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。
その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。
ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。
事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。
そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。
僕のごちそう
田古みゆう
ホラー
「僕のいちばんのごちそうは、いつだってキミだよ」
それは、僕がキミに送る最大級の愛の言葉。
いつも何かを食べているキミに送った僕の想い。それにキミはどうやって答えてくれるのか。
僕とキミの奇妙な関係の結末に、身震い必至!!
童貞村
雷尾
ホラー
動画サイトで配信活動をしている男の元に、ファンやリスナーから阿嘉黒町の奥地にある廃村の探索をしてほしいと要望が届いた。名前すらもわからないその村では、廃村のはずなのに今でも人が暮らしているだとか、過去に殺人事件があっただとか、その土地を知る者の間では禁足地扱いされているといった不穏な噂がまことしやかに囁かれていた。※BL要素ありです※
作中にでてくるユーチューバー氏は進行役件観測者なので、彼はBLしません。
※ユーチューバー氏はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/manga/980286919/965721001
ちょっとハッとする話
狼少年
ホラー
人の心理をくすぐるちょっとだけハッとする話です。色々な所でちょこちょこ繋がってる所もありますが。基本何処から読んでも大丈夫です。2.3分で読める話ばかりです。ネタが浮かぶ限り更新したす。一話完結です。百話を目指し書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる