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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

夏椿のある二人の家 [完]

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「わぁー! ミカエル! 夏椿がある!」

「小道の奥にはヤマティ皇国式の東屋もあるよ。」

「えっ! 嬉しいな。王国での事を思い出すね。」

 ミカエルが、微笑ましそうに僕を見ている。

「庭園の奥の方の散策は立ち入り禁止にしておいたのは、このためだったの?」

「シャランを驚かせたかったからね。」

「ものすごく驚いたよ! ミカエル、ありがとう。」

 僕は、ミカエルの頬にチュッ、と口付けをした。
 くすぐったそうにクスクス笑うミカエルは、太陽の光を浴びて輝いてみえる。

「お茶の準備もさせてるから、ゆっくりしようね。」

 ミカエルの言葉に笑顔で大きく頷いて、手を繋いで歩いた。


 僕達の結婚から二年後、ガブリエルお義兄様の戴冠式が行われ、皇帝になった。
 お義父様とお義母様は、ようやく趣味である芸術に集中出来ると喜んでいて、各国の旅行も検討しているらしい。
 同時にミカエルは臣籍降下して、大公となり、領地を賜った。
 と、言っても第二皇子のころから王家の直轄地として領地運営してきた、かつての公爵領だ。

 処刑された公爵のせいで重税に苦しんでいた領民は笑顔を取り戻し、治安の悪かった領内も今では市場も活気を取り戻した。警備の目も行き届くようになると、子供たちも安心して外で遊べるようになっている。

 公爵邸は縁起が悪いと解体されて、新たに建て直された。
 大公が住むにしては小さめなのかもしれないが、貴族の屋敷と比べれば十分と言えるだろう。そもそも僕達二人だけの家だ。
 その分、庭園や硝子張りの温室に力が入っている。
 ミカエルが、僕のために四季折々の植物を手配してくれたのだ。

 ちなみに、ミカエルの護衛騎士のエイデンは、大公領の隣の伯爵領を継いだ。
 というのも、跡継ぎのいない老伯爵は大変偏屈で養子を迎えるのも嫌がり、自分の亡き後は国に領地を返還しようと考えていたらしい。
 ところが、ミカエルと現大公領を視察に訪れる途中で、馬車に不具合が生じて立ち往生していた老伯爵を助けた時にエイデンをたいそう気に入り、養子にしたいとエイデンの実家の侯爵家に申し入れたそうだ。

 エイデンも最初は固辞していたが、老伯爵の方が数段上手だった。健全な領地運営と、元公爵領から流れて来ていた破落戸に対応してきた警備隊は、領民からも慕われている。
 何より、有能な家令に心当たりがあると、無理矢理引き合わされた人物が、ミカエルとエイデンの同級生で信頼出来る相手だったらしい。
 こっそり聞いてみると、エイデンと老伯爵が出会う前から声をかけられていたという。

 老伯爵は見事な策士であった。

 一体、いつから目を付けられていたのだろう。
 エイデンは、今まで通りミカエル様の側近として仕えることができる事が決め手となり、了承した。

 エイデンは、伯爵家から通うようになった。

 僕達より先に夫婦になっていた、ミラ嬢は伯爵夫人となって現在、第ニ子を身ごもっていて幸せそうだ。
 本当に屋敷が近いので、僕もよく遊びに行ってミラと話をしている。


  夏椿の東屋で、ミカエルと出会った頃のことや新婚旅行で行った皇国での出来事など他愛のない話をしながらお茶をしていると、あっという間に時間が過ぎた。

「あっ、ずいぶん話が弾んじゃったね。ミカエル、そろそろ帰ろう?」

 僕がそう言うと、ミカエルはほ僕の手をスッと引いて、夏椿の前でかたひざを着いた。

 僕の胸がドキリと高鳴る。
    これは、王国を出る前の決して忘れられない思い出の一場面。
 僕の手の平に触れるか触れないかくらいに唇を寄せて、こちらを決意を込めた目で見あげる。

「私は一人の男として、これからもシャランを愛し抜くと誓う。
 シャランが隣りにいてくれれば、どんな困難でも乗り越えていける。どうか、この地でずっと二人で生きてくれないか?」

 ミカエルは言い終わると、手の平に口付けをした。
 僕は、にじむ涙をぬぐって、そっと自分のイヤーカフを外すと、金色の魔力が舞い散る。

「僕もただのシャランとして、ミカエルを愛している。ずっとずっと、ミカエルの隣を歩いていきたい。
 どんな困難でも二人で乗り越えていこう?
 この地でも、どこへでもミカエルの行くところならついて行って離れないから。
 だから、僕のことを離さないでね? ミカエル。」

「───っ! 当然だ! 私がシャランを手放すなんてありえないっ。」

 立ち上がったミカエルがギュウギュウと僕を抱きしめて、可愛い、愛してると何度も囁き、口付けを仕掛けてくる。

 キラキラと舞う僕の魔力を嬉しそうにしているミカエルの耳元でそっと『おねだり』した。

「ねぇ、『ミカ』はやく帰ろう?」

「っ! そうだな。そうしよう、シャラン。」

 ミカエルと恋人繋ぎで歩く夏椿の小道が風に吹かれてシャラシャラ音をたてる。

 これから何度もこの道を二人で歩くのだろう。

 心持ち早足のミカエルに苦笑しながらも、僕はこの先も続くであろう幸福な日々に、心が満たされるのであった。




    ──完──


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感想 6

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みんなの感想(6件)

一ノ瀬麻紀
2024.11.12 一ノ瀬麻紀
ネタバレ含む
金浦桃多
2024.11.12 金浦桃多

まきたん、感想ありがとうございます!

ミカエルの脳内お花畑になっちゃったの 笑
昔のミカエルを知っている人からすると、別人過ぎてドン引く案件です😂

魔力の件はね、上手くまとまっていれば良いけど💦詰め込みすぎ要素のひとつだね。ゴリ押しでまとめました←

まきたんスピンオフで忙しいのに💦
読んでくれてありがとうございました🥰

解除
一片澪
2024.11.01 一片澪
ネタバレ含む
金浦桃多
2024.11.01 金浦桃多

一片澪さま、感想ありがとうございます!

見つけてしまいましたね!木彫りのフォレストベア 笑
謎の魅力で人気があるのです。


……みおたん、このような僻地まで来てくれてありがとうございました(小声)

解除
きよひ
2024.11.01 きよひ

シャラン殿下がどんなにキラキラしてかわいいか、ミカエル様の目を通して見えるようです✨✨
題名通りのキュンキュン!
続きも頑張ってくださいー!

金浦桃多
2024.11.01 金浦桃多

きよひさん✨感想ありがとうございます。

とにかく、可愛い可愛い言ってるミカエルです 笑

お読みくださりありがとうございました!

解除

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