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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
幸せな結婚式~ブーケに愛を込めて
しおりを挟む結婚式がいよいよ近づいてきた。
その日もまた日中の忙しさを癒すように、念入りにマッサージでほぐされると、そのまま眠りたくなってしまう。
ミカエル様に会いたいなあ……なんて、夕食を一緒に食べたのに思ってしまう。
ミカエル様は、結婚式まで我慢すると言うのだけど、僕は一緒にすら眠れなくて寂しい。
僕は、久しぶりに手紙を書くことにした。以前、プレゼント交換したあの硝子ペンでひと言。
『結婚式を楽しみにしています。』
という一言に、ブルースターの花を添える。
「明日はミカエル様と丸一日会えないから、この手紙届けてくれる?」
ステンレスがニッコリ笑うと、部屋を出て行った。
ブルースターは僕の持つブーケに使う為に用意された花を少し貰ってきていたのだ。当日にミカエル様は気付いてくれるだろうか? 僕の愛を全て詰め込んだブーケの意味を。
しばらくすると、ステンレスが赤い薔薇一本と手紙を持って帰ってきた。とてもわかりやすい花が、今のミカエル様を表しているようで嬉しい。
『指折り数えて待っているよ。おやすみシャラン、良い夢を。』
「おやすみなさい、ミカエル様。良い夢を。」
そう囁いて手紙に口付けてから、用意して貰った一輪挿しに薔薇を挿して、ほのかに香る薔薇に包まれて眠った。
────ついに、結婚式当日。
控え室で、この日のために作り込まれた婚礼衣装に身を包み、丁寧に編みあげられた髪に王国でプレゼントされた蝶の髪飾りをつけた。
さらに、ほんのり化粧までされている。
レースの繊細さと刺繍に仮縫いの時から感動していたが、今日の僕は自分でも驚くほどに変わっていると思う。
基本的にはミカエル様とお揃いなのだが、僕のはフリルとレースが多く取り入れられているので華やかで繊細な印象を与える。
柔らかな白を基調としていて、ところどころにお互いの瞳の色が配置されていた。
────ミカエル様は気に入ってくれるかな?
仮縫いの時に一度見せあったが、あれ以来だ。
そう思っていると、久しぶりに会う両親とファッチャモ兄様が来てくれた。
王太子のアントニオ兄様はお留守番だ。
僕の姿を見て、両親が涙ぐんだのには驚いたが、ファッチャモ兄様は笑顔でこう言った。
「ああ、二人で乗り越えたのか。頑張ったな、シャラン。」
いつものように頭をグリグリしようとして、綺麗に整えられた髪型をみて諦めた代わりに、軽くデコピンをされる。
「いたいよ、兄様。」
本当はそんなに痛くないけど、拗ねたように言ってみた。ぷはっと、珍しく全開で笑った兄様が、優しい顔で僕に言った。
「幸せになれ、シャラン。」
「もちろん、絶対に幸せになるよ。」
両親は涙を浮かべて頷いていたが、ファッチャモ兄様が促して、控え室を出て行った。
両親からひと言、
「幸せそうで良かった。」
と言われて、胸が熱くなった。
ステンレスがサッと僕の目元を手巾でおさえる。
ああ、涙が出たのか。
「ステンレス、ありがとう。もう大丈夫だよ。」
両親……父上と母上が、僕の事もちゃんと気にかけていてくれた事に気付けたのもミカエル様のお陰なんだ。僕は、みんなの思いを受けて心が温かくなる。
扉をノックされて、いよいよ僕は誓いの儀を行う為に、ミカエル様の待つ元へと向かう。
今日ために試行錯誤したブーケを持って。
廊下を進み、入場口付近で父上が待っていた。
僕の事をジッと見つめてから噛み締めるように言った。
「私の息子は本当に綺麗だ。帝国に嫁がせて正解だったのだな。王国の事は心配しないで、自分の幸せを大切にしなさい。
シャランは王国の為に今まで十分頑張ってくれた。
私もまだまだ国のために頑張るからな。」
「……父上、ありがとう。」
ニッ、と笑って僕をエスコートすると、合図を受けて扉が開かれた。
一身に視線を浴びると気を引き締めて、真っ直ぐ視線を前に向ける。
周囲から思わず、といった溜息が漏れる。
目指す先にいるミカエル様が、今日の為に誂えた、恐ろしく似合う婚礼衣装で、こちらを見て惚けた表情をしている。
視線が交わると、夢から覚めたようにハッとした後、忙しなく瞬きをしてから蕩けるような微笑みを見せた。
僕も、ミカエル様に見惚れていたので照れながらも微笑む。二人の空気感に見守っている参列者は、自然と顔が綻んだ。
父上からミカエル様にエスコートが変わる時、二人は目を合わせ小さく頷いていた。
その後、こちらを向いたミカエル様が、ブーケを見て嬉しそうに笑う。
「シャラン、物凄く綺麗だ。ブーケも……たくさんの思い出が、愛が詰まっているね。」
「ミカエル様も格好良すぎです。思わず見惚れてしまいました。ブーケに愛を込めた事に気付いてくださって嬉しい。」
「忘れるわけがないだろう?」
皇帝陛下───お義父様の元へ向かうと、宣誓の儀を行った。
教わった通りに宣誓が出来てホッとすると、結婚指輪が用意される。
ブーケを預けて、ミカエル様と向き合うと二人でデザインを決めた指輪を、僕の左手薬指にミカエル様が嵌める。続いて、ミカエル様の大きな手がこちらに向けられると、僕は少し緊張しながらも何とか薬指に嵌めることができた。
次は婚姻証書に自分の魔力を込めた特殊インクでサインをする。
まずはミカエル様がサインをすると、名前が青白く煌めく。
その下に僕の魔力が込められたインクでサインをする。
金色に煌めいた文字を見て、二人で皇帝陛下に手渡すと、高らかに宣言した。
「ここに、二人の婚姻が成立した!!」
ドッと、歓声が上がると帝都中に知らせる鐘の音が鳴り響く。
ミカエル様と二人で、会場の外へと向かうと、正面の大きな扉が開かれる。扉越しでも大きかった歓声が、更に大きくなった。
ミカエル様が僕を抱き寄せると、見せつけるように口付けをする。歓声に悲鳴まで混じって大騒ぎだ。
準備されていた、パレード用の馬車に乗ると、大通りに向かう。
ミカエル様と二人で笑顔を零して手を振りながらも、民衆からの祝福の声に、思わず嬉し涙が溢れそうになる。
ミカエル様がそれに気付くと、僕の耳からイヤーカフを外してしまう。
途端に、ブワッと舞い散る金色の魔力に、民衆は夢中になる。
僕も思っていた以上の魔力の放出に驚いてしまって、涙が止まった。イタズラが成功したミカエル様が、僕に向かって笑みを浮かべる。
「良かった。想像以上に喜んでくれていたんだね。
可愛いシャラン、愛しているよ。」
そう言って瞼に口付けると、溜まっていた涙をちゅ、と吸った。
「み、ミカエル様っ! みんなが見てるっ!」
顔を真っ赤にして、キラキラ舞い散る魔力のせいで、僕の抗議は全く説得力が無かった。
握りあった手を上げて、再び笑顔の民衆へと手を振り返しながら、この光景は一生忘れないだろう、と思った。
パレードが終わり、披露宴が始まった。
皇帝陛下の祝辞の後、ヤマティ皇国のシャクナゲ皇太子から僕の王色の話をした。
ザワついたのが収まりかけた後、シャクナゲ様は僕にすら話していなかった発言をした。
「シャラン皇子妃を、ヤマティ皇国の一代名誉伯爵として皇都に屋敷を贈りたいと、我が父である帝から預かってきた。
領地は無いから、気軽に貰っておくと良い。屋敷の手入れも皇家でしておく。
我がはとこであるシャラン、いつでも皇国に遊びに来るといい。もちろん伴侶のミカエル殿下と一緒に。」
チラリとシャクナゲ様の隣で頷いているスズラン嬢を見ると、既に知っていた上で喜んでいるのがわかる。ミカエル様が呆れたような顔をしていたが、苦笑しながらも頷いたので、立ち上がり礼をする。
「ヤマティ皇国一代名誉伯爵、ありがたく受爵賜ります。」
「細かい事は後日にしよう。
ミカエルとシャラン、結婚おめでとう。私達の時も呼ぶからな。」
シャクナゲ様がお義父様に合図をして、席に戻った。
「今日の良き日に、ルクスペイ帝国、ヤマティ皇国そしてプロスペロ王国の三カ国の結束がより強固になる事を願う。乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
先程の話題で盛り上がる声が聞こえる中、上位貴族から挨拶に来た。
ミカエル様と僕と挨拶で料理に口にする事は難しいと聞いていたが、本当に切れ間なくやって来る。
卒なくこなしていくが少しくたびれて来た頃、ステンレスが僕を呼びに来る。
ミカエル様が頷いて、「また後で。」と言って僕は席を立った。
───いよいよ、僕は。
酒精のせいだけではない、ふわふわとした感覚で部屋に戻る。
摘めるように準備してあった軽食を食べて、入浴すると、ここ一ヶ月で慣れた磨き上げられてからのマッサージに、身を委ねる。
────しかし、これは。
「確かに手の込んだ素敵な夜着だけど……な、なんだか透けてない?」
ステンレスが真面目な顔で、着せようとしてくる。
「今夜のために全員の意見を纏めた最高傑作です。
今夜のシャラン様に相応しいお召し物です。
きっと、ミカエル殿下もお喜びになるでしょう。」
最後の一言で覚悟を決めた。
「わかった、そこまで言うなら。」
ステンレスに着せられた夜着は、やっぱり透けていた。恥ずかしいけど、喜んで貰えるなら……。
上からガウンを羽織り、主寝室へ向かった。
───いよいよ、ミカエル様と。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
花言葉
ブルースター→「信じ合う心」「幸福な愛」「変わらぬ愛」
赤い薔薇(一本)→「私にはあなただけ」
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