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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

ヤマティ皇国の皇太子

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 季節の移り変わりが早く感じる。

 婚姻の準備や、帝国の礼儀作法、貴族達の情報を頭に叩き込み、顔合わせをしていった。
 それに加え、王国と連絡を取りながら学園都市へと大きく変わっていく侯爵領から帝国の学園都市への視察の橋渡しをしている。
 さらに王国の人材育成を目的とした、帝国からの有識者の派遣の準備も着々と進める。
 どうやら、専門分野ごとの話も出てきているらしく、そちらは報告を聞くだけに留めていた。揉めるようであれば顔を出そうと思っていたが、順調に進んでいるらしい。

 王都の学園についても並行して進めていて、カリキュラムについても、平民も普通に通えるようにしたいという僕の願いを叶えようと色々動いてくれている。
 ミカエル様も手を貸してくれているが、周辺諸国との仕事もあるので甘えてばかりもいられない。

 式への招待客について、スズラン嬢から驚く話を持ちかけられた。ヤマティ皇国のシャクナゲ皇太子殿下が、参列したいと話しているというのだ。

 何故か僕と直接話してみたいらしい。不思議に思いミカエル様に聞いてみた。

「以前惚気た時に、そのような事を言っていたな。」

 そんな前から話してみたいと言っていたのか、と驚いた。それにしても惚気けたの?
 ミカエル様がもちろん参加に否やは無いと言ってくれて、招待状を送る事になった。
 今は式を挙げたあとに、しばらく二人だけの時間を過ごせる様にお互いに頑張って調整している。


 そしてまた月日は経って────


 ここ一ヶ月、ミカエル様と別々に眠っている。
 僕が結婚式に向かって、全身マッサージと香油を丹念に塗り込まれるようになってから、ミカエル様が音を上げた。

「私は約束を守りたいから、あと一ヶ月我慢するよ。
 日々美しくなっていくシャランに私の理性は負けそうだ。お願いだから、本当に鍵をかけておいてね?」

 名残惜しそうに、額に口付けをしてミカエル様が主寝室を通って自室に帰って行った。若干、大袈裟に聞こえたが、周囲の者達もミカエル様に賛同した上に、ステンレスがしっかりと主寝室に通じる扉の鍵を掛けているのを見た。

「ミカエル殿下の血の滲む様なこの一年の忍耐を、どうか尊重して差し上げて下さい。」

 強い視線でステンレスに言われて、頷くしかなかった。


 ヤマティ皇国から、シャクナゲ皇太子殿下が早めに帝国にやって来た。
 僕と同じ銀髪金目をしていて、眼光が鋭く体格の良い美丈夫だった。

「はじめまして。僕はプロスペロ王国第三王子シャランです。お会いできて光栄です。」

「ヤマティ皇国の皇太子シャクナゲだ。堅苦しくしなくて良い。シャクナゲと呼べ。
 話には聞いていたが、本当に王色を持っているのだな。」

「では、シャクナゲ様と。王色……ですか?」

 僕が戸惑っていると、意外そうにシャクナゲ様が答えた。

「聞いてないのか? 直系男子が途絶えた時に、傍系の王色持ちにも王位継承権が発生する。プロスペロ国王から、成人したらヤマティ皇国に外交官として来る予定だったことは聞いていただろう? 
 あれは、王色持ちは皇国で大切にされるからだ。」

 僕は驚いて目を見開いた。

「そうだったのですか。まさかその様な事とは知らず、当時は持て余されて他国に行かされるのだとばかり思っておりました。
 でも、おばあ様から聞かされていたヤマティ皇国に行けるのは楽しみでしたね。」

「お前の父親は不器用だな。手紙では王国にいるのはシャランに辛い思いをさせるから、懐いていたモクレン様の母国である皇国に頼みたいと書いていたのだぞ。
 その時、王色をモクレン様から受け継いでいるが、政争に巻き込まないで欲しいと頼まれた。」

「父は知っていたのですか? おばあ様からも聞いたことはありませんでした……。」

「なるほど。二人共シャランに穏やかに過ごして貰いたかったのだろうな。
 だが、今となっては帝国にいた方が幸せだろう。」

 すかさず、ミカエル様がこう言った。

「当然だ。私がシャランを幸せにする。」

「はい。僕は帝国で幸せになります。」

 僕は、ミカエル様と見つめ合い微笑んだ。
 シャクナゲ様は、そんな僕達を見て満足そうに頷いた。

「先日まで、皇国内で愚か者どもが蠢いていてな。
 スズランが巻き込まれないように帝国に預けておいたのだが、ようやく連れて帰れる。」

 スズラン嬢の話になった途端、油断ならない人物だと思っていたシャクナゲ様が、柔らかな印象になって驚いた。
 帝国に来たのは、スズラン嬢を迎えに来たのが本音なのかもしれない。

「スズランと仲良くしてくれた事に感謝する。これからも仲良くしてやってくれ───ミカエル、睨むな。
 シャランを連れていくとは言っていないだろう?
 本当にお前はトリカブトのような男だな。 」

「えっ?! トリカブトですか?  僕は、太陽の花と言われるヒマワリのようだと思うのですが。」

 シャクナゲがミカエル様を例えたトリカブトは、『人間嫌い』という花言葉は確かにあるけど……。
 ミカエル様が慌てて言い訳を始めた。

「皇国にも、うるさく纏わりつく者たちがいてウンザリして追い払っただけだよ。」

 シャクナゲ様が言葉を続けた。

「それが、一撃で黙らせたのが見事でな。トリカブトのような男だと思った。そうか、シャランにはヒマワリなのだな。
 確か、一本のヒマワリは『一目惚れ』だったか。」

    ニヤニヤとミカエル様を見て笑っているシャクナゲ様と憮然とした表情のミカエル様。
 多分、どうやって追い払ったのかは聞かない方が良いのだろうな、と僕は思った。
 大きく頷くとシャクナゲ様が立ち上がった。

「シャランに直接会えてよかった。皇国に来る時には一報を。ミカエル、良いか?」

「わかったよ。」

「では失礼する。スズランと一緒に帝都を回るから、こちらは気にするな───ああ、大事な事を忘れてた。二人とも結婚おめでとう。」

 そう言うと、嵐のように去って行った。

「うーん、やっぱりスズラン嬢に会いに来ただけのような気がします。」

「いや、シャランが皇国の政争の種になるか見極めに来たのだろう。あれで用心深い奴だ。」

 確かに、観察されているのは気付いていたけど、嫌な感じはしなかった。どちらかと言うと、スズラン嬢の友人に相応しいのか見に来たのかもしれない、と思った。
 友人と認められたようで、僕は安心したのだった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 花言葉
 トリカブト→「騎士道」「栄光」「人間嫌い」
 ヒマワリ→「あなただけを見つめる」



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