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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

過保護なのはどっち?

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 しばらく見つめ合っていたが、惹かれ合うように口付けしよう……とした瞬間、ミカエル様が我に返った。
 呼び鈴でステンレスを呼ぶと、フランチェスコ様に知らせるように伝える。

「シャラン、まだ熱がある。薬を飲んで休もう。それともお腹が空いている? 
 ああ、何か口にしていいかはフランチェスコ様が来てからだな。」

 ミカエル様の過保護な程の心配に苦笑する。

「お腹は空いてない……かな? 薬を飲んで大人しくしてます。ミカエル様も休んで下さい。
 僕が良くなっても、ミカエル様が倒れたら悲しいです。」

「ああ、約束する。だからシャランも早く良くなってくれ……。」

 後ろの方でホッとした顔のエイデンがいた。
 どうやらミカエル様は、かなり無理をしていたらしい。

「ちゃんとベッドで寝てくださいね。約束ですよ。」

「……ああ。フランチェスコ様が診てくれたら、そうするよ。はは、どちらが病人かわからないな。」

 僕が本当に大丈夫そうだと安心したらしく、表情が柔らかくなった。

「フランチェスコ先生がおいでになりました。」

 声がかかり、フランチェスコ様が入ってくる。

「シャラン殿下、目が覚めたのですね。ようこざいました。
 では診察をします。侍従以外、ミカエル殿下がたは部屋から出て下さい。」

 フランチェスコ様に診察してもらう為に、部屋にはステンレスだけ残して出て行ってもらう。 

「熱はまだありますけど、だいぶ下がりましたね。
 口を開けて……うん、だいぶ良くなってはきていますが、まだ油断は禁物ですよ。身体の怪我もみせて貰います。」

「はい。」

 ステンレスに慎重に上衣を脱がせてもらうと、白い包帯が身体に巻かれていた。
 フランチェスコ様がその包帯を手馴れたように外していくにつれ、酷い変色をした身体が現れる。

「うわっ! え? こんなに酷かったの?  どおりで動くたびに痛むわけですね。」

「これでも、内臓の損傷は治したのですよ。殿下を痛めつけた令嬢は、身体強化の能力でもあったのでしょうか?本当に酷いことを……。」

「フランチェスコ様、聖魔法を使っていただいたのですね。ありがとうございました。」

「目の前で殿下が突然消えて、本当に驚きましたよ。
 さあ、塗り薬を付けるので、腕を上げて。
 闇属性をあの様に使うなんて……。
 聖魔法と同様に保護されるべきだった人物の末路ですか……。」

 眉間に皺を寄せ、複雑な表情をしている。保護されていなかったならば、フランチェスコ様も、もしかしたら不当に扱われていたかもしれないのだ。他人事ではないのだろう。

「はい、出来ましたよ。痣も色は酷く見えますが、もうしばらくすると綺麗に治るでしょう。
 食事は、具のないスープから始めてください。
 薬も熱が下がるまで、もう少し同じものでいきましょう。」

 上衣を着ると、ミカエル様とエイデンが戻ってきた。

「安心してください、順調に良くなっていますよ。
 それよりも、ミカエル殿下は食事と休養が必要ですね。今日こそはゆっくりお休みして下さいよ。」

 厳しい顔で、フランチェスコ様がミカエル殿下に言った。エイデンが援護のように口を開く。

「フランチェスコ様の言う通りにした方が良いですよ。皇太子殿下の伝言で、ずっと休めと言われていたのでしょう。明日も休んで良いくらい仕事は進んでいますし。」

「それが良いでしょう。シャラン殿下、ミカエル殿下、お大事になさって下さい。明日も様子を見に来ますからね。では、私はこれで失礼致します。」

 フランチェスコ様が帰ると、僕はミカエル様を食事に誘ってみた。ミカエル様が食事まで疎かにしていたのなら、目の前で食べるところをしっかりと見たい。

「ミカエル様、少々行儀は悪いですけど、ここで一緒に食事しませんか?」

「……良いのか?」

「僕はスープだけですけど、ミカエルは食べたい物を食べてください。薬を飲んだら僕は眠ります。
 ミカエル様もその時おやすみになって下さい。ソファではなく、ちゃんと自分のベッドでですよ?
 ベッドの上からですけど、お見送りしますからね。」

「ふふ、わかったよシャラン。食事の準備を頼む。軽めが良いな。」

 僕は、ミカエル様が少し元気になって安心した。

「シャラン、また食事は一緒にしよう。」

「ミカエル様の都合が良ければ、喜んで。」

 お互いに心配しながらも約束に胸を踊らせる。
 食事を終えるとミカエル様が薬の準備をした。
 手馴れた様子から、ミカエル様が僕に薬を飲ませていたのだろう。

「苦いよ。我慢してね。」

 ふと、夢現の中での事を思い出す。口移しで飲ませてくれていたのだ、苦味も知っているのだろう。
 改めてそう考えると頬が赤くなる。

「ん? また熱が上がってきたかな。」

「だ、だいじょうぶデス。」

 既に、もっと際どい事をしているというのに、こういう事は照れくさい。

「? そうか。さあ、頑張って飲んで。」

 ミカエル様に応援されて、思い切って飲む。

「───?! うぅ、苦いです。」

 まさか、こんなに苦かったとは……。
 すかさず果実水を差し出され、飲み干した。

「よく頑張ったな、シャラン。」

 子供にするように頭を撫でられる。ミカエル様に撫でられていると、薬の副作用も加わり眠くなってきた。

「ミカエル様、眠くなってきました。僕は大人しく寝ているので、ミカエル様も安心して眠って下さい。約束通り、お見送りします。」

「ありがとう。シャランが眠れないのは困るから、私も帰って寝るよ。」

 ミカエル様は苦笑して、おやすみと額に口付けて部屋を出て行った。

「ステンレス、僕はそろそろ寝るけど、イノックスとステンレスは明日休みだよ。これは命令だからね。
 二人の目の下のクマも酷いよ……心配かけてごめんね。もう大丈夫だから、ゆっくり休んでよ。」

 ステンレスが噛み締めるように震えた声で言った。

「シャラン様が目を覚まして良かったです……。」

 と言うステンレスの頭を、イノックスがぽんとしてあげると、ポロリと涙を零した。
 あとはお任せ下さい、と侍女と他の騎士が言ってくれる。

「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」

 そう言って二人が下がる。

「あの二人も無理してたでしょう?」

 僕がそう言うと、侍女達は苦笑して頷いた。

「やっぱりね。みんなもありがとう……ごめん、もう寝るね。」

「はい、ゆっくりお休み下さいませ。」

 優しい言葉を聞きながら、シャランは眠った。


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