46 / 54
ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
過保護なのはどっち?
しおりを挟むしばらく見つめ合っていたが、惹かれ合うように口付けしよう……とした瞬間、ミカエル様が我に返った。
呼び鈴でステンレスを呼ぶと、フランチェスコ様に知らせるように伝える。
「シャラン、まだ熱がある。薬を飲んで休もう。それともお腹が空いている?
ああ、何か口にしていいかはフランチェスコ様が来てからだな。」
ミカエル様の過保護な程の心配に苦笑する。
「お腹は空いてない……かな? 薬を飲んで大人しくしてます。ミカエル様も休んで下さい。
僕が良くなっても、ミカエル様が倒れたら悲しいです。」
「ああ、約束する。だからシャランも早く良くなってくれ……。」
後ろの方でホッとした顔のエイデンがいた。
どうやらミカエル様は、かなり無理をしていたらしい。
「ちゃんとベッドで寝てくださいね。約束ですよ。」
「……ああ。フランチェスコ様が診てくれたら、そうするよ。はは、どちらが病人かわからないな。」
僕が本当に大丈夫そうだと安心したらしく、表情が柔らかくなった。
「フランチェスコ先生がおいでになりました。」
声がかかり、フランチェスコ様が入ってくる。
「シャラン殿下、目が覚めたのですね。ようこざいました。
では診察をします。侍従以外、ミカエル殿下がたは部屋から出て下さい。」
フランチェスコ様に診察してもらう為に、部屋にはステンレスだけ残して出て行ってもらう。
「熱はまだありますけど、だいぶ下がりましたね。
口を開けて……うん、だいぶ良くなってはきていますが、まだ油断は禁物ですよ。身体の怪我もみせて貰います。」
「はい。」
ステンレスに慎重に上衣を脱がせてもらうと、白い包帯が身体に巻かれていた。
フランチェスコ様がその包帯を手馴れたように外していくにつれ、酷い変色をした身体が現れる。
「うわっ! え? こんなに酷かったの? どおりで動くたびに痛むわけですね。」
「これでも、内臓の損傷は治したのですよ。殿下を痛めつけた令嬢は、身体強化の能力でもあったのでしょうか?本当に酷いことを……。」
「フランチェスコ様、聖魔法を使っていただいたのですね。ありがとうございました。」
「目の前で殿下が突然消えて、本当に驚きましたよ。
さあ、塗り薬を付けるので、腕を上げて。
闇属性をあの様に使うなんて……。
聖魔法と同様に保護されるべきだった人物の末路ですか……。」
眉間に皺を寄せ、複雑な表情をしている。保護されていなかったならば、フランチェスコ様も、もしかしたら不当に扱われていたかもしれないのだ。他人事ではないのだろう。
「はい、出来ましたよ。痣も色は酷く見えますが、もうしばらくすると綺麗に治るでしょう。
食事は、具のないスープから始めてください。
薬も熱が下がるまで、もう少し同じものでいきましょう。」
上衣を着ると、ミカエル様とエイデンが戻ってきた。
「安心してください、順調に良くなっていますよ。
それよりも、ミカエル殿下は食事と休養が必要ですね。今日こそはゆっくりお休みして下さいよ。」
厳しい顔で、フランチェスコ様がミカエル殿下に言った。エイデンが援護のように口を開く。
「フランチェスコ様の言う通りにした方が良いですよ。皇太子殿下の伝言で、ずっと休めと言われていたのでしょう。明日も休んで良いくらい仕事は進んでいますし。」
「それが良いでしょう。シャラン殿下、ミカエル殿下、お大事になさって下さい。明日も様子を見に来ますからね。では、私はこれで失礼致します。」
フランチェスコ様が帰ると、僕はミカエル様を食事に誘ってみた。ミカエル様が食事まで疎かにしていたのなら、目の前で食べるところをしっかりと見たい。
「ミカエル様、少々行儀は悪いですけど、ここで一緒に食事しませんか?」
「……良いのか?」
「僕はスープだけですけど、ミカエルは食べたい物を食べてください。薬を飲んだら僕は眠ります。
ミカエル様もその時おやすみになって下さい。ソファではなく、ちゃんと自分のベッドでですよ?
ベッドの上からですけど、お見送りしますからね。」
「ふふ、わかったよシャラン。食事の準備を頼む。軽めが良いな。」
僕は、ミカエル様が少し元気になって安心した。
「シャラン、また食事は一緒にしよう。」
「ミカエル様の都合が良ければ、喜んで。」
お互いに心配しながらも約束に胸を踊らせる。
食事を終えるとミカエル様が薬の準備をした。
手馴れた様子から、ミカエル様が僕に薬を飲ませていたのだろう。
「苦いよ。我慢してね。」
ふと、夢現の中での事を思い出す。口移しで飲ませてくれていたのだ、苦味も知っているのだろう。
改めてそう考えると頬が赤くなる。
「ん? また熱が上がってきたかな。」
「だ、だいじょうぶデス。」
既に、もっと際どい事をしているというのに、こういう事は照れくさい。
「? そうか。さあ、頑張って飲んで。」
ミカエル様に応援されて、思い切って飲む。
「───?! うぅ、苦いです。」
まさか、こんなに苦かったとは……。
すかさず果実水を差し出され、飲み干した。
「よく頑張ったな、シャラン。」
子供にするように頭を撫でられる。ミカエル様に撫でられていると、薬の副作用も加わり眠くなってきた。
「ミカエル様、眠くなってきました。僕は大人しく寝ているので、ミカエル様も安心して眠って下さい。約束通り、お見送りします。」
「ありがとう。シャランが眠れないのは困るから、私も帰って寝るよ。」
ミカエル様は苦笑して、おやすみと額に口付けて部屋を出て行った。
「ステンレス、僕はそろそろ寝るけど、イノックスとステンレスは明日休みだよ。これは命令だからね。
二人の目の下のクマも酷いよ……心配かけてごめんね。もう大丈夫だから、ゆっくり休んでよ。」
ステンレスが噛み締めるように震えた声で言った。
「シャラン様が目を覚まして良かったです……。」
と言うステンレスの頭を、イノックスがぽんとしてあげると、ポロリと涙を零した。
あとはお任せ下さい、と侍女と他の騎士が言ってくれる。
「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
そう言って二人が下がる。
「あの二人も無理してたでしょう?」
僕がそう言うと、侍女達は苦笑して頷いた。
「やっぱりね。みんなもありがとう……ごめん、もう寝るね。」
「はい、ゆっくりお休み下さいませ。」
優しい言葉を聞きながら、シャランは眠った。
41
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる