34 / 54
ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
シャランと情報交換
しおりを挟む貴族のほぼ全員が帝都に集まる社交シーズンの最後を飾る、王家主催の夜会。
そこで正式に僕はミカエル様の婚約者だと紹介される。
そんな大規模な夜会が数日後に迫り、誰もが忙しい中、わざわざスズラン嬢とミラ嬢が時間を合わせて訪問してくれた。
「とうとう、サピラ公爵令嬢と遭遇したとお聞きしました。本当なら、もっと早くシャラン殿下にお会いしたかったのですが、私も容疑が掛かっても仕方がない状況でしたので、今日まで大人しくしていました。」
皇太子妃教育をほぼ終わらせたと聞かされていたスズラン嬢が、今は肩を落とし項垂れている。思わずミラ嬢を見ると困った顔をして頷く。
僕はスズラン嬢がここまで責任を感じているとは思いもよらず、慌てて慰めることにした。
「スズラン嬢の容疑など無かったも同然、一瞬で吹き飛ぶ程度の話だよ? 事件直後に手紙を書いたと思うけど、本当に心配は要らなかったんだよ。
そちらの方に居たネズミも見つけて排除したのでしょう? こちらにも一匹居たけど、早々に捕まえたんだ。下っ端だから、情報はあまり出なかったのだけれど。でも、そちらのネズミと通じていたんだよね。」
スズラン嬢が、顔を上げ答えた。
「はい。新入りだったのと、殿下の所にいたネズミと繋がっていた事、そして情報は同じ男に渡していた、という事しかわかりませんでした。」
僕はスズラン嬢に続いて話す。
「他にも新入りの侍従が姿を消していたんだよ。その男が例の下剤入りのものを持ってきたとのことだった。失礼な話だけど正直なところ、直接会ってみたサピラ嬢に、そこまでの人脈と知恵があるとは思えない、というのが印象かな。」
ミラ嬢が、頷いて学園での出来事を教えてくれた。
「私達も、サピラ嬢に散々色々な事を言われてきましたが、あの方は直接ご自分の目に見えるところで嫌がらせをしてきます。
あの甲高い声から繰り出される口撃が一番多いですし、直情的な令嬢です。
確かに、シャラン殿下に会えない状況だった、と言われればそれまでですが、入れ知恵をした人物がいたのではないかと思うのです。」
ミラ嬢の学園時代の話と、僕の印象は一致する。
頷いてから、少し考えて質問してみた。
「あの二人の護衛騎士は、学園の時からいつも連れて歩いているの?」
「いいえ。初めて見たのは卒業直後の夜会でしたね。しきりに自慢して歩いていたので、よく覚えています。」
スズラン嬢も少し浮上してきたようだ。
「私に向かって、シャクナゲ様と交換しても良いと言われて、本国に貴女の事を連絡すると言ったら、両脇にいた二人が慌てて謝罪してきたのです。
そんな事で済むと思っているのかと言ってやりましたわ。勿論遠回しにですけど。それでも理解出来なかったようなので、正式に公爵家に抗議したのよ。
もちろん、シャクナゲ様にも言いつけてやりました。当然のことながら、サピラ嬢の父親である公爵は、帝国の皇帝陛下からも叱責されたそうです。
父親が青い顔をして謝罪に来た時も後ろにいたのですよ、あの二人。間違いなく、護衛兼お守りでしょうね。
さすがに公爵も、危機感をおぼえたらしくて、しばらく謹慎させていたらしく大人しかった時期もあったのですけど、動き出した途端、このような事を起こしているなんて。」
スズラン嬢は、項垂れているより、怒りをあらわにしていた方が良い……と、いうのもどうかと思うが、少し安心した。普段は凛とした未来の皇太子妃に相応しい令嬢だと聞いているが、僕達の前では表情豊かな女性だ。
「 まあ、ほぼそうなんだろうけど、あの黒髪紫眼の護衛が遮ったからね……厄介だなあ。
ミカエル様やエイデンの方でも動いてくれているらしいから、何か掴んでいるかもね。
『ちょっと進展したよ。』と、ミカエル様から聞いたから。」
ミラ嬢もエイデンに同じように慰められたらしく、頷いている。
「職務上の事なので、流石に詳しくは知らされませんけど、素性を調査していく上で内通者が出来たらしく、情報が入りやすくなったとか。一気に片付くと良いですね。」
その後、届けられた物がどのようなものだったのか、面白おかしく説明して、二人を和ませた。
スズラン嬢は、かなり憤慨した様子だった。
「今回の事が落ち着いたら、またお茶会で本物のおはぎを披露します!」
と怒り気味に言っていた。
帰る頃には、来た時より明るくなった二人を見て、僕はほっとして見送りしたのだった。
46
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる