6 / 54
プロスペロ王国編(ミカエル視点)
シャランと魔力
しおりを挟むシャランが、ハッと自分の勢いに気付くと、恥ずかしそうに椅子に座り直した。
「あっ! つい勢いが余って……すみません、ミカエル様。」
私は笑いながらも、楽しくて仕方がないと言う風に答える。
「あはは、大丈夫だよ。シャランの新しい姿を見れるのが、私はとても嬉しい。」
「えっと───?」
しばらく考えていたシャランは、徐々に顔を赤くしていった。私は思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、グッと我慢しなければならなかった。
「……ごめんね。困らせたい訳じゃないんだ。
───さあ、魔力についてだね。何か知りたいことはある?」
シャランも気を取り直して、魔力について聞いてくる。
「帝国や周辺国では、魔力による差別がないと聞きました。魔力の制御や使い方が学べる学校があるとも。
子供達は幼い頃から、分け隔てなく育てられているのですね。」
「そうだね。平民の子で、よっぽど強い魔力を持って生まれた子は施設で引き取られる事もあるけど、面会に来れば家族には普通に会えるんだよ。
施設には、魔力の暴走を押さえる魔法が施されているから、安心して暮らせる。」
私は自分のイヤーカフに触れる。
「大抵の魔力の多い人達は、制御用の装飾品を身に着けて通常の生活も送れる。ただし、魔力の多さに関わらず制御の方法を学ぶ事が必要だ。
個人で雇って学ぶのも良いし、七歳になると入学出来る学校で学ぶことも可能だよ。
施設の子は魔力が多いから、施設内で制御を学ぶんだ。」
憂い顔で、シャランが言葉を紡ぐ。
「制御を学んだのに魔力が出るのは、やはりちゃんと魔力の制御が出来ていないということでしょうか……。」
私は思わず声を上げて答えていた。
「まさか! シャラン、君は自分がどれ程の魔力を持っていると思っているの?
制御用装飾具無しで、あれ程に安定させてるなんて、素晴らしいことだよ?
もっと自分に自信を持って良いんだ!」
シャランの長年の苦悩は一瞬にして解消された。
「───あ、ぼ、僕は……。」
はらはらと涙を落とすシャランを見て、堪らず隣に移動すると、そっと抱きしめる。
背中をポンポンと軽く叩いてやると、嗚咽を漏らして私に縋りついてくる。
あまりの愛おしさに、ちょうど良い位置にあるシャランの旋毛にキスを落としながら、良く頑張ったね。頑張って偉かったよ。と、囁き続けた。
こんなになるまで追い詰められて、それでも一人で頑張ってきたシャラン。
────愛おしい。
こんなに可愛いのに、王太后が亡くなってから正しい知識も持てずに孤独に過ごしてきたのか?
出来ることなら、そばにいて支えたかった。
どれほど、そうしていただろうか。腕の中に居たシャランがもぞもぞと動き出した。
「す、すみません……お召し物を汚してしまいました。
認められたのが、とても嬉しくて、つい。」
目元を真っ赤にして、いまだに潤んでいる瞳を見ると、また腕の中にしまい込んでいたくなるが、グッと我慢する。
「これまでの努力は凄いことだよ。誇って良いんだ。誰が認めなくても、私が……そして、君のおばあ様が認めてくれるはずだよ。」
「はい……、はい!」
本当に幸せそうに、柔らかく発光している様なシャランは、とても美しかった。
シャランに長く仕えていた者達は、我慢できずに涙を浮かべている。
これだけでもシャランがいかに慕われているのか、わかると言うものだ。
シャランは落ち着いてくると、真剣な目をして私を見つめる。
「ミカエル様、先程の話を聞いて、やりたいことが出来ました。
僕は、この国に魔力の多い子のための学校を作りたい。平民も貴族も通えるそんな学校が。」
シャランはちゃんと先を見据えている。
この様な魔力持ちにとって窮屈な国で、決して平坦ではない道を歩んだだろうに、よくここまで真っ直ぐな気性でいられたと、私には眩しくてならない。
「偶然だね、シャラン。晩餐会の月夜に話を聞いてから、私もその考えが浮かんでいたんだ。」
「でも、僕一人では無理でしょう。ミカエル様に……帝国に、ご協力頂きたい。
父や兄にも、まだ伝えていないのに、このような事を言うのは間違っているのはわかっています。
───でも!」
「シャラン、私もこの国と更に親交を深めるための案を模索していた。この案はきっと通して見せるよ。」
「ミカエル様、ありがとうございます。なんと言ったら良いのか……。」
またも潤むシャランの瞳に、私は笑みを浮かべながら提案した。
「その前に、城下町でどのようにシャランが子供達に教えているのか見てみたい。この案は二人の共同の案だよ。」
「ありがとうございます……ミカエル様。僕の気持ちだけで、先走った案なのに。」
───こんなに優秀な子を扱いきれないのならば、いっそ帝国に攫って行ってしまおうか。
エイデンが確実に引き止めそうなことを考えてしまう。
「まずは、私から陛下に話をするよ。その上で正式にシャランにお願いするね。当然、協力してくれるよね?」
「勿論です! ミカエル様。」
シャランが、明るい表情で返事をする。
「明日以降は、何かと立て込んでるから、都合がつき次第、シャランに連絡するからね。
ピアスを着け忘れてはいけないよ?」
シャランは悪戯っぽく私に頷きながら、こう言った。
「ミカエル様の前でだけ外すのでしたね? 約束は守りますよ?」
───やっぱりシャランを帝国に連れて帰りたい。
クスクス笑うシャランに、私は、またもや心を奪われるのであった。
55
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる