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プロスペロ王国編(ミカエル視点)

シャランと魔力

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 シャランが、ハッと自分の勢いに気付くと、恥ずかしそうに椅子に座り直した。

「あっ! つい勢いが余って……すみません、ミカエル様。」

 私は笑いながらも、楽しくて仕方がないと言う風に答える。

「あはは、大丈夫だよ。シャランの新しい姿を見れるのが、私はとても嬉しい。」

「えっと───?」

 しばらく考えていたシャランは、徐々に顔を赤くしていった。私は思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、グッと我慢しなければならなかった。

「……ごめんね。困らせたい訳じゃないんだ。
 ───さあ、魔力についてだね。何か知りたいことはある?」

 シャランも気を取り直して、魔力について聞いてくる。

「帝国や周辺国では、魔力による差別がないと聞きました。魔力の制御や使い方が学べる学校があるとも。
 子供達は幼い頃から、分け隔てなく育てられているのですね。」

「そうだね。平民の子で、よっぽど強い魔力を持って生まれた子は施設で引き取られる事もあるけど、面会に来れば家族には普通に会えるんだよ。
 施設には、魔力の暴走を押さえる魔法が施されているから、安心して暮らせる。」

 私は自分のイヤーカフに触れる。

「大抵の魔力の多い人達は、制御用の装飾品を身に着けて通常の生活も送れる。ただし、魔力の多さに関わらず制御の方法を学ぶ事が必要だ。
 個人で雇って学ぶのも良いし、七歳になると入学出来る学校で学ぶことも可能だよ。
 施設の子は魔力が多いから、施設内で制御を学ぶんだ。」

 憂い顔で、シャランが言葉を紡ぐ。

「制御を学んだのに魔力が出るのは、やはりちゃんと魔力の制御が出来ていないということでしょうか……。」

 私は思わず声を上げて答えていた。

「まさか! シャラン、君は自分がどれ程の魔力を持っていると思っているの?
 制御用装飾具無しで、あれ程に安定させてるなんて、素晴らしいことだよ?
 もっと自分に自信を持って良いんだ!」

 シャランの長年の苦悩は一瞬にして解消された。

「───あ、ぼ、僕は……。」

 はらはらと涙を落とすシャランを見て、堪らず隣に移動すると、そっと抱きしめる。
 背中をポンポンと軽く叩いてやると、嗚咽を漏らして私に縋りついてくる。
 あまりの愛おしさに、ちょうど良い位置にあるシャランの旋毛にキスを落としながら、良く頑張ったね。頑張って偉かったよ。と、囁き続けた。
 こんなになるまで追い詰められて、それでも一人で頑張ってきたシャラン。

 ────愛おしい。

 こんなに可愛いのに、王太后が亡くなってから正しい知識も持てずに孤独に過ごしてきたのか?
    出来ることなら、そばにいて支えたかった。

 どれほど、そうしていただろうか。腕の中に居たシャランがもぞもぞと動き出した。

「す、すみません……お召し物を汚してしまいました。
 認められたのが、とても嬉しくて、つい。」

 目元を真っ赤にして、いまだに潤んでいる瞳を見ると、また腕の中にしまい込んでいたくなるが、グッと我慢する。

「これまでの努力は凄いことだよ。誇って良いんだ。誰が認めなくても、私が……そして、君のおばあ様が認めてくれるはずだよ。」

「はい……、はい!」

 本当に幸せそうに、柔らかく発光している様なシャランは、とても美しかった。
 シャランに長く仕えていた者達は、我慢できずに涙を浮かべている。
 これだけでもシャランがいかに慕われているのか、わかると言うものだ。
 シャランは落ち着いてくると、真剣な目をして私を見つめる。

「ミカエル様、先程の話を聞いて、やりたいことが出来ました。
 僕は、この国に魔力の多い子のための学校を作りたい。平民も貴族も通えるそんな学校が。」

 シャランはちゃんと先を見据えている。
    この様な魔力持ちにとって窮屈な国で、決して平坦ではない道を歩んだだろうに、よくここまで真っ直ぐな気性でいられたと、私には眩しくてならない。

「偶然だね、シャラン。晩餐会の月夜に話を聞いてから、私もその考えが浮かんでいたんだ。」

「でも、僕一人では無理でしょう。ミカエル様に……帝国に、ご協力頂きたい。
 父や兄にも、まだ伝えていないのに、このような事を言うのは間違っているのはわかっています。
    ───でも!」

「シャラン、私もこの国と更に親交を深めるための案を模索していた。この案はきっと通して見せるよ。」

「ミカエル様、ありがとうございます。なんと言ったら良いのか……。」

 またも潤むシャランの瞳に、私は笑みを浮かべながら提案した。

「その前に、城下町でどのようにシャランが子供達に教えているのか見てみたい。この案は二人の共同の案だよ。」

「ありがとうございます……ミカエル様。僕の気持ちだけで、先走った案なのに。」

 ───こんなに優秀な子を扱いきれないのならば、いっそ帝国に攫って行ってしまおうか。
    エイデンが確実に引き止めそうなことを考えてしまう。

「まずは、私から陛下に話をするよ。その上で正式にシャランにお願いするね。当然、協力してくれるよね?」

「勿論です! ミカエル様。」

 シャランが、明るい表情で返事をする。

「明日以降は、何かと立て込んでるから、都合がつき次第、シャランに連絡するからね。
 ピアスを着け忘れてはいけないよ?」

 シャランは悪戯っぽく私に頷きながら、こう言った。

「ミカエル様の前でだけ外すのでしたね? 約束は守りますよ?」

 ───やっぱりシャランを帝国に連れて帰りたい。

 クスクス笑うシャランに、私は、またもや心を奪われるのであった。

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