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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
愛らしい笑顔に一目惚れ
しおりを挟むどの一角が切り取られても絵になるほど、生活の中に伝統的な建築物が立ち並んでいる。
「流石は伝統のある国だな。ただ出歩くだけでも見応えはある。」
ルクスペイ帝国の第二皇子ミカエルは、外遊先の最後の国、プロスペロ王国にいた。
帝国の北東に位置していて、戦禍にみまわれる事無く、その伝統を長く受け継ぐ国だ。
私は護衛兼側近のエイデンに話しかけた。
「人々の表情も明るいし治安も良いですね、殿下。」
エイデンも辺りを見回し頷くように応える。
「もっと国外からの観光誘致に力を入れれば国も潤うが、治安に問題が出るか……。」
私は通りを駆けていく幼い兄妹を見送り、そう呟いた。
この国は焦げ茶色や黒髪が多く、私の金髪碧眼やエイデンの赤髪翠眼は目立つ為、ローブを纏っている。
信仰に篤く、ローブを纏い聖地巡礼をする者も多い。
──と、学んでいたが、どうやら多くの者は物見遊山としての意味合いが強いのではないかと実際に来てみて感じている。
お陰で二人が悪目立ちする事はない。
しかし、二人とも鍛えられた体格は完全には隠せていない。
私達は滞在することになっている王宮から、城下町へお忍びで視察に来ていた。
ちなみに護衛は見えない所にしっかり付いている。
土産物を扱う店先に、沢山の木彫りの魚を咥えた厳ついフォレストベアが魔石を動力として可愛らしく首を左右に動かしているのを見ていると、意外と売れていくのを知る。
フォレストベアと言えば、気性が荒く大きければ体長五メートルにもなって、帝国に現れれば軍が動き大騒ぎする程の魔獣だ。
子供が可愛いと言って親にせがんでいる。私にはわからない魅力があるのだろう。
珍しい物に乳兄弟でもあるエイデンと言い合いながら、中央へ向かって歩いて行く。
中央広場にたどり着くと、出店が多く並んでいた。
主に飲食物が多く、美味しそうな匂いが漂っている。
見慣れぬ食べ物もあり、興味をそそられる。
もうすぐ昼なのもあってか、沢山の人で賑わっていた
そんな中でも特に人だかりが出来ている所があった。
「なんだ? 出し物でもしているのか?」
「さあ? 此処からではわかりませんね。行ってみますか?」
「ああ。」
何があるのかと、私達は近付いてみた。
人混みに耳をすますと、
「どうなさったのかしら?」
「具合が悪いのなら、誰か呼びに行った方が──」
「いつものやつを見ないと、こっちの調子も狂っちまうな。」
中心にいる人物を見ると、明らかに意気消沈しているのがわかるほど、萎れている。
それを見た人々が集まって来ると、どこからも心配そうな様子がみられる。
すると、直接話しかける者が現れた。
「シャラン様? 今日はどうしたんだい? 良かったら食べな。元気が出るよ。」
出店の女性が揚げ菓子を差し出す。出来立てで良い匂いを漂わせている。
「いつもの元気はどうしたんだ? ほら、絞りたてのジュースも飲んでいつもの元気を見せてくれ。マナ、持って行ってあげな。」
「うん、おとうさん! ちょっとまってね。」
マナと呼ばれた女の子が、しゃがみ込み何かをすると、トテトテと歩いて近付く。
ジュース売りの父親から手渡されたオレンジジュースと一緒に、道端に咲くどこにでもある黄色い花を少女が差し出す。
「きょうの しゃらんさまは、しょんぼりなのね。
きれいなお花をあげる。げんきだして。
いつものキラキラの えがおが みたいの。」
黄色い花と揚げ菓子を受け取った彼は、この国では珍しい銀髪に大きめで金色の猫のような目が印象的だ。
憂い顔で少年と青年の間で危うい色香を纏っていたが、マナの言葉で印象が一変する。
「! ───父上に少し強めに釘を刺されてね、余りの信用の無さに落ち込んでいたけど、元気が出たよ。
ありがとう、かわいいお花だ。嬉しいよ、マナ。
そして皆も心配してくれてありがとう!」
キラキラと舞い散る光を振り撒きながら、愛らしい笑顔で皆に感謝をする姿がまぶしい。
───比喩表現ではない。事実だ。
途端に、周囲で心配そうにしていた民がワッと歓声をあげる。
これだけでも、民衆に愛されているのが判る。
手を振るたびにキラキラと舞う。
「あの髪と目の色……彼は、第三王子のシャラン殿下のようですね。」
エイデンは、私に耳打ちした。
「愛らしい……。」
「は?」
「目が眩むほど、愛らしい笑顔だ!」
「キラキラしてたのは、魔力が漏れてるのかと……。あの、殿下?」
「魔力ではない。あの愛らしい笑顔だ! ……なんだ? この動悸は。」
顔も耳も赤くなっていくのがわかる。
胸をキュウっと締め付けられるようでいて、ふわふわした感覚を味わう。
とにかく初めての症状に戸惑いながらも、シャランから目が離せない。
「…………ミカエル殿下、まさか初恋ですか?」
「こ、コレが、恋……。あの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。」
胸を押さえ、顔を赤くした私を、エイデンは信じられない気持ちで見ていた。
しかし、先程まで集まっていた人だかりが散っている事に気付き、私がいつまでも動かないのを見て、エイデンは何とも言えない表情をしながら、王宮へ戻りましょう。と促されても、
「ああ、シャラン……シャランか。名前まで愛らしい。」
私はその場を動けずにいた。
エイデンは、周囲に居る護衛達に軽く合図を送り、私を引き摺る様にその場を離れ、王宮にある迎賓館へと戻されるのであった。
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