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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

帝都への道~魔力の相性

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 宿の部屋から夕陽に染まる景色を眺める。
 今日、ここに泊まると明日はいよいよ帝都に到着する予定だ。天候に恵まて順調に移動して来れた。
 牧歌的な領地もあれば、かなり栄えた街もあった
 何故か僕の名前を知っていた帝国民達に不思議に思っていたら、どうやら既に婚約の話が帝国内全域に伝わっているらしい。

「恐らく、両親の仕業だね。あの二人は芸術を愛しているから、あの『人間嫌い』で有名な私が恋に落ちたことも、シャランのことも大々的に広めたのだろう。
 そのうち小説やら歌劇にされてしまうよ。兄上が義姉を射止めた時もそうだったからね。」

 そう言ってミカエル様が苦笑している。
 ミカエル様のお父上、イオフィエル皇帝陛下は、国を守る事に注力している方であると同時に、芸術をこよなく愛することで有名だ。
 帝国民の文化が一気に開花したのも、皇帝陛下が即位されてからだと言われている。

「皇妃陛下も芸術がお好きなのですか?」

「父上が母上を見染めたのは、学園時代に母上の書く小説を読んだからだと聞いたよ。」

 そこまで聞くと、現在の状況も納得出来るが、恥ずかしい事には変わらない。

「私は、シャランが好意的に受け入れられて、嬉しいよ。」

 そう言ってにっこり笑うミカエル様。自然と寄り添い、沈む夕陽を眺める。
 ふと隣を見ると、潤んだ瞳で僕を見つめながら、顔を寄せてくる。

 ────ミカエル様。

 自然と瞳を閉じて、口に触れる柔らかな感触。額や瞼、目尻、頬と唇を這わせ、再び唇に戻ってくると、やわやわと唇を食まれ「ん……。」と、思わず声が出た。
 ミカエル様とキスをすると、甘くピリピリと感じるのだ。

 その事を言うと、

『痛かったり、不快だった?』

 と不安そうに聞かれた。
 思い切り首を横に振ると、ほっとした様子で教えてくれた。魔力には相性があるのだと。
 悪いと具合が悪くなる人もいるらしい。

『むしろ、気持ち良いです!』

 つい、焦って答えてしまった。すると、ミカエル様はとても嬉しそうに、

『私もだよ。』

 と教えてくれた。


「何か考え事?シャランは余裕があるんだね。なら、少し先に進んでも良いかな?」

 口付けを離すと、鼻のてっぺんにチュッとされる、

「ち、ちがっ───ん!」

 もう一度、口付けられる。今度は、舌先が唇を割って口腔内に入ってくる。

「んん……。」

 甘い痺れが全身に広がる。クチュっと唾液が混じる音がして恥ずかしい。でも、離れたくない。
 おずおずと舌先をミカエル様の舌に触れた。

「ふぁ。」

 何だか下腹が重くなる。
    ああ、コレは駄目だと思い、そっと離れるとミカエル様は、僕を逃がしてくれた。
 見つめ合うと、ミカエル様の美しい瞳の奥で何かが揺らめいている。

 ───多分、僕も同じ目をしているだろう。

「ミカエル様、僕の魔力は不快ではありませんか?」

「むしろ、心まで温かくて気持ち良い。柔らかく包み込まれる感じだ。
 シャランと私の相性は良いみたいで安心したよ。」

 ミカエル様は、妖しげに笑った。

 その後、丁度食事の準備が出来たと連絡が来たため、危うかった雰囲気が霧散して、夕食へと向かった。心尽くしの夕食を終え、シャランの部屋で、ひとときを過ごすのが日課になっていた。

「帝都に戻ったら、制御用の装飾品にイヤーカフを贈らせて。夏椿のモチーフのもので、私の色をつけて欲しいんだ。
 それに今のピアスだと、いざという時に外して魔法を全力で使える様にするのに時間が掛かるからね。」

 ちなみに、私もシャランの色にするんだよ。と笑って見せた。

「名残惜しいけど、そろそろ部屋に戻るね。明日のお昼には帝都に着くよ。おやすみ、シャラン。良い夢を。」

 扉まで見送りに来た僕に、ミカエル様は軽く合わせる口付けをして部屋を出ていった。

 当然だけど、部屋は別々だ。離れるのは寂しいけど、仕方ないよね。
 窓辺で月を見上げる。僕を月に例えてくれた人。
 ミカエル様もきっと見ている。そんな気がした。


「シャラン、覚悟しておいて。多分、民衆の熱烈な歓迎をうけるよ。」

 今朝、ミカエル様から聞かされていて良かった。
 服装も正装並のものが用意されて、髪型も丁寧に整えられた。仕上げにミカエル様から貰った蝶の髪飾りを着けた。ミカエル様の指示で、夏椿のピアスも着けている。

 途中、休憩があり、最終チェックを受けた後、パレード用のガラス張りの二人乗り馬車に乗り換えた。
    大きく開かれた門をくぐると、地を揺るがすような大歓声が上がった。

「シャラン、手を振ってあげて。」

 言われるがまま、微笑を浮かべ手を振って周囲に返すと、より一層歓声が大きくなる。

「ほら、歓迎されると言っただろう?」

 ミカエル様が、大歓声に負けないようにと、僕の耳元で耳元で話して、微笑んでくれた。すると、どよめきが走った。
 先程とは違う反応に、僕が戸惑うとミカエル様が私の表情が柔らかいことに驚いたのだろう、と苦笑した。
 遠くからも見えていた真っ白い城壁に、青い屋根が並ぶ美しい街並み。そして、帝国民の笑顔に出迎えられた。

 いつの間にか手を繋いでいたミカエル様と一緒に、笑顔で周囲に手を振り返す。
 僕はこれからの帝国での生活に期待を膨らませていった。
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