上 下
25 / 54
ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

帝都への道~ミカエル様への想い

しおりを挟む

 ※ここからシャラン視点になります。
 
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「わぁー! 綺麗だなあ。見渡す限りの稲穂ですね。」

 雲一つない青空と一面の鮮やかな緑色という景色に興奮したシャランは、外の景色に夢中だった。
 ミカエル様は、そんな僕を咎めるでもなく、こちらを優しげに見ている。子供っぽすぎたかと、恥ずかしくなった。

「シャランは長旅は初めてか?」

「はい。本からの知識ばかりで、実際に見るのとは全然違いますね。」

「ここら辺一帯は米の栽培に適していてね、帝国の穀倉地帯だよ。」

 僕は頷きながら、遙か遠くまで続く稲穂を見つめた。
 ミカエル様は、事務官達と仕事の話をしている。本当は遠慮して別の馬車に乗ろうかと思ったのだけど、ミカエル様が、それでは寂しいと言ってくれた。
 大きな馬車なので、隅の方にいようかと思ったのに隣に座らされる。エイデンに、『諦めて下さい。』と、苦笑されてしまった。

 エイデンとミカエル様のやり取りを聞くのは楽しい。お互いに気を許しているのがわかる。
 もちろん、プライベートと仕事は分けられているけれども。
 エイデンの話によると婚約者のミラ嬢は僕の一つ年上で、今年二人は結婚するらしい。式の事などはミラ嬢に任せきりなのかと思ったら、頻繁に魔力を使って手紙をやり取りしていたみたいだ。
 エイデンもだが、ミラ嬢も魔力は高めだということだ。面白いのは、エイデンはミラ嬢の事になると、饒舌になり惚気るのだ。
 チョコレート色の髪の毛に、若草色の瞳が美しい令嬢なのだという。
 エイデンは赤髪翠目だが、瞳の色はミラ嬢より濃いということだ。

「シャラン様の事を知らせたら、是非会ってみたいと返事が来てましたよ。」

 ちなみに、僕は『エイデン』、エイデンは『シャラン様』と呼ぶことになった。
 エイデンが、ミカエル様に呼ばれると、僕はまた一人で外を眺めながら、今までの事を思い返した。



『──シャランのおばあ様は凄いな。』

 心からの賞賛を口に出した。

『───っ! ありがとうございます。ミカエル様。』

 僕は、右目から一粒の涙を流し、本当に心の底から綺麗に笑えたのだった。この瞬間、もう誤魔化せないと悟った。僕はミカエル様の事が大好きだ。
    僕にとってミカエル様は太陽のような人だ。初めて会話した時から、素敵な人だとは感じていた。
 普段、貴族のいる場所では幾重にも張り巡らされた壁があっという間に剥がされた。

 あの日の夜、月の下でも、普段なら絶対に明かさない心の内を見せてしまった。
 ​───いつか帝国に帰ってしまう人。
 そう押し止めていた想いすら、受け止めてくれた。
 笑わずに、僕の王国への思いを聞いてくれた。それどころか、一緒に道を切り拓いてくれた。
 僕の事を愛してくれた人。たくさんのかけがえのないものを与えてくれた人。

 決行の日、囮になることに不思議と恐怖は無かった。だって、ミカエル様が助けに来てくれるから。
 安心させたくて、ミーナの緊張を解してあげようと思ったら、ミーナも自然体で言った。

『心配なんてしてませんよ。シャラン様達が守ってくれるでしょう?』

 僕がミカエル様を信じるように、ミーナも信じて疑っていない。この信頼は絶対に裏切らないと誓った。
 荷馬車の中は辟易したが、建物に着くと猿轡は外されたので、こっそりと会話をしていた。思っていたより、子供達が多い。

 ───守らなければ。

 ミカエル様達だって僕のことを信じてくれている。
 破落戸や犯人達の耳を塞ぎたくなる下衆な会話。聞いてるだけで気分が悪くなる話に、ミーナは顔色は悪くなっていくが、決して取り乱したりしなかった。隙をついてミーナや子供達を合流させられたら守れるはず。

 その時、地下まで揺るがす落雷の音。

 ファッチャモ兄様と────ミカエル様。
 真っ直ぐ僕のところに向かってくるミカエル様。周りの破落戸など視線も向けずに倒しながら向かって来る。助けに来てくれたと喜ぶ心を抑えて、僕の役目を果たそうと、ミカエル様にお願いした。

 そして、ホッとしたその時だった。

 ミカエル様の死角から狙うフードを被った男を見つけた。その殺気に無意識に防護壁を展開する。
 身体が勝手にミカエル様を守るために動いていた。

『ミカエル様!』

 防護壁に阻まれ落ちる暗器にホッとした。暗殺者はまるで消えたように逃げてしまったようだった。
 結局心配させてしまったけど、僕は守られるだけでは嫌だ。僕もミカエル様に相応しい人間になりたい。
 与えられたそれ以上をミカエル様に与えたい。
 想いを伝えた時、想いを返して貰えた時、震える程の喜びが身を包んだ。

 この溢れる想いを全て捧げても足りない。

『焦らなくて良いんだ。少しずつ帝国の事を知っていって。大好きだよ、シャラン。』

 迷子のような顔をした僕に手を差し伸べてくれる。

 そうだ、僕らしく一歩ずつ進もう。いつかミカエル様の隣に立てるように。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...