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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
シャランの成人の儀
しおりを挟む夕陽に染まり始めた頃、ようやく戻ることにした私達は手を繋いで夏椿の小道を歩いていた。
途中、ふと私は聞きたかった事を思い出した。
「ねえ、シャラン。私を花に例えるとしたら、なんの花かな?」
シャランは、一瞬キョトンとしたが、私を真っ直ぐ見つめて答えてくれた。
「他の人達なら華やかな花に例えると思いますが、僕にとってのミカエル様は、ヒマワリです。」
「! そうか、ヒマワリか。嬉しいな。そう言えば、太陽とも言ってくれたね。
実はね、私にとってシャランは月なんだよ。」
「月、ですか?」
シャランが不思議そうな顔をする。
「晩餐会の夜、月下にいたシャランも印象深かったけど、私がずっと一生独りでいようと思っていたのは、以前話したよね?」
「はい。」
「孤独な日々……まあ、家族やエイデンはいるけど、一番大切な人は皆、他にいるから。その点で何となくやはり寂しいと思っていたのかもしれない。
その暗闇をシャランは月明かりで照らしてくれた。
儚くて、でも心強い。控えめだけど見上げずにはいられない。もちろん今は儚いだけではないと、わかっているよ。」
「ミカエル様……。」
繋いでいた手は、指を絡めるものに変わっていた。
「陛下達に報告しないとね。」
シャランが頬を染め、頷いてくれた。
「でも、帝国側は大丈夫なのですか?」
少し不安そうにこちらを見るシャランに、幾分バツが悪かったが、素直に教えた、
「好きな人が出来たと報告したら、全力で落とせと婚約契約書まで送られてきてしまったんだ。ずっと黙っていて、ごめん。
でも、シャランの心が欲しかったから。」
「そうなんですね! 良かった……。反対されたらどうしようかと思いました。」
「むしろ、早く連れて来いと家族全員に言われてるから安心して。」
シャランが繋いだ手をぎゅっと握り返してきた。
流石に王城内では手を離したが、先ぶれを出しておいた国王陛下の執務室には、アントニオ王太子殿下とファッチャモ殿下も待ち構えていた。
「ミカエル殿下に想いを告げました。僕は、一緒に帝国に行きます。」
そう宣言すると、ファッチャモは大きく頷いて、頭をくしゃくしゃになるまで撫でた。
「困難もあると思うが、二人で立ち向かえ! 二人の想いさえ揺るがなければ、未来は幸福なものだろう。」
私と握手した時も、
「同じものを感じる。駆除は徹底的に。」
と、言葉をくれた。
「必ずシャランを幸せにすると誓う。」
と言うと、満足そうな笑顔で「頼む」と言った。
「シャラン、本当にそれがお前の答えなのだな?」
陛下がシャランに最後の確認をする。
「はい。学校創設に関しては、帝国側の方から携わって行きます。僕はミカエル様の側にいたいのです。」
「そうか、わかった。シャラン、ミカエル殿下こちらにサインを。」
「「はい」」
先日、陛下に託した書類が出てきた。二人が名前を書くと無事に婚約が成立した。
今から堂々とシャランは私の婚約者だといえる。
「シャラン、帝国に行っても私達は家族だからな。
なにかあったら、遠慮なく連絡をしなさい。
ああ、せっかく蟠りが解けたばかりなのに、寂しいな。でも、おめでとう。幸せになりなさい。
ミカエル殿下も、おめでとうございます。
シャランの事を、くれぐれもよろしくお願いします。」
「アントニオ兄様、ありがとうございます。」
「はい。アントニオ殿下。帝国にいる家族は、今か今かと待っています。あちらでも大切にする事を約束します。」
夕食に二人とも呼ばれ、王妃様によると、既に輿入れの物が揃えられていたとの事だった。
「ちなみに、護衛騎士イノックスと侍従ステンレスが、夫夫で帝国について行くと立候補してきたらしい。良いか?」
「! はい、嬉しいです。」
「あとは、成人の儀の時に、婚約発表するぞ。アントニオに任せてあるから、後で聞いておきなさい。」
「アントニオ兄様。お忙しそうだと思ったら、この件でも動いて下さったのですね!ありがとうございます。」
シャランがフニャンと笑って見せると、キラキラが飛び散る。それを見た王家の人達は、懐かしそうに見つめていた。その表情は決して、悪感情から来るものでは無かった。
シャランの成人の儀の当日。
その凛とした立ち姿に、思わず見とれてしまった。
青のドレススーツに金糸の刺繍がしてある。
私が贈った蝶の髪飾りが、私の執着を表していた。
当然、夏椿のカフスを私も着けてきている。
銀のスーツに金糸の刺繍。互いの色を身に着けて本日の成人の儀に臨む。
視線だけで会話している私たちを見れば、ひと目でわかるだろう。私達の婚約発表は単なる政略などではなく、互いを想いあってのものだと。
あちらの生活に慣れるため、私の帰国と共に帝国へ行く事が説明される。
余りの速さに驚くだろうとは思っていたが、皆温かく理解してくれた。貴族達の顔ぶれも大きく変わって、空気感もだいぶ良くなった様に思う。
学校創設のために奔走して自信のついたシャランの堂々とした挨拶もまた良かった。
プロスペロ王国の未来は明るいと思わせてくれた。
シャランの婚約者として、二人で貴族達と話をする。シャランは卒なく対応し会話している。
帝国の話は私が引き受けているが、ここでもシャランに惚れ直してしまった。
挨拶する人波が途切れ、流石に疲れてきた頃、二人で庭に出て月明かりの下、ベンチに座りそっと寄り添った。
「シャラン……。」
私の意図を察したシャランは、頬を染め、そっと瞳を閉じた。
触れる唇から、温かな魔力を感じる。
それを幸福に思いながら、その柔らかさを堪能した。堪らなく、シャランが愛しい。
一週間後、私とシャランは王国を出発して、帝国へ向かう事になっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
花言葉
ヒマワリ「あなたを見つめる、憧れ、情熱、光輝、尊敬、 敬慕」
※次回からルクスペイ帝国編(シャラン視点)になります。
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