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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
城下町デート
しおりを挟む以前からシャランと約束していた、城下町でのデート。
───心の中でぐらいデートだと思っても良いだろう。
相変わらず魚を咥えたフォレストベアは売れていた。
シャランの手をさり気なく繋いでみると、振り払われるかとも思ったが、一瞬ぴくりと反応したが、そっと握り返してくれた。
ほんのりピアスの着いた耳が赤い。……可愛い。
見つめていたのに気付いたのか、こちらにチラリと視線を寄越した表情に、ゾクリと背筋に甘い痺れが生じる。
───この衝動が何か気付く前に、本能的に手をブラブラさせて子供のように歩く。シャランはだんだんと楽しくなってきたのか、可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「もうすぐ、シャランの成人の儀だね。準備は進んでる?」
「はい。思っていた以上に忙しいですが、ようやく成人します!
でも、父上達がコソコソ何かしてて、怪しいですけどね。改めてお礼を言わせてください。ミカエル様のお陰で家族と和解出来ました。ありがとうございました。」
シャランの真摯な眼差しに、私は顔を綻ばせた。
「気持ちがすれ違っているのに気付いたから。お互いに言葉が足りなかったんだ。
陛下達は、魔力に関して知識不足だった事もあった からね。ファッチャモは気をつけてたようだけど、途中から軍関係で忙しくなってしまったって言っていたよ。」
「母様にも言われました。『いちばん辛い時に傍にいなくてごめんなさい』って。僕も寂しいと言えなかったのが悪かったんだなって、今ならわかります。」
シャランが晴れやかな表情をしているのを見て、安心した。ずっと少しでも憂いを取り除いてやりたかったから。
「そうか。さあ、ここだ。」
「ミカエル様、 ここですか?」
帝国に本店を持ち、近隣諸国に店舗を展開する老舗大商会の店の前。
「シャランの誕生日プレゼントを頼んでおいたんだ。気に入って貰えると良いけど。 」
両脇に居た警備員が、扉を開けて待つ。シャランを通してから中に入ると、オーナーが私達を見ると笑顔で近づいて来て声を掛ける。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
と、奥の部屋へと案内される。
「こちらが、ご依頼のありました品物でございます。」
そう言って持ってきたのは、私の執着を表したような上品なゴールドにブルーサファイアがアクセントの蝶の髪飾りと、シャランの色を使ったプラチナにトパーズをあしらった夏椿のカフスだった。
「わあ! 繊細な細工の髪飾りですね。本当に動き出しそうな蝶です。」
「金地にブルーサファイアをあしらっておりますので、お二人が並ぶと、より映えましょう。」
オーナーがニコニコと頷いている。
「蛹から蝶になるシャランをイメージしたんだ。良かったら、成人の儀で着けて欲しい。」
「ミカエル様、素敵な誕生日プレゼントをありがとうございます!嬉しいです。喜んで着けさせて貰います。
……ところで、そのカフスは?」
「ふふ、これは私用だよ。これを着けて成人の儀へ出席させてもらうつもりなんだ。」
シャランが頬を染め、嬉しそうに私を見ている。しばらく見つめ合う私達に、エイデンの軽い咳払いが聞こえた。思わず苦笑した私は、オーナーに礼を言うと、店を後にした。
「そう言えば、シャランが囮となった事件の時、野営をしたのだが、ふと二人で買い食いをしたいと思ったのだよ。」
「あの時ですか。ふふ、楽しそうですね。僕もミカエル様と一緒に買い食いしたいです。」
いつの間にか、どちらともなく手を繋いでいた二人を見た、全てのもの達が温かく見守っていた。
「しゃらんさまだー!」
中央広場に着くと、幼い女の子が寄ってきた。
「マナ、元気にしてた?」
「うん! しゃらんさま、おててつないでなかよしね!」
思わず頬を染めたシャランだったが、はにかみながらも、「そうだよ。」と答えてくれた。
マナおすすめのハニーレモンのジュースと、ピタパン、串焼き肉を買うとベンチに座った。
ピタパンは、シャランが野菜と蒸した鶏肉を挟んだあっさりしたもの、私は野菜にジューシーな肉汁を滴らせたお腹に溜まるものを選んだ。
「ん、この串焼き肉はスパイスが効いていて美味いな。」
「ご主人のこだわりのスパイスの配合だそうですよ。ここに来ると、たまに食べてます。
あとは、向こうにあるドーナツも美味しいですよ? ミカエル様は、何でも食べますよね。」
「そうだな。執務をして頭を使うと、特に甘いものが欲しくなる時があるね。
うん、このジュースも酸味と甘みが良いな。」
私達は他愛もない話をしつつ、昨夜から気になっていた事を聞いてみた。
「シャラン、昨夜のカスミソウの花束の花言葉は『会いたい』で合っているか?」
シャランは、ハッと驚いたようにこちらを見た。
「違うか。やはり『感謝』という意味だったか。」
「いえ、合っています。まさか気づいてくれるとは思わなくて……。僕も『感謝』とだけ取られても構わないと思っていたのですが。しばらく、ゆっくりとミカエル様と会えなかったのが寂しくて、カスミソウにしてみました。」
「そうか、合っていたのか。とても嬉しいな。私も会いたくて堪らなかったから。」
二人の間に柔らかな空気が流れる。
「ミカエル様。もし良かったら、これから夏椿の東屋に行きませんか?───お返事、したいです。」
「──っ! ああ!もちろん。」
残りのピタパンを食べ終わると、私達は心持ち早足になりながら馬車まで戻ると、帰途に着いたのであった。
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