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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
新たな歴史を刻む
しおりを挟む室内に重苦しい空気が流れる。
「流石に、今の世代に当時の罪を償わせることは出来ない。しかし、今回の事件では、しっかり罪を償わせるぞ。だが……。」
大昔の国王など断罪できるはずもなく、苦悩する陛下が、ポツリと言った。
「譲位した方が良いのかもしれない。」
「「父上!」」
アントニオとシャランの声が重なった。ファッチャモは、眉間に皺を寄せている。
私は思わず口を開いた。
「先程、陛下ご自身が仰ったではないですか。今の者に罪を償わせることは出来ないと。
ならば、これからこの国を新しく改革していくことで、示せば良い。」
私がそう言うと、国王陛下はゆっくりと頷いた。
「ミカエル殿下……。そうだな、これまでの経緯を明かし、国民の魔力に対する意識改革をすることを誓おう。アントニオ、お前の代も苦労するやもしれぬ。」
「覚悟の上です。父上。」
陛下とアントニオが国民に経緯を明かすことを決意したのだった。
王宮の前庭を一般開放し、急遽国王陛下からのお言葉があるらしいとお触れがあって、大勢の民が集まっている。
祝いの時にしか見られない王族がバルコニーから顔を顔を出すとの事で、皆朝から待っていた。
ようやく現れた王族に歓声があがったが、普段のように、笑顔でこちらに手を振るでもなく、何かあったのかと不安になる程、緊張を隠せない面持ちをしていた。
その異様さに、民衆は徐々に鎮まっていく。
そこで、ようやく国王が話し始めた出来事は、民衆にとって、驚愕の事実だった。
───魔力の暴走による国の危機は無かった。
「かつての愚王を断罪したくとも、既にこの世にはいない。当時、根も葉もない噂を流した者共も同様。
しかし、今現在も蔓延る悪は許さぬ。よって、調べあげた罪状により、厳しい処罰を受けてもらう。この件に関しては、後日、国民にも発表する。」
プロスペロ国王陛下は、静まり返る民衆をゆっくりと見渡すと、高々と宣言した。
「ここに全国民に誓う!」
「二度と同じ過ちを繰り返さぬように、真実を伝え、後世にも残していくことを誓う。」
「愚王の犯した罪を忘れず、三賢王を祖として、この国を導いていく事を誓う。」
「全ての民がより良く暮らせるように、身命を賭し改革する事を誓う。」
大歓声の中、民衆はその日、歴史の一ページを見たのであった。
───この三つの誓いは、新三賢王の名前と共に王国の歴史に残るものになるのは、もう少し先の話。
私は、その夜、全国民へ向けたプロスペロ国王陛下の言葉を聞き、その音声を記録した魔石と共に、
『───この国は繁栄していくだろう。』
と締めた手紙をイヌワシに持たせ、帝国へと報告した。
「なあ、エイデン。王国が手に入れてくれた切り札で、帝国の膿も出してしまうぞ。」
「そうですね。いい加減どうにかしないと、シャラン殿下にも悪影響を及ぼすかもしれません。」
「うっかり落雷に遭えば良いのに。」
「流石にそれはバレるだろうな。」
エイデンが素で返事をする。
「そろそろ返事を貰わないといけないな。」
私は月夜を見上げ、そう呟いた。
国王直属部隊「オッキオ」により、集められた情報から、捕らえた公爵家家に連なる一族、加担した貴族達の悪事を白日の下に晒した。
魔力多い子供を攫い、外国に売り飛ばす人身売買。
違法麻薬、違法カジノ など数えきれない。
国内の膿出しきる様に、処刑、降爵、爵位剥奪、国外追放等、その他細かい所まで制裁を下す。
放逐され、王宮で働いてた者の多くが、入れ替わるように家督を継いでいく。
王宮に残った者たちは、難しい舵取りになるであろうが、元々有能な行政官たちだ。何とかこなしている。
貴族として戻った者たちは、魔力の量ではなくその能力と思想によるものだったため、概ね順調に引き継がれて行く。殆どが、高位貴族が対象だったが、今回見つかった下位貴族の小悪党どもは、すんなり犯行を認めた。
上位貴族への苛烈な制裁に恐れを成していたのだ。
独り立ちする為に騎士団や行政官を目指すのは、家督を継がない貴族出身の者にとっては、うってつけの職業だった。
国王陛下の演説以降、更にやる気が漲っているらしい。
商売により、外国との繋がりを持ち力をつけている下位貴族や新興貴族は、後継者にも魔力量の多い者もいるのだ。勿論、魔力制御用装飾具を着けていた。
正規の値段で出回るようになった制御用装飾具は、常に気を張っていた魔力の多かった者たちに、安らぎを与えた。
そのような者達はシャランの学園創設の動きに賛同している。
国民は、あの言い伝えは嘘で、悪い貴族は尽く処罰されたのを知り、魔力の多い我が子の未来が明るいと安堵した。平民も通える学園創設を進めるシャラン殿下は、平民の味方。良い方向に向かう事になるだろう、と考えている。
もともと識字率は高いので、新聞で情報を得ているものが多く、デマに踊らされる者も少ない。
魔力を隠してた人たちも、民間でも、こっそり伝えられてきた魔力制御の方法のお陰で、堂々と使えるようになった。
全てが良い方向に向かっているプロスペロ王国は、新たな時代に突入するのだろう。
私は、もう少しこの国の行く末を見たいと思うようになってしまった。しかし、帝国の第二皇子としてやるべき事も理解している。
私は帝国側から、この国を見ていこうと心に決めた。
────帰国の期限が迫ってきていた。
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