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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
真相
しおりを挟む私達が帰還してから数日経った頃、ファッチャモが公爵領から帰ってきた。当時の手記を発見した事、今までの悪事の証拠、そして、公爵家の者達を捕らえて来た。
手記は、代々当主となる者の寝室に「魔石」を使って隠されていた。ファッチャモが魔力を流してもわずかにしか反応しなかったが、この公爵家で多くの魔力を持って生まれ、放逐された後、モクレン孤児院に保護され育った騎士団員が魔力を流すと反応したのだ。
この事から魔石には、血縁関係のあるものにしか開けられない仕組みだったらしい。
ファッチャモの魔力に少し反応したのは、かつて公爵家から王妃を輩出したことがあったので、それが微かに反応したのだろうということだった。
この仕組みに気付いたことが、解決の糸口となる。
ようやく手に入れた最後の一手は、国王の寝室に隠されていた。ファッチャモの話から、ごく身近に隠されているのではないか? と導きだされたのだ。
流石に他国の者の私が入る訳にはいかず、シャラン達が国王と共に、執務室と寝室を調べると、寝室の壁に、僅かな魔力の痕跡を見つけた。違和感を感じて魔力を流すと、小さな扉を見つけたらしい。
そこから、見つけた日記が決定打となる。根拠のない魔力の多い者達への差別の理由となった噂。
『大きな魔力を持った者が国を滅ぼしかけた』
その切っ掛けとなった、揉み消された痛ましい事件。
日記には、現在もなお続く高位貴族の名が記されていた。その全てが、魔力を持つ者に特に強く反発する一族。
事件の真相はこうだ。
まだ、この国に魔法学校があった頃、一人の大層美しい少女がいた。その魔力の多さから、魔法学校に特待生として入学した平民の娘だった。
入学した当初から有名だった彼女は、成績も優秀で、将来を嘱望されていた。誰とでも気さくに話す彼女は、男女問わず学校で人気者であった。
───そこに目を付けたのが、数名の高位貴族の者達だ。
日頃から権力を笠に着てやりたい放題。教師からも疎まれたはいたが、迂闊に処罰も出来なかった。
なぜなら、校長と高位貴族が癒着していて、ことある毎に揉み消されてきた。その中に、王族の者が一人在籍していた時期でもあった。高位貴族と付き合う内に、堕ちる所まで堕ちてしまった当時の王太子。
美しい女生徒に声を掛けるも、最低限の挨拶程度で躱される。どんなに甘い言葉をかけても物で釣ろうとしても、靡くどころか酷く冷たい目で見られるようになっていく。
ある日、ある高位貴族の悪魔の囁きを聞く。所詮は平民。女生徒を慰みものにして、囲ってしまおう、と。
王太子は、放課後、女生徒をただの溜まり場と化した生徒会室に呼び出した。
『心を入れ替えた、勉強を教えて欲しい。』
そこで待っていてのは、王太子だけではなかった。
貞操の危機を覚えた女生徒は、咄嗟に逃げようとしたが、捕まってしまう。後の惨事から、何が起きたのか想像するのもおぞましい。
魔力の暴走により学校が半壊した。加害者達は高魔力保持者だった為、魔力防護により辛うじて命は無事だったが、ほとんど魔力を失った。
女生徒は死亡。
学校が半壊した為、流石に隠蔽出来ない。
────そして噂を流した。
『高魔力保持者が、王太子と高位貴族を殺害しようと試みたが、返り討ちにあい死亡。』
このデマが後世まで人々に伝わり歪曲され、現在に至った。
───当時の王太子、後世では愚王と呼ばれ、その王妃共々国庫を食い潰した。我が子達を顧みることが無かったのが不幸中の幸いだった。
周囲は未来の王に、善き王へと導く師となった。賢い子供達は、この国の王が如何に愚かなのか学び、他国の良いところを学び、人を見る目を磨く。やがて、愚者の息のかからぬ高位貴族の娘を娶り、徐々に王宮に蔓延る腐った勢力を削いでいく。
ある年、流行病が国内で猛威を奮った。慌てた愚王と王妃は登城を制限、本人達は人前に出なくなったが『運の悪い』事に、国王と王妃は病に倒れ、やがて儚くなった。
次代の国王となった愚王の息子は賢王と呼ばれ、疲弊した国民に寄り添い国の為に身命を賭した。負の遺産を相殺するのに、賢王の孫の世代までかかったと言われている。
この三世代を『三賢王』と呼び、国民は慕っている。
そこまでしても、諸悪の根源を根絶できなかったのだ。あと少しでその喉笛を喰い破ろうとする度にチラつかせる王家の汚点。
今、王家が斃れると疲弊した国民を犠牲にしてしまう。あの腐った高位貴族どもをギリギリの線で抑えつつ、根こそぎ葬り去る切り札を、代々探し続けてきたのだった。
現国王はずっとその機会を狙っていた。なにより、両親と我が子の為に。
勿論、貴族全てが腐っていた訳では無い。当時を知る貴族はこっそり代々伝えていき、ある新しい貴族は、買い取った昔の屋敷から当時の日記を見つけて事件の真実を知った。他の下位貴族は外国を相手に商売をしているところが多いので、魔力の有無には頓着しないが、高位貴族に目を付けられない様に静観していたのだった。
「この様なおぞましい真相が……。」
アントニオ王太子の顔色が悪い。
陛下もこれ程までの事とは知らなかった様だ。
どうやら、この手記の隠した場所は何処かで途切れたのかもしれない。
「先代の国王も知らなかったのだろう。何故シャランのおばあ様は気付かなかったのだろうな。」
私は気になっていた事を尋ねると、国王が答えた。
「それが、母上との婚約が決まった時点で離宮を建造して、母上の心の安寧の為、なるべく貴族達から遠ざけたのだ。余の両親は惹かれあって結ばれたからな。
父上は、離宮から執務室に通った。帰る暇も無い位、多忙な時くらいしか寝室は使わなかったはず。
そもそも、父上もそれ程魔力は多くなかったからな。」
「なるほど。では、亡き王太后は寝室に入ったことは無かったのですね。」
私は納得したのだった。
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