【完結】私の可愛いシャラン~夏椿に愛を乞う

金浦桃多

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プロスペロ王国編(ミカエル視点)

突入~救出

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 ※流血・暴力表現あり。

 
「来た!」

 帝国側から豪華な馬車と、まるで囚人を乗せるような堅固な馬車がやってきた。小屋の入口に寄せられた馬車の中から、でっぷりとした体型に、これでもかとジャラジャラと貴金属を身に付けた男が降りて来た。

「あの男、帝国でここ数年で大商会にまで上り詰めた男だな。たしか公爵家と懇意にしていたはず。」

 私が記憶を辿っていると、エイデンも頷く。

「ミカエル様に何かと擦り寄ってくるあの女……失礼、公爵令嬢が贔屓にしていましたね。」

「ああ、道理で下品な感じだけではなく、必要以上に嫌悪感があるわけだ。───ん?」

 建物の中から身なりの良い男が現れる。

「あの者は誰かわかるか?」

 ファッチャモに問うと、

「あいつが公爵家の一応、嫡男だ。これで接触してるのは押さえられたが、まだ弱いな。」

 ファッチャモが思案顔で呟く。

「映像と音声記憶用の魔石を使う。あの二人に近付きたい。」

 私が懐から魔石を取り出すとファッチャモは大きく頷いた。

「では侵入するか。待機部隊は周囲の見張りと馭者を捕縛しろ。
     ───ネロ部隊は我々に続け。」

「御意」

 何も無い空間にファッチャモが指示すると、返事があった。先程から感じていた魔力は影だったか。
 ファッチャモを先頭に裏手に周りながら、見張りを簡単に倒していく。そっと目的の窓から覗き込む。
 人の気配はなく、そっと動かすと、鍵は掛かっていなかった。恐らく、ファッチャモ達が発見した時点で、細工をしていたのだろう。

「行くぞ。」

 頷くと、私達は音もなく侵入した。

「シャラン達は恐らく地下に閉じ込められている。
 この地下への入り口のカモフラージュの為に、建物が建てられたのだろう。」

 小声でこれからの進路を確認する。

「気絶させるのは私がやろう。」

 私なら雷撃で簡単に出来る。

「では、そうしよう。証拠を掴んだら、突入の合図を頼む。」

「わかった。」

 そっと廊下へ出ると、見張りが二人だらだら会話していた。

「あんなに攫ってきて大丈夫なのか?」

「さあな? 俺らは貰えるもん貰ったら、さっさと別のところに逃げようぜ。」

「こんな危ない橋を渡るなんて聞いてなかったからな。」

 完全に油断している様子だ。私は魔法を発動して、雷撃を喰らわせると、手慣れた様子でファッチャモのネロ部隊が拘束している。

「こっちだ。」

 ファッチャモが向かったのは、調理場のパントリーにある、不自然な鉄の扉だった。そっと開くと、地下へと向かう無駄に豪華な階段があった。視線を交わし頷くと、階段を降り始めた。
 少しずつ緊張が高まっていく。階段を降りると、右に廊下が続いている。覗き込むと丁度、欠伸をしていた男と目が合う。何かを言おうとするより先に、雷撃を喰らわせる。
 倒れ込む直前にエイデンが身体を支え、物音がしないように配慮した。この男も同様に拘束され 脇に転がされる。
 少し開いていた扉から声が聞こえる。

「何度も申し上げたはずですよ。バレない様に少しずつ慎重に、と。」

 私は即座に魔石を起動して扉の隙間から映像を写し始めた。

「しかし、所詮は捨てられたガキ共です。誰も本気で探したりしませんよ。」

 王国の公爵家の嫡男がコレで本当に大丈夫なのか? まあ、今日でお終いか。

「ですが、急に増やされても、こちらにも都合があります。今回は、男爵家の令嬢と、第三王子だけだったはず。ちゃんと駆け落ちに見える様に細工して来たのでしょうね?」

 でっぷりとした体をゆすり、イライラしているのが見て取れる。しかし、シャランとミーナが駆け落ち?
 シャランも狙われていた?

 ────誰に?

「あー、男と女が同時に消えるんだ。そうみえるんじゃないのか?」

 たった今思い出したのであろう、適当な事を話しているのが丸わかりだ。

「────っ! と、とにかく、その二人分の支払い分しかないので、ほかの分は後日になりますよ。」

「わかったよ、はあ、せっかく捕まえたのにな。」

「『あの方』は慎重に動いております。こちらがヘマをすれば、命が危ないのです! あなた様もお気を付けを! 明朝出発します。」

 その時、破落戸の親玉らしき男が言った。

「なぁ、どうせ性奴隷にしちまうんだろ?
 ここで味見させてくれよ。王子さまなんて、今後一生機会がないだろう?」

「あー! ならオレは、このご令嬢でいいや。駆け落ちなら、初めてじゃなくても問題ないよな。」

「じゃあおれも王子さまにおねがいするかなぁ。」

「ふんっ! 好きにするが良い。趣味の悪い輩だな。───まあ。顔は良いか。」

 自国の王子が、辱められる事に無関心だった男が、シャランの顔に興味を示す。

「駄目ですよ! 商品は『新品』が条件です。」

 親玉は残念そうにしながら、シャランの顔を覗き込む。

「じゃあ、せめてそのお綺麗なお口にお願いするかな。練習だ。コイツらのモン全部しゃぶったら、ご主人様を満足させられる位になるだろう。」

 破落戸たちは下品な笑い声を響かせた。私は怒りに『少々』冷静さを失っていた。
 その時、地下まで震える落雷の衝撃。一瞬にして鎮まる破落戸共と下衆二人は、突然の事に動揺していた。
 正方形の石壁に囲まれた大部屋の入り口には、合図を受けた部隊が揃う。
 コツ、コツ、と前に出るファッチャモ。
 シャン、と剣を抜く時に黒いマントの裏地が真っ赤にひるがえった。
 ファッチャモは獲物を前に殺気剥き出しにして

 ───笑った。

「生きてさえいれば良い! やっちまえ!!」

「おおおおおおおお!!」

     ファッチャモの号令に、士気の高い団員が吠える。長く戦火に巻き込まれずにいた王国。
 帝国の中には、王国も『ついで』に手にいれろと侮る者もいるが、プロスペロ王国は元々自然の要塞とも言える峻険な山々に生息する、凶暴な魔獣の討伐が主体なのだ。帝国に現れると大騒ぎになるフォレストベアを当たり前のように討伐してまわる。一頭だけなら、領民で討伐してしまうらしいのだ。

 ───帝国の愚か者どもも、この姿を見ればその口も閉じるだろう。

 後に、エイデンが言っていた。

『殿下達が殺気立っていたお陰で、寧ろ冷静に対処出来た。』と。
     今回、イノックスを置いてきたのは彼はシャランのことになると我慢出来るか疑問だったからだ。ファッチャモとシャランに説得され、私も彼と約束した。
     まぁ、私もシャランの事になると冷静になどなれはしないのだが。

 私は、まずシャランを侮辱した者、破落戸の親玉を雷を纏った剣で切り付け昏倒させた。
 狭い中で乱戦となると、雷撃では仲間にも被害が出る可能性があるからだ。

「シャラン! 無事か?!」

 途中、羽虫がいた気がするが軽く薙ぎ払っていく。
 こちらを真っ直ぐ見つめているシャランが、安堵した表情を見せた。

「ミカエル様! 大丈夫です。縄を外して貰えますか? ミーナ達を隅に避難させて防護しています。」

 気丈にも他の子達の心配をするシャランに、頼もしさを覚えた。

「ああ、頼む。」

 私も協力して八名の子供達を隅に誘導する。

「あとはシャランも───っ?!」

 ───オレノオツキサマダ

 ゾクリと感じたこちらへ向かう殺気。

 ────その瞬間、

「ミカエル様!」

 咄嗟にシャランがミカエルとの間に立ちはだかる。
     シャランの防護壁に阻まれ、カランと暗器が床に落ちた。

「シャラン!」

「────っ! 大丈夫です。僕の防護壁が役に立ちました。」

 ホッとした私達の耳に、ファッチャモの温度のない声で呟く。

「───ああ、『失敗』した。」

 ファッチャモの斬り捨てた者の足もとには血溜まりが広まっていき、その上に倒れ込んだ。

「チッ!  暗殺者を逃した。念の為コレもどこの手の者か調べておけ。」

「御意」

 周囲を見ると、既に拘束された破落戸が纏められていた。真ん中で、主犯格二人をエイデンが押さえつけていた。

「この二人に雷撃をお願いします。話は王城に帰ってからじっくり聞かせてもらいましょう。」

「わかった。
 ───ああ、出力を『間違えた』弱すぎたか。喚くな、煩い。」

 青白い雷撃を、捕らえた二人に喰らわす。グッタリとした二人が白目を出して気絶しているが、息はしている。

「ファッチャモ、これで丸一日起きないはずだが、念の為、魔力封じの手枷で拘束しておいてくれ。」

「ああ。この二人は護送車に。残りは荷馬車に積んで行くぞ。」

 ファッチャモを先頭に、部隊の半分は公爵家内部の捜索に、残りは王都へ帰還する事になった。
 乗り合い馬車は、実は男爵令嬢だったミーナが子供達の面倒を見る為に乗った。その方が気が紛れるらしい。
 子供達から、当時の状況を聞き次第、元の孤児院に送り届ける予定だ。

 私とシャラン、エイデンは馬に乗る事にした。
 景色を見たいと言ったシャランの要望を聞いてやりたかったからだ。本当はシャランも一人で乗れるのだが、二人乗りしている。
 
「助けられたな、シャラン。」

「……でも、敵はミカエル様を狙っていました。それに後で考えるとミカエル様一人でも対処出来ていたと思って。」

「暗殺は、たまにあるからね。気にしないで。一応、雇い主を捜すけど、見付からないだろうね。それに今回の暗器に毒物が塗られていたんだ。避けられても、掠っていたら危なかった。
 助けてくれてありがとう。シャラン。」

 馬上からシャランを覗き込む。シャランは照れくさそうに、はい。と言った。
 景色を珍しそうに見ていたが、暫くすると、疲れていたのだろう。欠伸を噛み締めながらしばらく頑張っていたがウトウトし始めた。

「シャラン、私に寄りかかって眠っても良いよ。絶対に落とさないから。」

「すみません……少し、だけ……。」

 スー、と寝息が聞こえる。私の腕の中で安心して貰える事に喜びを覚える。

「シャラン、可愛い。」

 私は、すぐそばに愛しい存在を感じながら、休憩地点まで、ずっと機嫌が良かった。


 
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