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プロスペロ王国編(ミカエル視点)
決行
しおりを挟むアントニオ王太子は、ファッチャモが到着して話した後、まずモクレン孤児院のマリア先生に急ぎの手紙を送った。
預かっている少女、恐らくミーナが狙われる事。
その時はシャランも一緒だという事も。
実は、この公爵家の嫡男こそ、マリア先生を傷付け貶めた張本人だった。マリア先生は悩んだが、攫われることには変わらないのだと、直接ミーナ本人にどうするのか聞いた。駄目なら、保護してもらえる事を王太子が約束してくれたからだ。
無理なら女騎士から身代わりを立てることをファッチャモと事前に決めていた。
だがミーナは強い覚悟でやる事を承諾した。
『シャラン殿下はやるのでしょう?
国が変わるなら、私は殿下達を信じるわ。』
そうにっこり笑ったらしい。
決行の日。
孤児院から買い出しに来たシャランとミーナの後を追う怪しい男達がいる。
その後方をフードを被った二人組
───私とエイデンが気配を消して追う。
「破落戸のようだな。コイツらは下っ端か。」
「まあ、そうだろうな。」
細道に入ったところで、破落戸共は手早く二人に猿轡をして麻袋を被せると、用意してあった荷馬車に連れ込んだ。
「────っ!」
「落ち着け。今は我慢の時だ。」
エイデンがいなければ、作戦を壊しかねなかった。
私はゆっくり呼吸して落ち着かせる。
「すまない。そろそろ行くか。」
「ああ。」
乗り合い馬車に見せかけた中身は、帝国と王国の混成部隊だ。平民の格好でいながら、眼光は鋭い。満員なので、一般人を巻き込む事も無いだろう。
会話は今後の方針を綿密にやり取りしているというなかで、シャランの実力は判っていても私はひたすら無事を祈らずにはいられなかった。
一度、通りかかった町で休憩を挟んだだけで公爵領へ向かって行く。シャラン達はちゃんと食事や水分を与えられたのだろうか?
心配していると他の者たちが、さりげなく確認をしていた様で、手洗いや水分補給は確認出来たらしい。
シャランは空腹では無いだろうか? 新たな心配にエイデンは、呆れて言った。
「いざという時、殿下が動けなかったら、どうするんですか? 貴方こそちゃんと食べて下さい。」
そう言われると食べない訳にはいかない。心配で味のしないパンをモソモソと食べると、ふと思いついた事を口にした。
「シャランと城下町で食べ歩きをしてみたいな。」
「じゃあ、やるべき事をきっちりやって、無事救出できるように頑張らないといけませんね。」
エイデンが発破をかけてくれた。確かに、私が弱気になってどうする。一番大変な役を買って出たシャランを無事に助け出すのだ。エイデンの言葉で目が覚めた。
前方の様子を確認して野営をすることになったが、帝国では何度も経験したことがあったので、気遣い無用として一緒に食事をした。ここで帝国から来たものと、王国の騎士達は仲良くなった。
「やはり、同じ釜の飯を食うと仲良くなるものですね。」
「そういうものか?」
エイデンの言葉に、そう言えばシャランと一緒に食事をする様になって、仲良くなったな。と思っていた。
ただ、話題が私とシャランが以前と雰囲気が変わったというもので、本人が目の前にいる事を忘れているのではないかと思ったが。まあ、楽しそうだから、良しとした。
「前方、道をそれて、脇道に入ります。」
翌朝、出発して昼近くに、一報が入る。
「一旦、このまま通り過ぎろ。数名着いてこい。後を追う。」
私とエイデンが降りると、他に三名後に続く。残りはしばらく走ってから、合流する。
「こちらから、例の建物に続きます。」
案内する者が先頭にたち進んでいく。流石に道路を歩く事はせずに、森を掻き分けるように着いていく。
「悪路だな。シャラン達は無事だろうか。」
「とりあえず、身体はギシギシになっているでしょうね。乗り物酔いをしていないと良いのですが。」
先行する団員の言葉に、少し不安になる。
「まあ、お陰で離されずに着いて行けるんだけどな。」
エイデンは飄々としている。ようやく見えてきた建物は、報告通り新しいものだった。馬車はそこに横付けされた。
同じような荷馬車がすでに二台あった。他に家紋の入っていない高級なものが一台ある。
「もしかしたら、思ってた以上に大掛かりな捕物になりそうだな。」
エイデンの目がギラギラしている。
「ミカエル。来たか。」
「ファッチャモ? どうしてここに? お前は公爵邸に行ったのでは?」
私達より先に出発していたファッチャモがこの場に現れて驚いた。
「アレを追って来たら、此処に来た。丁度よすぎるな。しかも、子供達の数が予想より多い。」
「金に目が眩んで危機管理が疎かになったか。」
そこに、報告が入る。
「総員、配置に着きました。」
「帝国側の人間を待つ。合図は……ミカエル、頼めるか?」
「ああ。目的の人物が接触次第、青い雷を落とす。」
「合図は青い落雷。それまで待機。」
「了解です。」
サッと走り去って行く背中を見送る。
建物の周囲にいる、やる気のない見張り共を見ながら、私達は、息を潜めて決行の瞬間を待っていた。
───待っていてシャラン、必ず助け出すから。
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